アクリル絵具の作り方

アクリル絵具の作り方

アクリル絵具は発色が良く、速乾性と耐久性を持ち合わせたアート制作において人気のある素材です。
紙だけでなく、キャンバスや木材、布など、様々な素材に描くことができ、絵画や立体作品から屋外展示品まで幅広い用途に使われています。
PIGMENT TOKYOでは、既成のチューブ絵具の他にも、好きな色や質感を自分で調合できるように顔料や展色剤(糊剤)を取り扱っています。
本記事では、アクリル絵具を自作するための基本的な材料と手順をご紹介します。はじめての方でも気軽に取り組める内容となっていますので、ぜひお気に入りの色を探求してみてください。

 

目次

アクリル絵具とは?
かんたんなアクリル絵具の作り方
手順
 顔料と展色剤が混ざらないときの対処法
 もっと手軽に絵具を作りたいとき
展色剤による発色の違い
応用編
 アクリルエマルション+岩絵具
 アクリルエマルション+エフェクト顔料
 アクリルエマルション+膠+顔料(2種の展色剤を混ぜる)
 アクリルエマルション+顔料+体質顔料

 

アクリル絵具とは?

 

色の粉である顔料は、「展色剤」と呼ばれる糊(のり)剤と混ぜることで、はじめて絵具として使用することができます。
アクリル絵具をつくる場合は、顔料と、アクリル樹脂を原料とした展色剤を使用します。
できあがった絵具は、水と混ぜて使用でき、乾燥すると塗膜が形成され、耐水性が備わるのが特徴です。いちど皮膜化して固まると水では再び溶けないため、重ね塗りやフラットなベタ塗りにも適しています。
また、柔軟性のある塗膜を活かした厚塗り表現から、水で薄めて水彩絵具のような表現も可能です。

 

 

 

かんたんなアクリル絵具の作り方

 

はじめてアクリル絵具を作る方にもわかりやすい方法をご紹介します。
アクリル樹脂は定着力が高く、さまざまな顔料と練り合わせて使うことができますが、それらの性質によっては混ざりにくい色があります。
粉末状の顔料を選ぶ場合は、粒子の細かいピグメントを使用すると、展色剤との馴染みが良く使い心地がなめらかなアクリル絵の具に仕上がります。

なお、今回の記事では、ピグメントを用いて少量の絵具を作る場合に適した工程と道具について記載しています。

 

材料

顔料
・アクリルエマルション

PIGMENT TOKYOのアクリルエマルションは、絵具作りに適した乳化液(エマルション)です。

 

 

道具

・ペーパーパレット
・ペインティングナイフまたはパレットナイフ
・薬匙またはスプーン
・筆洗器/水

 

今回のように、少量のアクリル絵具を作る時は、ペーパーパレットとペインティングナイフを使用することもできます。ペーパーパレットは白地で色が見えやすく、調色にも向いており、一枚ずつはがして使えるので便利です。

 

 

手順


1.顔料をパレットに置く


顔料をペーパーパレットの上に必要な量だけ置きます。
顔料を置くときは、薬匙などのスプーンで、散らばらない様にペーパーパレットの中央にまとめてください。

 

今回は、粒子の細かいこちらの顔料を使用しています。

 

 

2.アクリルエマルションを加える


顔料にアクリルエマルションを加えます。顔料と展色剤は同量(1:1)が目安です。

 

隠ぺい力や耐光性は、顔料の種類や展色剤の量によって異なります。作成した絵具が画面からはがれやすい場合は、展色剤の量をさらに増やすなど、使用する色材に応じて調整しましょう。なお、定着力は使用する基底材にも左右されるので、事前に試し塗りをしてご確認ください。

 

 

 

3.ペインティングナイフで混ぜる


顔料とアクリルエマルションを、ペインティングナイフで混ぜ合わせます。
ナイフは刃の側面をパレットに当て、刃全体を使って押し付けるようにスライドさせると、材料がしっかり混ざります。

 

顔料全体に展色剤が浸透し、ムラや塊などがないように、濡れ色になるまで混ぜてください。
粉っぽく、艶がない場合は、少しずつアクリルエマルションを足して調整しましょう。

 

 

作業中の注意


アクリル絵具は水で薄めて使うことができるアクリル絵具ですが、一度乾燥すると水では再び溶かすことはできません。絵具を作る際は、乾燥しないように注意が必要です。

 

 

4.完成


紙に試し塗りをして、色や質感を確認しましょう。
完成した絵具は水を加えて濃度を調整することができます。

 

 

また、必要に応じてアクリルエマルションを追加したり、さらに粘度が必要な場合は、増粘剤を適量加えてお好みの質感に近づけてみてください。
ただし、増粘剤は乾燥速度を遅くするリターダーとしての効果もあるので、加える量が増えるほど乾燥速度も遅くなります。使用する際は、ご自身でテストをしながら添加してください。

 

 

 

こちらの動画も合わせてご参照ください。

 

 

 

顔料と展色剤が混ざらないときの対処法


粒子の細かい軽量なピグメントは、アクリルエマルションと混ぜると弾かれて混ざりにくいことがあります。その場合は、分散剤を数適加えることで、顔料と展色剤がなじみやすくなり、均一に混ぜることができます。

 

 

 

もっと手軽に絵具を作りたいとき


粉末顔料の代わりに、あらかじめ顔料と水だけで練られた「顔料ペースト」や「水練顔料」を使うことで、より手軽にオリジナルのアクリル絵具を調合できます。アクリル絵具を作るときには、粉末顔料の場合と同様の手順でアクリルエマルションと混ぜ合わせると、同じ特性の絵具ができあがります。

顔料ペーストは粘度が低く、顔料粒子が均一に分散した高分散化状態になっているので、透明感を生かした薄塗りやレイヤー表現に向いています。
一方、水練顔料はやや硬めでコシのあるペースト状で、使う量の調節がしやすく、色のバリエーションも豊富です。粘度のある絵具を作りたい場合や、緻密な混色や色調調整を重視したい方におすすめです。

練り顔料や顔料ペーストは水溶性であれば混ぜることができるので、アクリルエマルション以外の展色剤と合わせて使うこともできます。

 

顔料ペーストをもっと見る

 

水練顔料「粋彩」をもっと見る

 

 

 

展色剤による発色の違い


同じ顔料を使用しても、展色剤の種類によって色の見え方や仕上がりの印象は変わってきます。
アクリル樹脂は接着力に優れ、顔料をしっかりと画面に定着させますが、その際に顔料の粒子を包み込むようにコーティングするため、顔料本来の色よりもやや深みのある「濡れ色」に見えることがあります。
このような色味の変化は、使用する顔料の種類によっても異なります。実際に塗って試しながら、表現にあった組み合わせを見つけてください。

 

顔料ペーストと各種展色剤(メディウム)による絵具の塗り見本

 


また、同じく水系の展色剤にもいくつか種類があり、水彩絵具に使われるアラビアゴム、日本画で用いられる(にかわ)など、それぞれ異なる特性を持っています。
アラビアゴムは乾燥後でも水で再溶解ができるため、作った絵具を保存し、繰り返し使いたいときに便利です。
膠は、顔料の発色や質感を損なわず、顔料本来の色味を生かしたい表現に向いています。


それぞれの展色剤の特徴はこちらの記事でもご紹介しております。

 

 

 


応用編

 

アクリルエマルション+岩絵具


アクリルエマルションの接着力の高さを生かして、通常では基底材への定着が難しい粒子の粗い顔料も作品に取り入れることができます。
たとえば、日本画に使われる岩絵具もアクリルエマルションと混ぜることで、アクリル絵具にすることができます。
岩絵具は粒度によって分類されており、番手の数字が小さいほど粒子が粗くなります。
市販のチューブ絵具にはない、粒子の立体感や鉱物のきらめきをアクリル画作品に取り入れられるのも自作の絵具ならではの魅力です。

 

【使用画材】
色材:新岩絵具 群青(6番/13番)
展色剤:アクリルエマルション

 

 

 

アクリルエマルション+エフェクト顔料


エフェクト顔料を用いて、光の反射や干渉色といった視覚効果を取り入れたオリジナルのアクリル絵具を作ることも可能です。
エフェクト顔料を使った絵具作りについては、こちらで特集しています。

 

 

 

 

アクリルエマルション+膠+顔料(2種の展色剤を混ぜる)


顔料の調合だけでなく、異なる展色剤同士を混ぜ合わせた応用的な使い方もあります。
具体的には、アクリルエマルションと膠を混ぜて、両方の性質を併せ持つ展色剤を作り、それを使い絵具を作ることができます。また、水溶性の油絵具と組み合わせて半油性の絵具を作ることも可能です。これにより、市販の製品では得られないような独自の効果を作り出すことができるので、展色剤それぞれの定着力や、仕上がりの質感に応じて、ご自身の作品に最適なオリジナルの展色剤を研究してみるのもおすすめです。

 

 

 

アクリルエマルション+顔料+体質顔料


市販のチューブ絵具には、製品としての保存性や使いやすさを高めるために、色を添加する顔料だけでなく、質感や粘度を調整する「体質顔料」が加えられていることがあります。
自作のアクリル絵具に、体質顔料としてよく用いられる炭酸カルシウムを少量加えてみることで、絵具の伸びや発色、仕上がりにどのような違いがでるか比較することもできます。素材の配合による変化を体感することで、絵具への理解を深めるとともに、表現の幅を広げるヒントにもなるかもしれません。

 

 

 

自分だけの色やメディウムの調合を研究しながら、ぜひオリジナルのアクリル絵具づくりに挑戦してみてください。

 

 

 

 

花岡 美優

執筆者

花岡 美優

広島市立大学日本画専攻卒業、東京藝術大学壁画第一研究室修了。日本絵画の古典技法を用いて、「土地や文化が持つアイデンティティの再考」をテーマにアーティストとして活動中。

好きなマチエール:絵画を取り巻く環境によって画面上に蓄積される、損傷・欠損と修復の痕跡

広島市立大学日本画専攻卒業、東京藝術大学壁画第一研究室修了。日本絵画の古典技法を用いて、「土地や文化が持つアイデンティティの再考」をテーマにアーティストとして活動中。

好きなマチエール:絵画を取り巻く環境によって画面上に蓄積される、損傷・欠損と修復の痕跡

白石 奈都子

編集・執筆者

白石 奈都子

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。

好きなマチエール:紙 躍動感のある木の繊維

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。

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