「パレットを使わず、絵具そのものを握って、画面へダイレクトに色をのせる」。 そのように、もっと感覚的に絵具を使いたいと思う方は多いのではないでしょうか。
鮮やかで透明感のある発色と、艶やかな質感、そして重厚なマチエール。油絵具が持つ表現力の豊かさは大きな魅力ですが、それを十分に引き出すには専門的な道具や知識が必要です。 その油彩の魅力はそのままに、直感的な描き心地を実現したのが、フランスの老舗画材メーカー・セヌリエの「オイルスティック」です。
オイルスティックは、初めて油絵具に触れる方から、ミクストメディア(混合技法)を取り入れたいアーティストまで、新しい表現の入り口となる画材です。 本記事では、オイルスティックの使い方やメンテナンスなど、まず知っておきたい基本情報について解説します。
従来の油絵具やオイルパステルとの違い、ミクストメディアについては、こちらの記事をご覧ください。
目次
オイルスティックの特徴

オイルスティックは、高品質な顔料を黄変の少ないサフラワーオイルとミネラルワックスで練り固めた「固形油絵具」です。
筆やパレットを介さず、手で持って直感的かつ大胆なストロークを画面に残せるだけでなく、油彩特有の鮮やかな発色と重厚感を兼ね備えています。ドローイングの即興性と油彩の奥深さを融合させた色材として、創作の幅を大きく広げてくれるでしょう。
また、従来の油絵具で使える基底材や技法とも高い親和性を持っています。
例えば、乾燥した油絵具やアクリル絵具のマチエールの上から直接描画、筆やパレットナイフを用いた重ね塗りも可能です。表面の絵具を削って下層の色を見せる「スクラッチ技法」、画面上で色のブレンディング、絵具の大きな特徴のひとつである、ペンティングナイフや筆の盛り上げの痕跡がそのまま残る可塑性も自在です。
さらに、テレピン等の揮発性油による希釈や画溶液(ペインティングオイル・乾性油)の併用により、透明感や艶も思いのままに調整できます。
PIGMENT TOKYOでは、汎用性の高い色が揃っている「入門6色セット」、華やかなカラーバリエーションの「蛍光&メタリック6色セット」を取り扱っています。個性的な色遣いの混色や差し色に使ってみたり、オイルスティックで油絵具デビューをされる方にもおすすめです。

使い方:直描き・筆で塗って楽しむ
画面に直接描いたり、混色やグラデーションを用いたりするなど、油彩画と共通する基本的な技法をオイルスティックで楽しむ方法を紹介します。
塗り方のバリエーション
直塗りや筆によるストローク、ペインティングナイフでの盛り上げ(インパスト)、テレピン油で希釈したグラデーションなど、様々な技法のサンプルです。厚塗りで生まれる重厚なテクスチャーや、希釈による透明感の違いなど、幅広い表現が可能です。

線描:直感的なストローク

スティック状の固形絵具ならではの、ダイナミックで力強いストロークは、作品にスピード感と直感的な表現をもたらします。クレヨンのような感覚で画面に直接描画できるほか、ペインティングナイフなどで削ってエッジ(角)を作れば、より抑揚のある線が描けます。
また、色(顔料)によって描き味や硬さが異なるため、色ごとに変わる独特なタッチも特徴の一つです。もちろん、パレットに取れば従来の油絵具と同様に扱えるため、混色や細密な描写には筆を併用するのも効果的です。
混色・ぼかし(グラデーション)
パレットだけでなく、画面上で直接色を混ぜ合わせることも可能です。オイルスティックで描いた色を指や布でなじませたり、ペインティングナイフや筆を使ったりと、直感的なブレンディングが楽しめます。
画面上での混色

上の画像は、直描きによる混色や、色が乾く前に塗り重ねる「ウェット・オン・ウェット」の技法、そして擦り込みによるグラデーションの作例です。道具の使い分けや塗り重ね方ひとつで、色味や表情が大きく変化します。
パレットの上で混色

こちらは、オイルスティックをパレットの上で混色したサンプルです。
ダークな色味のシルバーに少量の蛍光ピンクを加えると、一気に明るい印象へと変化しました。メタリック特有の輝きを残しつつ、ニュアンスのある独特なピンク色が生まれています。
一方、蛍光イエローにプライマリーブルーを混ぜると、元の蛍光感は落ち着き、鮮やかな緑色が出来上がりました。蛍光色やメタリックカラーをあえて混色に取り入れることで、市販の絵具とはひと味違う、深みのある色調が楽しめます。
重ね塗り(レイヤリング)

乾燥した色層の上に新たな色を乗せる「ウェット・オン・ドライ」の技法です。 画面上で色が混ざり合わないため、下の色を活かした表現が可能です。
特に透明色を重ねることで、視覚的な混色効果による奥行きが生まれます。テレピン油等で透明度を調整することで、響き合う色の重なりが得られます。
グレージング
透明または半透明の絵具を薄く塗り重ね、下の層を透かすことで色彩に深い奥行きを与える技法です。数多くの古典的な名画でも多用されてきました。
オイルスティックをパレット上でテレピン油や画用液に溶いて透明度を調整することで、グレージングならではの「光を内包したような質感」や、油彩特有の艶やかな陰影が生まれます。
※「テレピン」「油絵具 ストライプクリアボックスセット No.5」
海外発送および航空便での配送はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
「油絵具 ストライプクリアボックスセット No.5」は、ペーストタイプ(チューブ)の油絵具に加え、各種ナイフ、油彩筆、画溶液、ペーパーパレットまで、制作に必要な道具が一式揃ったセットです。 道具選びに迷うことなく、届いてすぐに制作を始められるため、これから油絵を始めたい方やギフトにもおすすめです。
筆・刷毛の基本情報や選び方については、こちらの記事を参照してください。
基底材・下地
油絵具に適した下地処理が施されていれば、オイルスティックは多種多様な素材に使用可能です。下地処理には、基底材への油分の過度な吸収を抑えるだけでなく、発色や定着力を高める効果もあります。 また、膠やオイルグラウンド、アクリルジェッソなどで色やテクスチャを自由にアレンジすることで、より表現の幅が広がります。
使用可能な基底材例
・キャンバス/木板
・金属:カラーチタンパネル など
・合成紙:ユニペーパー/ユポ紙など油彩に適した紙
・紙類:厚手の紙(イラストボード、水彩紙、段ボール)/和紙など
※薄手の場合はパネル貼りすることで描きやすくなります。
※未加工の素材を使用する場合は、各基底材に適した下地剤を施してください。
※本格的な制作の前に、定着や発色を確認するためにテストピース(試し塗り)の作成を推奨しています。
※こちらの商品は、海外発送はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
下地剤
基底材の種類に応じ、油絵具に適した下地剤を選択してください。
平滑な下地では滑らかな線が、ザラついた下地ではかすれたような表情が作りやすくなります。アクリルジェッソに色を加えた「カラー下地」や、トゥルージェッソを磨きあげた「平滑なマチエール」など、あらかじめ色やテクスチャーを仕込んでおくことで、独自の絵肌を探求してみてはいかがでしょうか。
※「ジェッソ S」は、海外発送はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
絵画の下地やキャンバスのパネル貼りについては、こちらの関連記事で解説しています。
乾燥期間・仕上げ
オイルスティックの乾燥期間
【乾燥期間の目安】
指触乾燥(表面):約 2〜5日
完全乾燥: 6ヶ月以上

オイルスティックで厚塗りした画面
オイルスティックをはじめとする油絵具の乾燥時間は、塗りの厚さや周囲の環境によって大きく変わります。
上の画像は、最も厚い部分で3mm程度になるようにオイルスティックを塗ったサンプルです。30日以上経過した時点でも、表面は皮膜が張るだけで内部は柔らかく、厚塗りの場合は固化(完全乾燥)するまでに長い時間を要することがわかります。
乾燥を早めるには、風通しの良い場所で保管するか、乾燥促進剤入りのメディウムや画溶液を併用することで短縮することができます。
仕上げ
オイルスティックのみで作品を完成させることもできますが、完全に乾燥した後、仕上げとして油絵用のワニス(バーニッシュ)を施すことで、作品の「保護」と「演出」の両方の効果が得られます。
保護:紫外線や照明による退色、埃や汚れの付着、摩擦による摩耗を防ぎます。
視覚効果:グロス(艶あり)やマット(艶消し)など好みの絵肌に整え、画面に統一感を与えます。
※ダンマルバニスは、海外発送および航空便での配送はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
使用するときの留意点
使用前後のメンテナンス(表面の皮膜除去・防止)
油絵具の主成分である乾性油には、酸素と反応して固まる性質(酸化重合)があります。そのため、数日使用しないと、オイルスティックの表面に保護膜(皮膜)が形成されます。
使い始めや、再び皮膜が形成された際は、必ず使用前にこれらを取り除いてください。

オイルスティック表面の皮膜:表面に光沢があるところは皮膜が形成
皮膜の取り方/使用前
ナイフやカッターなどで表面を薄く削り取ることで、再び滑らかな描き味が戻ります。
皮膜の防止/使用後
オイルスティックの乾燥(酸化重合)を防ぐため空気に触れないように、ラップフィルム(食品用ラップなど)で密着させて包んでから保管してください。
【膜を取り除かずに使用した場合】
直接描くときに絵具を皮膜が覆った状態だと、画面に色が乗らず、オイルスティック本来の滑らかな描き味が損なわれます。
また、ナイフや筆で描く場合も、剥がれた膜が ダマ(粒)として絵具に混ざってしまい、絵肌を損なう原因になります。
絵具を塗るときの厚さ
厚さ:推奨 1 mm 以内
※厚みを出したい場合は、下の層が乾いてから塗り重ねてください。
オイルスティックは、下層が乾燥した後に塗り重ねることで厚みは出せますが、一度に厚く盛りすぎると表面だけが先に酸化重合し、内部との収縮差によって剥離やクラック(亀裂)が生じる恐れがあるため注意が必要です。
【酸化重合反応について】
油絵具は、空気中の酸素と油が結びつく「酸化重合反応」により、油絵具はゆっくり時間をかけて固まります。
オイルスティックは従来の油絵具と同様、この酸化重合によってゆっくりと硬化するため、適切な地塗りを施した基底材にしっかりと固着します。
水性絵具と油性絵具における乾燥特性の比較
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油絵具・オイルスティック |
水彩絵具・アクリル絵具 |
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乾燥の仕組み |
油の酸化重合(酸素との反応) |
水分蒸発 |
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体積の変化 |
ほとんど減らない |
大きく減る |
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乾燥後の状態 |
盛り上がったまま固まる |
塗ったときより厚みが薄くなる |
制作後:筆の洗い方/作業環境
油彩筆の洗い方
1.【拭く】 紙や布で絵具をしっかり拭き取る。(溶剤で下洗いするとさらに良い)
2.【洗う】油絵具用ブラシクリーナーまたは食器用洗剤をつけ、手のひらで穂(毛)根元の汚れまで押し出す。
3.【流す】 ぬるま湯で、泡とぬめりが消えるまで丁寧にすすぐ。
4.【乾かす】 水分を拭き取り、横置き(または吊るし)で陰干しする。
※穂(毛)の根元の洗浄:ステップ2で根元の絵具を出し切らないと、筆が固まったり傷む原因になります。
※乾燥時の向き: 筆を立てて乾かすと、穂首の金具が腐食する原因になります。
作業環境
作業中・後は換気を行ってください。
服装
油絵具は衣服に付着すると非常に落ちにくいため、作業着やエプロンを着用するなど、汚れても差し支えない服装での作業をおすすめします。
また、オイルスティックは使用中に柔らかくなり手に付着しやすいため、汚れが気になる方はゴム手袋をご用意ください。
【衣服に付着した場合】
絵具が乾燥する前に、中性洗剤とぬるま湯で揉み洗いしてください。※乾燥すると落ちなくなります。
難しい道具や準備にとらわれず、色の美しさをダイレクトに画面へぶつけられるのがオイルスティックの最大の魅力です。まずは一本、好きな色を手に取って、その描き心地を体感してみてください。
基本的な使い方をマスターしたら、次は表現の幅をさらに広げてみましょう。
従来の油絵具やオイルパステルとの違い、そして異素材と組み合わせる「ミクストメディア」の技法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
セヌリエについて
セヌリエは、1887年にフランス・パリで創立された画材メーカーです。
パブロ・ピカソやポール・セザンヌ、カミーユ・をはじめとする数多くの著名な画家に、顔料や絵具が長年にわたり愛用されてきました。高品質な画材づくりで知られ、現在も世界中のアーティストから高い評価を受けています。
参考資料
Sennelier(言語 English/French / German / Spanish)
Oil Stick Colors in the Hand
Oil Pastel Oil Pastels
ホルベイン画材株式会社材










