普段、キャンバスを支持体とされているみなさまは、普段どのようにキャンバスを固定して作品制作をされておりますか。
膠を利用してパネルと接着をされる方、木枠に張ったキャンバスをイーゼルや壁に立てかけて描く方、壁にキャンバスを貼り付けて描画したあとに木枠へ貼り付ける方など、十人十色の方法があることでしょう。
その中でも、木枠での張りキャンバスの場合ですが……作品の運搬時や制作途中で画面一部にテンションがかかってしまい凹みができてしまった、弱く張ってしまいたわんでしまった、逆に強く張りすぎて破れてしまった、そんな経験はみなさまございませんか?
確かに木枠にキャンバスを張り込むと、作品完成後に枠から外してキャンバスを丸めることも可能ですし、軽量なため運搬も非常に容易です。
しかし上記のトラブルが起きる可能性があるに加えて、キャンバスが固定されていない状態は画面のひび割れを起こす危険性もあります。
ただ、ときにスピードも求められる作品制作の現場において、膠を溶解してキャンバスを接着する作業を毎回やるわけにはいきません。
そこで、今回は当ラボの顧問である青木芳昭先生考案による、木工ボンドを主な接着剤として利用した「誰でも簡単にできるキャンバス基底材づくり」をご紹介します。
パネルに貼り込むことでキャンバスがたわむことなく、安心して作品制作に取り組めるほか、運搬時にも凹みの心配をせずにインストールへ向かうことができます。
それでは実際に、どのようなプロセスでパネルへの貼り込みが行われるか見てみましょう。
使う材料は以下のとおりです。
・パネル
・キャンバス
・カッターナイフ
・定規
・壁クロス貼り用刷毛
・木工用ボンド
・洗濯のり(PVA)
・アンモニア
・アルミバット
・ローラーセット
・ゴムベラ
・衣類用アイロン
・アイロン当て布
① 糊材の準備
ゴムベラで木工用ボンドをアルミバットにいれ、乾燥速度調整のためにPVA(洗濯のり)を少量加えます。PVA自体の接着力は弱く、これが多いとキャンバスを接着できなくなるので、量に注意してください。木工用ボンドは酸性のため、中性に近付けて安定させるために、アンモニアを少量入れます。そして、それらをゴムベラでよく混ぜます。
※PVAはポリビニルアルコールの略で主にドラッグストア等で洗濯のりとして売られています。こちらに酢酸を加えて作られるのが木工用ボンドで薄め液として最適な素材です。
② ローラーで接着をする
混ぜ終えたら、バット内でローラーに糊材をつけます。縦に、横にとローラーへ均等に染み渡るように転がすのがコツです。
そして、パネルの上面へ糊材を塗っていきます。この時、ローラーを強く押し込むとボンドが滲み出てしまうため、優しく丁寧に作業をすすめます。今回はパネルに灰汁どめのシートが貼り付けられているマルオカ製のHD-2パネルを使用しています。
※こちらの商品は販売を終了いたしました。
③ キャンバスをパネル描画面へ接着
はさみで裏まで張り込める適度にカットしたキャンバスへ、パネルを接着します。このとき、中心に設置できるよう軽く目印をつけておくと良いでしょう。
その後パネルをひっくり返してクロス用刷毛でキャンバスを撫で、馴染ませます。
画面の中心から外周へ向かうように、作業をすすめてください。
その後、当て布を利用してアイロンの熱で仮接着させます。麻キャンバス等厚手の生地の場合はアイロンの温度設定は中〜高温程度、スチーム機能がある場合は使用しないでください。地塗り済のキャンバスを利用する場合、温度設定が高すぎると、膠やジェッソが溶けてしまうため、注意が必要です。(薄手の生地の場合は低温)
④ 側面部の糊しろを作成
端から剥がれてくることがないよう、側面に糊しろをつくって貼り付けます。
まず、パネルの四隅に沿うように直線の線を引き、上面に糊しろの正方形の耳をつくります。この時の耳のサイズは、使用されるパネルの厚みと同じにしてください。
正方形が作れたら、カッターと定規を利用して耳をつくります。
こちらの作業を残る3つ角にも行います。
⑤ 側面部の貼り付け
③と同じ要領で、まずは耳がついている面からローラーでパネルにボンドを塗り、クロス用刷毛で撫でたあと、当て布をしたアイロンで接着を行います。
描画する面にたわみや、ボンドの接着不足がないか確認をしながらしっかり着けてください。
⑥ 糊しろの接着
キャンバスに織り込む部分の接着を行います。
このとき、前のプロセス同様にしっかりパネルにキャンバスが接着できているかを確認しながら、作業を進めます。
⑦ 裏面の貼り付けと、余った部分のカット
裏面にも糊をつけてアイロンで接着後、パネルのサンに沿って余ったキャンバスの部分をカットします。
そして、上からキャンバスを重ねた際に厚みが出ないよう、角がパネルの隅に対して45°になるよう定規を使いカットしておきます。
こちらのプロセスを上下の耳がある側のキャンバスで繰り返します。
⑧ 残りの面も接着し、余ったキャンバスをカットする
耳の上から被せるように、残りの部分も側面→裏面と接着をします。
その後同じように余った部分をカットして、下のキャンバスに重なることがないよう、同じく対角線上でキャンバスをカットします。
⑨ 完成
全ての接着が終えたら、完成です。
接着後、まだ糊材が乾ききってない可能性があるため、最低でも12時間ほどおいてから制作にかかるのが理想的です。
これでキャンバスへテンションがかかったことに生じる凹みや、画面のひび割れはもちろん、タッカーや釘による錆も心配することなく制作をすることができるでしょう。
今回は膠引きをしたキャンバスを利用しましたが、ジェッソが塗ってあるキャンバスはもちろん、綿布や布などにもこの方法は応用することができます。
制作にはもちろん、お気に入りのテキスタイルをパネルに貼り付ける際などにも利用できますので、ぜひ挑戦してみてください。