自分だけのアクリル絵具を作ってみよう

自分だけのアクリル絵具を作ってみよう

PIGMENT TOKYOのコンテンツでたびたびご紹介している絵具の作り方。

今回はアクリル絵具にフォーカスを当てます。


アクリル絵具とは水で溶解でき、乾燥すると耐水性になる絵具。

近代における化学の技術発展によって生まれた色材です。


実はこの絵具、作り方はとっても簡単。こちらの顔料ペーストにアクリルエマルションを混ぜるだけで、すぐに自分だけのオリジナル絵具が完成します。



顔料ペーストには単品での固着力はなく、水溶性の糊材を混ぜることで絵具をつくることができる商品です。

この色材の1番のメリットは、非常にシンプルな組み合わせで絵具が練られていること。

粉状のピグメントから絵具を作ろうとすると、混ぜている途中で粉が舞ってしまったり、比重の関係でメディウムと混ざりにくかったりなど、少々手間がかかることがあります。

しかし、こちらを使えば、誰でも簡単に様々なバインダーの絵具をつくることが可能です。



FEATURESでは当ラボで活躍するアーティストをたくさん紹介しておりますが、今回は私、大矢が自分の作品にこの顔料ペーストを使って制作をしてみました。

現在、私はこのような作品を制作しています。


" The Background Part 1 " Installation view 「Image」series .2020 Gallery K (Tokyo)



この「Image」というシリーズは、取るに足らない都市の風景、増殖を続けるインターネット上の画像データや印刷物など、日々私たちの眼前を通り過ぎていく図像を作品のモチーフにしています。

普段目にするイメージに思考をめぐらせ、色と形という最小限の情報で再構成することで、平面絵画が持つイリュージョンを探究しています。

また、絵画制作やインストール(設置)などのプロセスを通し、絵画がある空間“そのもの”がもつ美学をテーマに活動を行っています。



それでは早速、絵具作りを始めてみましょう。


当ラボではゼッキ、ホルベイン、マツダと3社の水練り顔料を取り揃えています。

ゼッキは瓶入りで沢山量が入っているため、大きな画面を塗る時などに適しています。

ホルベインは非常に粘度が低いため、薄塗りをされる方にはおすすめです。

エッジを生かした表現をしたい方は、適度な粘度があるマツダを使用すると良いでしょう。


今回、私はゼッキの「テンペラペースト」を使用しました。

こちらはテンペラ画を描くために作られた色材なのですが、原材料は顔料と水と保湿剤のみのため、テンペラにはもちろん、アクリル絵具や透明水彩絵具にも利用できます。

今回はオーカー系の作品を制作したいので、こちらの色を使ってみました。




使い方はとってもシンプル。

紙パレットとパレットナイフを用意して、アクリルエマルションと混ぜ合わせるだけで、完成です。量の目安としては、顔料ペーストと同等のメディウムを混ぜると良いでしょう。メディウムの量が少なすぎると、うまく画面に定着しないことがあるため、ご注意下さい。



粘度が弱すぎるとマスキングでエッジが出しにくいので、適度な粘度を出すためにこちらの増粘剤を少量加えます。

ちなみに乾燥を遅らせるリターダーとしての機能もあるため、グラデーション表現をしたい場合にもご利用いただけます。



印刷物のような完全にフラットな面を作りたい場合は、下記のような羊毛の平筆がおすすめです。お手入れもしやすいため、初心者の方でも非常に扱いやすいです。




私の作品の場合はほんの少しだけ塗膜に手作業感を残したいため、馬や狸、マングースなどの平筆を使って色面をつくります。

それぞれ羊毛の平筆とはまた違った、微妙なコシや絵具の伸び具合がありますので、羊毛の筆に慣れたらまた別の種類にチャレンジしても良いかもしれません。




乾燥後、他の場所も色を塗っていき……マスキングを剥がし、画面保護のためにワニスをかけたら完成です。


《Image》Akira Oya, 2021



この記事では、私の作品に合わせてフラットな面を作るためのアクリル絵具を作りましたが、増粘剤を増やしてゆったりと乾燥するアクリル絵具を作ったり、ホルベインのDUOと混ぜることで油分を含んだ水系エマルション絵具を作ることも可能です。



絵具作りに初めて挑戦する方は基底材の切れ端などに試し塗りをしてから作品に取り掛かると良いかもしれません。

まずは気軽に試してみてください。



また私、大矢は3月より銀座は京橋で開催されるグループ展に参加します。

もしよろしければ是非ご高覧ください。



展覧会情報


展示名「ピュシス と ロゴス」展 Part 1

大矢享、外山雄太、戸張花


会場 Gallery K

〒104-0031東京都中央区京橋3-9-7京橋ポイントビル4F

(地下鉄「銀座」駅から徒歩6分、地下鉄「京橋」駅から徒歩2分)


会期 2021年3月1日(月)〜 6日(土)

11:30〜17:00(月曜日と金曜日は19:00まで、土曜日は15:00まで)

※新型コロナウィルス感染防止のため、通常より開廊時間を短縮します。

ご来場の際は、マスクの着用をお願いいたします。




Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。