日本絵画の基底材には、絹布(けんぷ)を用いた「絵絹(えぎぬ)」と呼ばれるものがあります。
紀元前の古代中国でも使われていた絹は、長きにわたり人々を魅了してきました。日本においては、平安時代に絹布の普及とともに広まり、その光沢や質感の美しさに加え、素材の特性を生かした独自の表現技法も発展しました。
繊細な絹糸で織られた絵絹は、扱い方ひとつで色の定着やにじみ方が大きく変化します。
そのため、基底材として使用するには特別な準備と専門的な技術が求められますが、基本を丁寧に押さえることで、絹の上で筆を運ぶ楽しさを十分に味わえます。
PIGMENT TOKYOでは、絵絹に水干絵具で描く伝統技法を体験できる入門講座「絵絹に果物をえがく」を、不定期に開催しています。絹の特性と、それに適した描画法である「絹本彩色(けんぽんさいしき)」について学び、絵具を引き立てる優美な発色を体感いただけます。絵絹を初めて使う方でも、創作の喜びに触れられる内容です。また、下図、絵具づくり、彩色、裏彩色と、体系的な経験を通して、画材への理解も深まるでしょう。
このほかにも、PIGMENT TOKYOでは画材への理解を深められる体験型プログラムを多数企画しています。たとえば、そのなかの「岩絵具」や「箔」も日本美術に欠かせない要素で、絵絹とも深い関わりを持ちます。しかし、これらの用途はそれにとどまりません。いずれも現代のさまざまな画材や技法と組み合わせることで、制作の幅が一層広がる可能性を秘めています。
ひとつひとつで得られる知見は、新たな表現に繋がるのではないしょうか。
目次
講座概要
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講座概要

[入門]絵絹に果物をえがく(のぶどう)/(120分)
開催日程 こちらのページにてご覧いただけます。
時間 14:00 – 16:00
場所 PIGMENT TOKYO
受講料 1名 ¥9,900(税込・材料費込)
対象年齢 推奨 小学4年生以上
※細かい作業が伴うため、小学校低学年以下は保護者の補助が必要です。
※保護者同伴の場合は、オプション(無料)を併せてお申し込みください。
持ち物 なし
ご予約 ワークショップ-絵絹
※講座内では、動物性の接着剤である膠(にかわ)を使用します。代替品としてアラビアゴム(樹液)をご用意しておりますので、ご希望の方は講師へお声がけください。
<チケットオプション(ご希望の方はご選択ください)>
■保護者同席(1名様):無料
椅子を追加で1席ご用意いたします。
※数に限りがございますので、規定数に達し次第、締め切らせていただきます。
※受講1名様に対し、ご同席は1名様までとなります。
※材料は含まれません(制作のお手伝いは可能です)。

絵絹の特性
絵絹で描く際、最初にハードルを感じやすいのが下準備ではないでしょうか。
今回の制作は、準備を終えた絵絹に下図を描き写すところからスタートします。
ここでは絵絹の下準備の方法について簡単にご紹介いたします。
紙よりも伸縮性が高い絹は、水分による伸縮やゆがみを防ぐため、木枠に張り込んでから使うのが一般的です。
その後、膠(にかわ)を薄めた「ドーサ溶液」を画面全体に塗布し、織り目や表面の張りを均等に整えます。
この工程を経て、ようやく絵が描ける状態になります。
また、このドーサ溶液は、生絹に色材や水分が繊維に浸透し、描画がにじんでしまうのを防ぐ役割も兼ねています。
なお、本ワークショップでは水で希釈するだけでドーサ引きができる、オリジナルの豚膠溶液 20%を使用しています。
絵絹のドーサ引きについては、こちらで解説しています。
制作内容
内枠と外枠の間に絵絹を挟み込んだ、手軽な刺しゅう用木枠(直径13cm)を使って制作し、完成した作品はお持ち帰りいただけます。
また、講師が描いた下図をもとに進めていくので、絵を描くことに慣れていない方も、素材の質感や描き心地と向き合う時間を安心してお楽しみください。
※実際のワークショップでは、技法の効果や、絵具の乾燥速度などを考慮しながら制作するため、作業順序が前後する場合がございます。
下図を描き写す(転写)

【裏面】下図を鉛筆でなぞる様子
下図(下描き)の紙の上に薄い絵絹を重ねて置くと、図像が透けて見えます。
野葡萄(のぶどう)をモチーフにした下図を使い、裏面から鉛筆で丁寧にトレースします。
使用するのは、PIGMENT TOKYOで取り扱う商品の中で最も薄く、透明感のある「二丁樋(ひ)特上」に、あらかじめにじみ止め加工を行ったものです。
絵具を練る
顔料と糊(のり)剤を練り合わせて絵具をつくります。
使用する顔料は「水干絵具」と、糊剤は絵絹と相性の良い「膠(にかわ)」です。顔料と膠を指で練り合わせる、日本で受け継がれた方法を体験していただきます。
着彩した情景を思い浮かべながら梅皿の上で行う色づくりも、制作のおもしろさのひとつです。

こちらの記事で、顔料や糊剤の基礎知識をわかりやすく説明しています。画材を知るうえでの参考資料に活用してください。
<PIGMENT ARTICLES>
彩色
膠と練り合わせた絵具を使って着彩します。
透過性のある絵絹の特色を生かして、絹の表面と裏面の両方から着彩し、色の響き合いを楽しみましょう。
表面の彩色
きめ細やかな絹とも相性が良い水干絵具は、粒子が細かく、混色や濃淡のコントロールがしやすいので、初めて絵絹に着彩する方にも使いやすい画材です。
絹本彩色ならではの鮮やかな色合いと美しいグラデーションが、野葡萄の色の移ろいやみずみずしさを表現していきます。
白い胡粉(ごふん)絵具でハイライトや、混色した青みのあるグレートーンを取り入れることで立体感と奥行きを作ることもできます。

【表面】彩色をしている様子
道具は、絵具や水分の含みと降りが良く、織目がある絹への繊細な描写にも最適な面相筆と隈取筆を使います。
穂先が効く面相筆は、葉脈やハイライトのような細部の描画に加え、葉や実の着彩にも活躍します。
一方、丸みのある穂が特徴的な隈取筆は、グラデーションやぼかしの表現に特化しています。
裏彩色(うらざいしき)
裏彩色とは、画面の裏にも絵具を塗る絵画技法です。裏に塗った色層が表の彩色に影響をもたらし、相乗効果を生み出します。透過性の高い絵絹では、はっきりと実感できるでしょう。
また、表面から同じ絵具で塗った際も、裏彩色の有無や色合いにより、表情が変わります。
描画の仕上がりをイメージし、裏に絵具を差す場所や色の濃淡を調整してみましょう。
ここでは、いくつかの方法と、その効果を紹介します。
◾️裏彩色技法例 ①-異なる色相の絵具を塗る
【裏面】裏彩色をした状態
上の画像は、表面から鶸(ひわ)色と緑青、裏面から牡丹で着彩したときの状態です。
作品を裏から見ると、鮮やかな牡丹色が際立ちます。

【表面】裏彩色の効果比較
左:表面の彩色のみを行った状態/右:裏彩色をした状態
【使用した水干絵具】
表面:水干 鶸色 水干 緑青
裏面:水干 牡丹
こちらは、裏彩色の有無による、表面への効果を比較した画像です。
裏彩色を施していない左の画像では、生き生きとした鶸色と緑青が、葉を彩っています。
一方、裏彩色を行った右の画像では裏面に牡丹色を差したことで、表面の鮮やかな緑色が渋みを増し、秋の気配を感じる柔和な色調に変化しました。
絵具が織目に浸透して表裏の色が響き合い、葡萄の成熟を思わせる葉脈が作品の表情に深みを与えます。
◾️裏彩色技法例 ②-胡粉絵具を塗る
裏彩色に胡粉を使用すると、裏から色を差していない部分に比べ、表面から見たときに絵具の発色がより鮮明になります。
胡粉とは、天然の貝殻を原料にした顔料で、不透明感のある白色が特徴です。

【裏面】裏彩色をしている様子

【裏面】胡粉で裏彩色をした野葡萄

【表面】胡粉で裏彩色をした野葡萄
表の彩色のみの透き通る質感と、裏彩色によって浮かび上がってくるような発色の対比が、画面にリズムと空間を生み出します。ぜひ効果的に取り入れてみてください。
完成

彩り豊かな野葡萄が映える、絹本作品の完成です。
PIGMENT TOKYOでは、特別企画や、通年開催しているワークショップもございます。
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