カラーチタン発色の秘密〜酸化被膜が作る色〜

カラーチタン発色の秘密〜酸化被膜が作る色〜

PIGMENT TOKYOでは、カラーチタンパネルのTranTixxii®をお取り扱いしております。

このチタンパネルは表情豊かな質感と色彩が可能な上に、さらに高い耐久性も持っているため、博物館やスタジアムといった大型施設や寺社仏閣に至るまで、国内外でその品質が認められています。


表面がツルツルして光沢感のある質感をしたSD3、少しザラザラしてマットな質感のあるND20、素材表面に細かな凹凸を形成する表面処理法がされたブラスト処理されたもの、結晶模様が表面に施されたザラザラした質感を有したHyper βなど、様々な色彩と質感を持ったカラーチタンパネルがあります。

 

 

上記のうち、最もベーシックなシリーズのSD3とND20には23種類ものカラーパターンが存在します。これらはパネルに顔料で塗装されているわけではないため、顔料などを使用しておりません。
ではなぜ色材を使用していないにも関わらず、色が見えるのでしょう。それは酸化皮膜という、薄いレイヤーの調整により色彩が表現されているためです。

 

 そもそも、色とは光の反射によって観測されます。例えば真っ暗な部屋にいる時、私たちは色を見ることができないのはもちろん、モチーフの形すら判別ができません。これは物体が光を反射してない状態だから起きる現象です。逆に、真っ暗な部屋でもスマートフォンの画面に映し出される色を見分けることはできます。この場合はモニターそのものが発光しているため、私たちはそれを「色」として認識することができます。

 

つまり、人間は光源による光の反射か発光がない限り、色を知覚することができないのです。

 

色には「色の三原色」と「光の三原色」という2種類の見え方が存在します。前者は減色法とも呼ばれ、シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)の3色がベースとなっております。これら三原色を均等に混合すると黒になることからCMYKとも称され、印刷物はこれらの理論を利用して作られます。もちろん、絵具もこの性質を有しており、三原色の絵具を混ぜると黒を作ることができます。

 

後者は加色法と言い、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の3色で構成されています。この3つの光を重ねると白色になり、ディスプレイやスクリーンの色はこれらの色を組み合わせることで表現されています。この表現法をRBGと呼びます。

 

下記の画像は、その見え方を図にしたものです。右が「色の三原色」で、左が「光の三原色」です。ただし、実際に絵具を混ぜてみるとわかるのですが、シアンとマゼンタとイエローを均等に混ぜても完全な黒とならないため、印刷の場合にはこの3色に加えて黒のインクが用いられます。

 


Photo AC「色の三原色」より引用

https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1938717&word=%E8%89%B2%E3%81%AE%E4%B8%89%E5%8E%9F%E8%89%B2

 

今回ご紹介しているTranTixxii®の色は干渉色とも呼ばれ、雨上がりに虹がかかったり、空が青く見えたり、シャボン玉が虹色に見えるのもこの現象によるものです。TranTixxii®で使用している膜の厚さは最大でも0.15μm。1μmが0.001mmですので、いかに薄い膜なのかがわかります。

 

 

 

膜厚と干渉色との関係(TranTixxii®公式ホームページより)

 

 

果たしてこの酸化皮膜はどのようなプロセスで作られるのでしょうか。新和メッキ工業株式会社の瀧見直晃氏にご協力いただき、仕組みについて伺いました。

同社は新潟県上越市に工場を構え、工業製品のメッキ処理を行うほか、TranTixxii®を含むチタンの発色を行っています。

 
 

 

 

新和メッキ工業株式会社の瀧見氏。日本ではよく目にする、ガスメーターのメッキ加工も行っているとのこと。思いもよらないところに同社のプロダクトがありました。

カラーチタンの酸化被膜は「陽極酸化処理」と呼ばれる処理が行われます。特殊な液体に浸したチタンへ電圧をかけると陰極(マイナス)から水素、陽極(プラス)から酸素が発生し、この酸素とチタンが結びつくことで、表面に酸化チタンの膜を形成するのです。
 

 

図式化した陽極酸化処理の様子。(新和メッキ工業株式会社広報資料より引用)

 

この処理は他の着色方法と比較した時に物性や耐久性を変えることがない上に、剝がれる心配もありません。膜厚が素材を守るため、金属の質感そのものを保つことも可能です。
一見すると非常にシンプルな構造に見えますが、この電極を流す時間によって色が変わっていくため、大量生産で均一な発色を得るためにはプロフェッショナルな技術が要されます。
三原色を混色することで色が変化していく仕組みを図化したものを色相環と呼びますが、円環状にグラデーションしていく様子はまさに「色の輪」です。

 



電圧をかける時間によって色が変化する様子を説明する瀧見氏。同社では60種類もの色のパターンを用意しています。
 
 
それでは、実際にチタンが発色する様子を見てみましょう。
 
①まずは陽極酸化処理のための液体を作ります。

 


②特殊処理をしたチタンを用意します。
今回は当ラボのロゴを刻印していただきました。このようなレーザー加工表現ができるのも、チタンならでは。加工前のチタンは鈍い銀色です。

 

 

③溶液に浸したチタンに電圧をかけます。うっすらとブラウンがかった色に変化しました。

 


 
④そのまま電圧を与え続けると、紫色に変化しました。色相環の実験を見てるかのようです。
 

 
⑤チタンを溶液から引き上げることで、素材にかかる電圧の時間をコントロールし、グラデーションを作ることもできます。
 

 

⑥完成した様子がこちら。まるでバーナーで金属を焼き付けた時のような、綺麗なグラデーションです。この後、同社にて後加工を行い完成となります。

 

 

 

当ラボで実演をしていただくにあたり、お猪口と定規を製作いたしました。

他の金属にはないシルキーな質感と、モダンな色の風合いが美しいです。軽くて丈夫かつ変形しにくい素材のため、食器はもちろん日用品にも適しています。

 

同社が提供するプロダクト「iroiro」の「ヘラ絞りお猪口」と「魚の形の定規」

 

新潟県上越市が世界に誇る素材のTranTixxii®。その可能性は工業製品に限らず、アート用途でも大きな可能性を秘めています。当ラボではサンプル用として、小さいサイズのSD3とND20も販売しております。

 

2020年、TranTixxii®による作品制作デモンストレーションにてパフォーマンスを行う当ラボ画材エキスパートの斉藤桂。


企業情報


新和メッキ工業株式会社

所在地:〒943-0821 新潟県上越市土橋1631

電話:025-524-5426

URL:https://www.shinwa-mekki.jp/

iroiro :https://iroiro22.jp/



TranTixxii®公式ホームページ

https://www.nipponsteel.com/product/trantixxii/

 

 

 

 

 

 

 

     

     

      大矢 享

      PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

      大矢 享

      1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

      1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。