光彩を添えるカラーエフェクト [Ir]

光彩を添えるカラーエフェクト [Ir]

更新日:2024年10月17日

 

顔料には、自然由来の天然顔料や、製造技術が発展して作られた合成顔料など様々なものがありますが、近年普及し始めたのがエフェクト顔料です。私たちの日常でも使われており、工業製品にも用いられています。

特徴は、パールやメタリック系、気品のある光沢や自然を彷彿とさせる色彩やアーティフィシャルな色と、種類により変わります。従来の顔料とは性質の異なる多様な視覚効果は、アーティストやデザイナーなどの表現者だけでなく、多くの人々を魅了する顔料のひとつです。

PIGMENT TOKYOでは、絵画用のメディウム(定着剤)と混ぜ合わせることで「絵具」として使用することができるエフェクト顔料をご用意しています。

今回は、PIGMENTが取り扱う200種類以上のエフェクト顔料の中でも、色幅が広く、種類の多い [Ir] を探ります。

 

エフェクト顔料 [Ir] 

 

 

[Ir] の特徴

 

薄い板状の天然の雲母(うんも)をベースに、金属酸化物の薄い層でコーティングした顔料です。

30色以上あるその色種は、滑らかな色合いから輝度の強いもの、偏光するもの、透明度など、その視覚効果は多岐にわたります。

PIGMNET TOKYOのエフェクト顔料の中で、もっともバリエーションが豊富です。天然の雲母より輝度も高いので、より輝きを感じることでしょう。

偏光する顔料は、塗布した基底材の色により塗布した色面の見え方にも影響します。なかでも、視覚差が著しい2種の干渉色、「スカラベレッド 9507」と「ルチル レッド パール 215」に焦点を当て、顔料の粒子と絵具にしたときの分散の違いと、基底材の色による色面の変化を比較いたします。



顔料の粒子と分散の比較

 

最初はメディウムと水を入れず、顔料の粒子状態で比べます。

 

[Ir] スカラベレッド 9507 

 

 

スカラベレッド 9507は、バーガンディ系の色合いが強い印象ですが、光が当たったところは青く輝き、この段階でも [Ir] の持つ偏光作用を感じられます。

また、粒子の集積部は黒く、分散部では赤味が増し、視点の角度によりその色味の深さも変わりました。




[Ir] ルチル レッド パール 215

 

光輝感は控えめで、光が当たったところにほのかな緑と赤の輝きがあります。なお、粒子径はスカラベレッド9507より若干大きく、紙の上に広げたときにもその差をわずかに感じられます。



次は白陶の絵皿に各顔料とアラビアゴム、水を入れて練っているときの様子です。

スカラベレッド 9507 と ルチル レッド パール 215 は、同じ赤系ですが、絵具の状態でも干渉の様子が大きく異なります。
なお、今回は双方とも比較的混ざりやすい顔料でしたが、エフェクト顔料も種類により比重が異なるので、混ざりにくい場合は分散剤のご使用をおすすめいたします。


 

 

 

基底材の色による色面の変化

 

[Ir] スカラベレッド 9507

スカラベ(Scarab)とは、古代エジプト語で黄金虫の一種を指します。特に古代エジプトの宗教や芸術に深く関わり、神聖視されていたと言われています。また、スカラベの多くは黒や茶の体色ですが、品種により鮮色やまた玉虫色に輝くもの、金属室の光沢を持つ種もあり、その色合いは実に様々です。

絵具にすると、その色艶はスカラベを彷彿とさせます。

 

 

 

 【使用画材】
色材:[Ir] スカラベレッド 9507(PIGMENT TOKYO Original)
メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム(クサカベ)
基底材:白...竹和紙 水彩画用(アワガミファクトリー)
    黒...上質紙

白と黒、どちらの基底材も、僅かな光の条件の違いで緑と深紅の輝きが現れました。黒い方がさらに深みが増しますが、偏光作用によるエフェクトの違いがご覧いただけるでしょうか。
また、赤から緑へと光の当たり方で色相環における反対色のグラデーションが見られることも、あまり他の顔料ではみられない個性的な美点かもしれません。

 

 

[Ir] ルチル レッド パール 215

顔料の粒子状態ではホワイトに薄くピンクペールをかけたような色味でしたが、どのように変化するのでしょうか。

 

 

 

【使用画材】

色材:[Ir] ルチル レッド パール 215(PIGMENT TOKYO Original)
メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム(クサカベ)
基底材:白...竹和紙 水彩画用(アワガミファクトリー)
    黒...上質紙


白い紙に塗布したときは、光が強く当たると淡いピンク、光の照射が弱い部分はわずかにアッシュ系パールグリーンが見られます。一方、黒い紙はピンクと赤味のパープル感が強く表れました。
ベース色による偏光作用の色彩差が大きいので、その特性を生かしたアプローチができるのではないでしょうか。
同じ色種でも光の影響の受け方が異なり、鮮やかな色から控えめな偏光色まで実に多彩です。

 

「分散の比較」の項目に掲載した、白陶の絵皿に乗っている絵具の画像と、紙に塗布した画像を比較しても、光沢感だけでなく色調や彩度も変わります。このようにエフェクト顔料は基底材の色だけでなく、素材の違い、サイジングによっても、トーンが移り変わります。
平滑な素材の方がより美しい光輝性を発揮しますが、基底材と顔料の特性と表現方法を探りながら、ご自身の用途や表現に合わせてお試しください。

基底材の比較サンプルでは、素材感のある竹和紙の水彩画用(白)と凹凸の少ない市販の上質紙(黒)を使用しましたが、ぜひ様々な素材でお試しください。

 

 

秘める可能性のある光輝性顔料。光と色の探求から成る色彩の世界は、新しい表現の道に繋がるかもしれません。

Profile

白石 奈都子

PIGMENT TOKYO

白石 奈都子

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。