日本には、長い歴史の中で受け継がれてきた、さまざまな表現技法があります。
なかでも、中国から伝来し、独自に発展を遂げた「墨流し」は、料紙や巻物の装飾に用いられてきました。
また、「箔(はく)」は絵画や仏具だけでなく、屏風や漆器といった室礼(しつらい)の調度品にも施され、千年以上にわたり受け継がれてきた技術です。
これらの技法は、アート、インテリア、ファッションなど、多彩な分野のデザインに取り入れられ、時代を越えて世界中で親しまれています。
PIGMENT TOKYOでは、「墨流し」と、箔技法のひとつ「砂子(すなご)」を一度に学べる入門講座「墨流しと砂子で銀河を作る」を不定期に開催しています。
水や風の動きに結果をゆだねるような制作スタイルは、完成形にとらわれない自由な表現を可能にし、墨や箔に初めて触れる方でも実践を通して楽しく学べる講座です。他のことは一切忘れ、感覚を最大限に働かせて素材同士の響き合いに集中する時間。素材が奏でる偶然の美しさや、響き合う一瞬の輝きを捉えて感覚的に作れるので、経験を問わず、お子さまから大人の方までどなたでもご参加いただけます。
日本の伝統的な画材や技法に興味のある方や、制作手法の幅を広げたい方にとっても、新たな気づきを得るきっかけとなるかもしれません。
本記事では、制作の流れや体験できる内容についてご紹介いたします。
目次
講座概要[入門]墨流しと砂子で銀河を作る(120分)制作内容 1.墨流し
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講座概要

[入門]墨流しと砂子で銀河を作る (120分)
開催日程:こちらのページにてご覧いただけます。
時間: 14:00 – 16:00
場所: PIGMENT TOKYO
受講料: 1名 ¥9,900(税込・材料費込)
対象年齢:推奨 5歳以上
※細かい作業が伴うため、小学校低学年以下は保護者の補助が必要です。
※保護者同伴の場合は、オプション(無料)を併せてお申し込みください。
持ち物: なし
ご予約: ワークショップ-墨流し
<チケットオプション(ご希望の方はご選択ください)>
■保護者同席(1名様):無料
椅子を追加で1席ご用意いたします。
※数に限りがございますので、規定数に達し次第、締め切らせていただきます。
※受講1名様に対し、ご同席は1名様までとなります。
※材料は含まれません(制作のお手伝いは可能です)。

制作内容
古典技法の墨流しと砂子について、講師がレクチャーと実演を交えて説明いたします。
墨や硯(すずり)、金銀の箔など、本格的な画材や道具を実際に使うことができるのも、このワークショップの大きな特長です。
なお、当日制作した作品は、すべてお持ち帰りいただけます。
1.墨流し
使用する墨液は、お一人ずつ固形墨を硯で磨りおろして作っていただきます。
墨汁ではなく固形墨を使用することで、滑らかな磨り心地を楽しみながら、墨の奥深い色合いを引き出すことができるでしょう。
① 墨を磨る

最初は、墨を硯で磨りおろすところから始まります。
濃度のある磨墨液(するすみえ/まぼくえき)になるまでには、予想以上に時間がかかります。
この工程では、肩の力を抜き、指先の感覚に集中して、無心で墨を磨ります。その響きに耳を傾け、漂う香りを感じ取りながら、墨と向き合うことで画材への感覚的な理解を深めていきます。
また、水の硬度によって生じる発色の違いにも着目し、軟水と硬水で磨り比べましょう。
墨を使う経験があまり無い方にも、磨り方のポイントをわかりやすくお伝えしますので、ご安心ください。
「固形墨」とは、古くから受け継がれた製法で作られる墨です。
植物油や松材を焚いて採煙した煤(すす)に、動物のコラーゲンから造られた膠(にかわ)を練り合わせ、型に入れて成型し乾燥させて仕上げます。
今回は、濃淡が調和した洗練された墨色の「大和雅墨 和唐精妙(だいわがぼく わとうせいみょう)」を使用します。
濃墨は深みのある茶味を帯びた黒、淡墨ではほのかな薄茶と紫をまとった黒を感じられます。
※ワークショップで使用する硯は、PIGMENT TOKYOではお取り扱いがございません。
販売中の硯は、こちらよりご覧ください。
| 硯 |
② 墨液を作る

梅皿に取り分けた水に、磨りおろした磨墨液を加えて淡墨を調合します。
また、色味や粘度を感覚的に調整できることが、作品の表情に豊かな広がりをもたらします。
③ 墨流し — 墨で模様を作る

墨と精油(テレピン)を筆につけ、交互に水面へ落とすと、徐々に同心円状の縞模様が広がります。墨液が油分と反発する性質を利用した現象は、静けさとともにどこか銀河の渦を思わせるダイナミズムが感じられます。
意図を超えて描き出す唯一無二の表情は、作り手の感性と自然現象が呼応する瞬間と言えるでしょう。
「墨流し」と「マーブリング」の違いとは?
墨流しと似た技法に「マーブリング」があります。
マーブリングは、粘度のある水面に絵具を浮かべ、棒や櫛を用いて、意図的に模様を操りながら制作する技法です。比較的デザインのコントロールがしやすく、鮮明な発色と複雑なパターンを生み出せるのが特徴です。
対して墨流しは、墨を水面に垂らし、水の流れや広がりに身をゆだねて模様を生み出します。
そっと息を吹きかけたり、扇子であおいだり、風によって間接的に水面を揺らすことで自然に生まれるかたちや動きを楽しむのも、この技法ならではの醍醐味です。
④ 墨流しの模様を写しとる


墨流しの模様が理想のかたちに近づいてきたら、風景をすくい上げるようにして紙に写し取ります。
使用する紙は、数種類の和紙や色付きの民芸紙からお選びいただけます。
⑤ 乾燥
乾いたら、次は砂子で装飾します。
紙が濡れているときに現れる、力強く奥行きのある模様が、乾くにつれてゆるやかで美しいグラデーションの色彩へと移ろいます。その変化も墨流しならではの味わいです。

2.砂子
深みのある純金箔と、上品な輝きを放つ本銀箔で、墨流しによって生まれた銀河にきらめきを添えます。
「砂子」とは、細かく砕いた箔のことです。糊(のり)剤を塗った部分にその箔をやわらかく舞わせ、粗密によって生まれる余白や奥行きが、空間的な広がりも与えてくれます。
① 箔下糊(はくしたのり)を塗る
墨流しを施した紙に、砂子を接着させるための箔下糊(糊剤)を刷毛で塗布します。
箔下糊には、乾燥後に基底材の表面に粘着性が残らない濃度に希釈した「膠(にかわ)溶液」を使います。

② 砂子 — 箔を散らす
砂子(箔)を散らしていきます。
ここでは、初めての方でも扱いやすい「砂子筒(すなごづつ)」という道具を用います。
砂子筒とは、竹筒に金属製の網を張ったもので、中に箔を入れて、硬くコシのある鹿毛でできたタタキ筆でやさしくこすり出します。箔が網目を通って細かな砂子となり、作品の表面に美しく広がります。

はるか彼方の星々を手元に並べるイメージで、「砂子」がふわりふわりと次々に降り注ぐ様子を観察しましょう。
素材同士が表情を引き立て合い、作品に一層深みが増していきます。

③ 砂子を定着させる

砂子を散らしただけでは、まだ箔が定着していません。
膠が完全に乾く前に、紙を当ててバレンで擦り、砂子の凹凸を平滑に整えて画面に馴染ませ、しっかりと定着させます。
④ 完成

水や空気の揺らぎを活かした墨流しや砂子の技法は、制作過程のなかで思いがけないかたちと出会えるのも魅力的な要素ではないでしょうか。
そうした偶発的なものとの対話を楽しみ、「面白がって受け入れる」ことで、自分だけの表現へと変わっていきます。遊びと制作の境界を行ったり来たりする時間を、ぜひこの機会に体験してみてください。
PIGMENT TOKYOでは、特別企画や、通年開催しているワークショップもございます。
詳細は下記のリンク先をご覧ください。
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