顔料は製造技術の進歩により、ますます多彩で深みのある色彩を生み出すことが可能になりました。そのひとつに、エフェクト顔料は新たな可能性を広げるアイテムとして注目されています。
本記事では各エフェクト(パール)顔料の特徴と、色を選ぶ際のポイントと併せて詳しくご紹介します。
エフェクト(パール)顔料について
元来は天然素材の鉱物や金属由来のものが親しまれてきました。
現代では、鉱物や金属の化学反応を利用したものや、基材に異なる物質で被覆処理をした合成顔料が主流です。なかでも最新技術により作られた雲母や金属、ガラスを基材に被覆処理が行われたものが輝度が強く、光学的な視覚効果を持ちます。
その最大の特徴は、他の顔料には無い光の反射や屈折により色が変化して見える偏光や、金属やパールをしのぐ光輝感ではないでしょうか。
多くのエフェクト顔料は、主に自動車の塗装や化粧品などの工業製品や印刷現場で使われますが、PIGMENT TOKYOで取り扱う商品は全て画材用です。
偏光(干渉)とは
偏光とは光の干渉により現れる現象です。偏光顔料は光の当たり方や見る角度で色調が変化して見えます。また、光の干渉現象によって生じる色は干渉色とも呼ばれ、光沢のある色の縞(干渉縞)が見えます。
種類と特徴
エフェクト顔料の主な基材に五種の物質が使われており、その種類によって特徴や効果も変わります。基材自体に色はありませんが、素材の特性や被覆している物質、コーティング剤の種類や厚さなどの影響で表れる色が異なり、同じ基材や色種でもその効果はひとくくりにできません。
商品説明に記載されている粒子径の単位「µm(マイクロメートル)」は、mm(ミリメートル)よりも小さく、nm(ナノメートル)よりも大きなサイズです。
・大きさの順序...1nm < 1μm < 1mm
主な基材
◾️雲母(うんも)/マイカ
最もポピュラーな基材で、英語名「Mica(マイカ)」でも知られています。本来は天然鉱物を指しますが、現代では天然と合成があります。また、画材用顔料としても使用されています。
特徴
・粒子径の幅が広い
・顔料の種類も多い
[Py] ...特別に開発された酸化チタンで被覆
[Ir] ...金属酸化物の層で被覆
フラメンコ ...酸化チタンと酸化鉄で被覆
インテンザ ...合成マイカに安全性の高い有機色素を融合
クロイゾンネ ...酸化チタンと酸化鉄で被覆
デュオクロム ...酸化チタンと酸化鉄で被覆
ジェムトン ...酸化チタンと酸化鉄で被覆
雲母の歴史や詳細は、こちらの記事をご参照ください。
◾️シリカ
ミネラルの一種、ケイ素を構成元素に含む物質です。
特徴
・見る角度により反射する光や干渉色が変化する
・白色度が高い
[Co] ...酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物を被覆
◾️ガラス
ガラスの特性が生かされた透明度と光輝感が特徴です。
特徴
・高透明性
・高粒子感/粒子径が大きい(〜200μm)
・視覚的な光輝感が強い
[Mi] ...ホウ珪酸ガラスに金属酸化物を被覆
メタシャイン ...フレーク状のガラスに金属や金属酸化物をコーティング
◾️アルミニウム
色や光を反射する性質が強い、銀白色の金属です。
特徴
・メタリック調
・隠蔽(いんぺい)力が高い
・不透明(比較対象:PIGMENT TOKYOで取り扱うエフェクト顔料)
クロマシャイン® ...アルミニウムフレークにシリカ層を被覆+金属粒子をメッキ
アストロフレーク ...アルミニウム箔に着色(着色樹脂:変性アクリルタイプ)
◾️アルミナ
アルミニウムの酸化物です。
特徴
・高彩度
・高輝度
[Xi] ...金属酸化物を被覆
[Me] ...基材に高純度のフレーク状アルミナを使用したペースト状顔料
エフェクト顔料の選び方
PIGMENT TOKYOで取り扱う商品数は15種類に及び、全部で200色以上にのぼります。(2024年11月現在)
しかしながら、数多くの種類からイメージする輝き方や色合いを見つけるのは至難の業です。こちらではエフェクト顔料の特徴を表すキーワードをもとに、いくつかご紹介いたしますので、顔料を探す際にご活用ください。
塗り方や技法、併用するメディウムや糊剤によっても色味が変わりますので、ぜひご自身で表現に合わせたサンプル作成やテストをしたうえでお使いください。
※商品画像と実際の見える色が異なる場合がございます。予めご了承ください。
<偏光を楽しむ>
偏光顔料には下地の色により塗った色が大きく変化して見えるものがあります。たとえば、黒地と白地に同じ色を塗った時に、それぞれ異なる色が表れるような現象です。
これは透明性の高いエフェクト顔料は下地色の影響を受けやすいので、そのため塗布面の色が変わる現象です。
一方、透明性が低く隠蔽力の高いものは下地の色の影響を受けにくいので、ベース色に関わらず表現のアプローチができます。
<輝きのある発色を楽しむ>
同じ色でも光沢の有無により印象が変わるように、類似の色調でも偏光の度合いや透明性、顔料の粒子の大きさでビジュアルカラーが変わります。エフェクト顔料ならではの発色もあります。
◾️下地の色により塗布色が大きく変わるもの
高い透明性により、下地の色の影響を受けて塗布面の色が変わる特性がある顔料の一例をご紹介します。[Py] フラメンコ
基材:マイカ
下地の色により塗布色が大きく変化します。
繊細な粒子が引き出す、シルクのように滑らかで洗練された光沢感です。発色の美しい [Py]と、フラメンコの落ち着いたラインナップからそれぞれの個性が感じられます。各商品ページよりお好みの色を見つけてください。
[Py] の展色材にアクリルエマルション、ジェルメディウムを使用した比較記事では、下地の色とメディウムの違いだけでなく混色による色の機微をお楽しみいただけます。
デュオクロム
基材:マイカ
RBは黒地の塗布面は紫系、白地ではピンク系、一方YBは黒地がグレー系、白地ではサーモンピンク系の色味が表れます。他の色はこの2色に比べると、緩やかな色調の変化が楽しめます。
デュオクロムの商品名末尾についているアルファベットは色の特徴を表しており、先頭がベースカラー、2つ目が偏光色を示しています。
RBの場合:ベース...R(Red) 偏光色...B(Blue)
アルファベットの色:R = Red/Y…Yellow/G = Green/B = Blue/ V = Violet
[Ir] スカラベ レッド 9507 と [Ir] ルチル レッド パール 215 を粒子と絵具、基底材の色の違いによる塗布色を比較したサンプル画像をこちらの記事に掲載しています。
[Co]
基材:シリカ
偏光によって色相が顕著に変化するT20シリーズと、隠蔽力の強い F20シリーズをご用意しています。
[下地色による塗布色が大きく変化する色]
[Co] ラピスサンライト T20-04 [Co] ヴィオラファンタジー T20-01 [Co] トロピックサンライズ T20-03
[Mi]
基材:ガラス
粒子径Φ10-100µmのシーニックシリーズと、見た目にも顕著な粒子感のあるΦ20-200μmのマジックシリーズやトゥインクルシリーズなどの5400系があります。
[下地色による塗布色が大きく変化する色]
メタシャイン
基材:ガラス
全色、下地の色により塗った色が大きく変化します。
大きな粒子が放つ光輝感は、ガラス基材の視覚的効果が最も感じられます。
粒子径は、Φ80µm(チタニアコート 1080シリーズ)、Φ90µm(シルバーコート 5090シリーズ)、Φ150µm (シルバーコート 5150シリーズ)、Φ480µm(シルバーコート 5480シリーズ)、Φ600µm(チタニアコート 5600シリーズ)と幅広くあります。
大きな粒子のメタシャインは、絵具として使うときも定着力のあるバインダーが必要になります。アクリル樹脂や絵具と混ぜたサンプルテストの様子は、こちらよりご覧いただけます。
基材:合成アルミナフレーク
粒子径Φ5-30μmが生み出すきめ細やかな色艶と、アルミナ基材の高い光輝性と輝度感が感じられます。
[下地色による塗布色が大きく変化する色]
◾️下地の色にあまり影響されないもの
下地の色を問わず、光の色彩効果を引き出せます。
基材:アルミニウム粉
クロマシャイン®は新しいタイプのメタリック顔料です。
隠蔽力に優れ透明性が低いので、他のエフェクト顔料に比べると下地色の影響を強く受けずに発色します。
クロイゾンネ ジェムトン
基材:マイカ
きめ細かい艶ややかなクロイゾンネと、少しマットカラーなジェムトンは、クロマシャイン® よりも光輝感と隠蔽力は控えめです。
ジェムトンの色味に焦点を当て、アクリル絵具のサンプル制作した記事もございます。
◾️鮮やかなカラーエフェクト
こちらも下地色の影響を受けにくいので、さまざまなシーンで華やかで美しいエフェクトカラーを発揮できるでしょう。
[Me]
基材:高純度アルミナフレーク
細粒子でペースト状に作られた、高輝度かつ彩度の高いオレンジ・イエロー系エフェクト顔料です。
インテンザ
基材:合成マイカ
インテンザ独自の極彩色と、優れた分散性などについてはこちらの記事でご紹介しています。
重厚感のあるアストロフレークは、顔料の粒子が粗いことから、用途に合わせて糊剤を工夫する必要があります。特集記事でアラビアゴム、アクリルエマルション、ジェルメディウムと練った各絵具の塗りサンプルとポイントを説明しています。
◾️金・銀・銅
ベーシックな金・銀・銅の顔料については、こちらの記事で特集しています。
使い方
当ラボのエフェクト顔料は、膠、アラビアゴム、アクリルエマルション、オイルカラーメディウムなどの糊剤と練り合わせることで各種絵具をつくることができます。また、それ以外の市販の絵具やメディウム、画材と併用することも可能です。
基本的な絵具の作り方は、こちらをご参照ください。
さらに表現の幅を広げ、より複雑な表情に挑戦してみたい方には、エフェクト顔料を使った応用的な使い方の特集記事もおすすめです。
なお他の顔料同様に、粒子の粗細さだけでなく比重が異なるので種類により水系絵具に混ざりにくい場合は分散剤を入れると、均一に美しい発色の効果を得られます。
素材の特性と最先端技術が結びつき、光の効果によって新たな表現を生み出すエフェクト顔料は、無限の可能性を秘めています。その煌めきが生み出す多彩な表現力をぜひ引き出してください。