基礎知識を解説した前回の記事に続き、今回はオイルスティックの「表現の拡張」がテーマです。
本記事では、従来の油絵具(ペーストタイプ)やオイルパステルといった類似画材と比較しながら、オイルスティックならではの特性を深掘りします。さらに、異素材との融合によって生まれる多彩な効果についても詳しく解説します。
直感的な使い心地はそのままに、本格的なミクストメディア(混合技法)や新しいマチエール作りにも真価を発揮するオイルスティック。創作の衝動をダイレクトに形にする、より自由で実践的な活用術をご紹介します。
オイルスティックの特徴や基本的な使い方については、こちらを参照してください。
目次
類似画材との違い

【使用画材】
基底材:耐水・耐油製 特殊加工紙(ペーパーパレット)
オイルスティック:574 プライマリーイエロー/686 プライマリーレッド
原料や形状が似ている画材として、従来の油絵具(ペーストタイプ)やオイルパステルが挙げられます。これらは、いずれも「オイル」を展色剤(糊剤)として使用している点で共通していますが、成分の違いにより特性は異なります。
従来の油絵具(ペーストタイプ)との比較

原料の違い
従来の油絵具は、顔料と植物性乾性油に、天然または合成樹脂や乾燥促進剤などを混ぜて作られています。 一方、オイルスティックの原料は、顔料と植物性乾性油(サフラワーオイルなど)、そしてミネラルワックスです。大きな違いは成分にワックスが含まれているかどうかで、それにより特性が変わります。
ワックスによるオイルスティックの特性
・形状の維持
絵具をスティック状に固め、直接手で持って描けるようになっています。
・皮膜の形成
表面に薄い皮膜を張りやすいため、内部の乾燥を助けつつ、表面のベタつきを比較的早く抑える効果があります。
特長と得意な表現技法
同じ油絵具のカテゴリーでも、成分や形状の違いにより得意とする技法は大きく異なります。 以下の比較表を参考に、それぞれの特長を生かしたアプローチにお役立てください。
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オイルスティック (固形油絵具) |
従来の油絵具 (ペーストタイプ 油絵具) |
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主な特長 |
直観的 ダイナミックなストロークが可能 |
本格的 構築的 |
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厚塗り インパスト |
推奨 1mm以内 ※厚すぎると剥離やひび割れのリスクあり |
自由な盛り上げが可能 ※ファット・オーバー・リーン*でひび割れ防止 |
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重ね塗り レイヤリング |
下層の表面が乾燥後に可能。 ウエット・オン・ウエット* スクラッチ技法 |
下層の表面が乾燥後に可能 ※ファット・オーバー・リーン*を推奨ウエット・オン・ウエット* |
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混色 ブレンディング |
画面上で色を重ね指や布で擦り合わせる |
練り合わせてムラのない色を作る 繊細な色の調整が可能 ※パレット上でペインティングナイフ等を使用 |
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ぼかしの質感 |
ドライな質感を生かした物質的なぼかし かすれや厚みを活かした表現 |
ウェットで流動的 筆跡の消えた滑らかな表現が得意 |
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線描
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エッジ(角)を使って描く |
溶き油で流動性を高めて専用筆で描く ※均一な細い線の場合は粘度調整や技術が必要(粘度が高く筆が走りにくい) |
*ファット・オーバー・リーン/Fat over lean:
上の層ほど油分(Fat)を多くし、下の層ほど油分を少なく(Lean)する油絵技法。
*ウエット・オン・ウエット/Wet-on-wet:
乾いていない(Wet)絵具の上に、さらに乾いていない(Wet)絵具を重ねて描く技法。画面上で絵具を混ぜ合わせること。
油絵具の商品はこちらをご覧ください。
| ミノー油絵具 |
| ラスター 専門家用油絵具 |
オイルパステルとの比較

形状は似ていますが、最大の違いは乾燥して「固まるか、固まらないか」という点です。
オイルパステルは基本的に乾燥しないため、準備や片付けが簡単で、紙にそのまま描ける手軽さがあります。対してオイルスティックは「油絵具」そのものであるため、乾燥後はしっかりと固着し、油彩特有の重厚感が出せます。 作品の用途や、組み合わせる画材など、目的に合わせて使い分けてください。
成分の違いによる特性比較
展色剤(オイル)の性質が異なるため、乾燥や固着のプロセスには決定的な違いがあります。原料の違いがどのように使い勝手や仕上がりに影響するのか、以下の表にまとめました。
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オイルスティック |
オイルパステル |
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種類 |
固形油絵具 |
パステル類 |
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原料 |
顔料 乾性油(サフラワーオイル等) ミネラルワックス |
顔料 不乾性油(少量のミネラルオイル等) ワックス(少量) 非乾性結合剤 |
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乾燥・硬化 |
する(酸化重合) 空気中の酸素と反応し時間をかけて完全に硬化 |
しない(非重合) 油分が乾かず柔らかい状態が続く |
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基底材への固着 |
強固に固着する 下地処理を施した基底材が必要 |
完全固着はしない(定着はする) 紙の繊維などに物理的に付着するのみ |
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基底材の下地処理 |
必須 |
下地処理なしで可能なものが多い ※下地剤を推奨する素材もある (ガラスや金属など) |
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重ね塗り レイヤリング |
下層の表面乾燥後に可能 |
すぐに可能 |
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仕上げ・保存性 |
保護ワニス等を塗布(完全乾燥後) ※必須ではない※保存性・耐久性が向上 |
専用定着液(フィキサチフ)を散布 ※表面のベタつきや色移りを抑えるために推奨 |
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その他・留意点 |
使用前に皮膜除去が必須 ※スティック自体が乾燥しないよう保管に注意 |
すぐに使用・片付けができる 面描き(側面で描くこと)が可能 |
【オイルパステルの上に油絵具(オイルスティック)を使う場合】
乾燥・硬化する性質を持つ油絵具は、乾燥しないオイルパステルの上に重ねることはできません。 オイルパステルの上に、オイルスティックなどの油絵具を使用すると、絵具が固着しません。
下層が固まらないため、上に塗った絵具が剥がれたり、亀裂が生じたりする原因となります。
ただし、作品の耐久性を考慮される場合は、テストや最初からオイルパステルを塗る箇所を計画的に分けて描いてください。
オイルスティックを楽しむ表現技法

オイルスティックと異素材(色材・メディウム)を組み合わせ、様々な基底材に描いたミクストメディア応用例です。 素材ごとの定着性や発色の違いなど、制作のヒントとしてお役立てください。
基本的な使い方や表現のバリエーションについては、こちらのページで詳しく紹介しています。
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【PIGMENT ARTICLES】 固形油絵具「オイルスティック」使い方の基礎:描く楽しさと出会う |
ミクストメディアによるマチエール
アキーラ(水性アルキド樹脂絵具)╳ オイルスティック

【使用画材と技法】
基底材: 竹和紙 水彩画用
下地: アキーラ モデリングペースト
オイルスティック:
385プライマリーブルー(画像左・右)
686 プライマリーレッド/ 574 プライマリーイエロー(画像右)
溶剤・画用液: なし
【使用画材】
基底材: 竹和紙 水彩画用
下地: アキーラ カーボンブラック No.067
オイルスティック: 116 チタニウムホワイト
溶剤・画用液: なし
アキーラは「水性アルキド樹脂」の絵具です。 水溶性でありながら油性の性質も併せ持つため、油絵具と併用もできます。紙やキャンバスだけでなく、金属やガラスにも描くことができます。表面はアクリル絵具のように早く乾きますが、内部は油絵具のようにゆっくりと硬化するのが特徴です。
アキーラを下地に塗ることで、本来油染みしてしまう「紙」にもオイルスティックを使うことができます。マチエール(絵肌)を作ったり、色をブレンドしたりと、多彩な下地作りが楽しめます。
もちろん、オイルスティックの塗布面の上からアキーラを重ね、「サンドイッチ構造」にし、作品の堅牢性を高めたり、奥行きを出したりすることも可能です。
| アキーラ アルキド樹脂絵具 |
カラーチタンパネル╳ オイルスティック

強度と耐食性に優れたチタンの特長はそのままに、酸化被膜による豊かな干渉色が楽しめる「カラーチタン」。意匠性と機能美を併せ持つこのパネルの上に、プライマリーブルーを塗り広げました。
プライマリーブルーは質感が柔らかく、かつチタンの表面が平滑なため、乾燥前に引っ掻いて綺麗な線を出すには、先端が鋭利なツールが必要です。(※色や制作環境によりオイルスティックの硬さも変わります。)
ぼかしを作る際は、ペインティングナイフやペーパータオルを使い、絵具のマチエールも繰り返し調整しました。 その結果、下地のカラーチタンが放つ独特の光沢と相まって、単なる絵具の塗りつぶしとは異なる奥行きのある表情が生まれました。
【定着性についての検証】
今回のテストサンプルは下地剤不使用で作成しました。1ヶ月経過時点では定着していますが、完全乾燥時に剥離する恐れがあり、長期的な固着性は保証されません。 リスク回避のため、作品として制作する際は、金属・ガラス用プライマー(水性)の塗布を推奨します。
カラーチタンパネルには、今回使用した表面に微細な凹凸のあるザラザラとした質感の「ND」タイプと、平滑で光沢のある「SD」タイプがあります。 また、100mm四方のサンプルサイズからF6〜F25号まで、色やサイズのバリエーションも豊富です。
商品詳細は下記のリンクご覧ください。
| カラーチタンパネル |
カラーチタンパネルは、こちらの記事でも特集しています。
プリズム(油性アルキド樹脂絵具)╳ オイルスティック

オイルスティックを塗り、ペーパータオルでぼかしてグラデーションを作った後に、油性アルキド樹脂絵具の「プリズム」を垂らしました。
今回は少し薄めに塗ったため、プリズム特有の蜂の巣模様はあまり現れませんでしたが、オイルスティックの鮮明なプライマリーブルーが透過し、まるでステンドグラスのような深みのある独特の色合いに変化しました。
蜂の巣模様をはっきりと見せたい場合はプリズムを多めに、濃淡をつけたい場合は重ね塗りしてください。
※「Pebeo 油性アルキド樹脂絵具」は、海外発送はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
| Pebeo 油性アルキド樹脂絵具 商品一覧 |
今回ご紹介した異素材との組み合わせは、数ある可能性のほんの一例に過ぎません。
オイルスティックをいつもの制作にプラスして、偶然生まれるマチエールを自由に楽しんでみてください。その実験の先には、あなただけの新しい表現が待っているはずです。
参考資料
Sennelier(言語 English/French / German / Spanish)
Oil Stick Colors in the Hand
Oil Pastel Oil Pastels
ホルベイン画材株式会社材















