西洋東洋問わず、金箔は平面だけでなく立体物にも利用されてきました。
接着する支持体や箔の種類によって、用いられるメディウムはさまざまですが、PIGMENT TOKYO取り扱いで初心者の方におすすめできるのは大きく分けて以下の2種類ございます。
まずひとつ目が膠。膠とは動物の動物の皮や腱、骨を水で煮沸し、溶液を濃縮し冷まして固めたものです。膠に使われる動物は国や地域、時代によってさまざまで牛、鹿、豚などや、魚や鯨などの水生生物からも採ることができます。
もし膠で箔を押したい場合、当ラボではオリジナル商品の豚膠溶液 20%をおすすめしています。
商品名にも記載があります通り、20%の濃度で作成しておりますので、使用の際に必要な濃度まで水で薄めて使用する必要があります。
このメディウムは日本画をはじめとする膠を用いた表現をしたい場合、非常に相性が良い素材です。しかし天然素材ゆえ使用前に湯煎が必要なのはもちろん、外気によって使い心地が変わってくるため、少し慣れが必要なケースがあるかもしれません。
そしてふたつ目は、水性箔下糊のアクアミッショーネです。これはアクリル系メディウムのように、容器から出して気軽に使いたいという方におすすめです。前述の豚膠溶液 20%とは異なり、水溶性のアクリル系樹脂から作られている、箔押し専用のメディウムです。
事前に湯煎-は必要ありません。また適度な粘度を有しているので、面相筆などを用いたカリグラフィーのような線描表現も可能です。すぐに乾燥してしまわないので、焦ることなくゆっくり作業をすることができます。
アクアミッショーネを使って竹和紙(水彩用)に箔押しをした様子。
さまざまな支持体に対応しておりますが、吸い込みの少ないものを使用するのがおすすめです。
こちらの記事で、アクアミッショーネのアレンジした使い方をご紹介しております。
PIGMENT ARTICLES 魚膠とアクアミッショーネ
PIGMENT ARTICLES 箔を貼ってみよう、砂子を楽しもう
ガラスプライマーなどを塗布するとプラスチックやアクリル樹脂をはじめとするツルツルとした支持体に塗ることができるのも、このメディウムの強みです。そのため絵画用途だけでなく、手芸やクラフト、ホビー用途などにも利用できます。
今回はこのアクアミッショーネを使って、立体物に箔押しをしてみました。
使用するのはこちらの木製の筆立てと、卵型のオブジェです。
木以外にも、下地処理をすることでアクリル板やガラスにも箔押しをすることができます。
アクアミッショーネでの箔押しに必要な道具は、以下のものです。
・箔
・ナイロン筆(平筆と丸筆)
・羊毛平筆
・筆洗器
・絵皿
・脱脂綿
・ベビーパウダー
・箔箸
(※箔台と箔切りナイフは箔をカットする場合に使用します。今回の記事では使用しません。)
この記事では中金箔と銀箔を使用しておりますが、箔には金・銀・銅・プラチナ・アルミなど様々な金属が使用されます。また、銀箔に合成樹脂と染料や顔料で着色コーティングを施した、カラフルな新光箔という商品もあり、詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
前述の通りアクアミッショーネはアクリル系の樹脂を使用しているため、羊毛などの柔らかい筆を使用すると筆先が固まってしまいます。必ずコシのあるナイロン系の筆を使用してください。
押した箔を落とすために使用する筆は毛質を問いませんが、箔を傷つけないために柔らかい羊毛の平筆を使っています。
それでは作業を進めてみましょう。
①ミッショーネを塗る
絵皿にアクアミッショーネを出して、ナイロン筆で支持体にメディウムを塗ります。
事前に染み込みを抑える下地処理をしたものに塗る場合は1層で接着可能になりますが、染み込みが強い場合は何回か塗り重ねを行い、乾燥してから箔押しをしてください。
目安としては、手で触って少しベタベタするくらいの粘着になるまで塗装をしてください。
②箔押しの準備
箔は非常に薄く、ちょっとした風や静電気の影響を受けやすいので、箔箸と手にシッカロールをつけることでその影響を軽減させます。この時、室内の空調を止めると作業がしやすいです。
その後、箔にあかうつし紙をあて、箔押しの準備を行います。あかうつし紙はいわば箔の転写シートのようなものです。これを用いることで手で箔を持ってスムーズに作業することができます。
③箔押し
ミッショーネを塗った部分へ、優しく箔を貼り付けます。箔押しをするために、端から効率よく押していくのがポイントです。
その後、脱脂綿で軽く押し付けます。強く押しすぎると箔が剥がれてしまうため、優しく作業を進めてください。
④整形
羊毛の平筆などで余りの箔を取り除きます。
落とした箔は切り廻しとして再利用できるため、別の容器などに保管をしてください。
一回で綺麗に貼ることが出来なかった場合は、細かいところは端切れを貼って修正することが可能です。先ほどのプロセスで取り除いた切り廻しを、補修用として使用することができます。箔押し後は脱脂綿で軽く押してください。
⑤箔を重ねる
乾燥後、上からアクアミッショーネを塗ることで別の色の箔を重ねることができます。
白木の色味を生かすため、銀箔を押してみました。アクリル絵具感覚で作業を進めることができるのが、ミッショーネの強みです。
⑥切り廻しを使った表現
切り廻しを紙パレットなどに置き、ランダムな箔模様を箔押しすることもできます。偶然性をお楽しみください。
このように2種類の箔の重なりだけでも、色々な表現方法があります。
⑦磨き
アクアミッショーネが完全に乾燥したら、上からメノウ棒で磨きの加工を加えることができます。目安としては室温で24時間以上乾燥させ、湿り気がなくなってから作業をしてください。
⑧完成
面への箔押しはもちろん、面相筆や平筆のストロークを生かしたドローイングのような表現など、まるで金や銀で描いたかのような表情を作り出すこともできます。
どんなイメージにするか事前に決めなくとも、直感で即興的なプロセスで進めることができるのは、アクリル系メディウムならではの特性です。
今回は木製のモチーフに箔押しを行いましたが、ガラスプライマーを塗ることでガラスやアクリル樹脂などへ箔を押すことも可能です。プラスチックなどに押して、金箔加工されたホビーを作るのも面白いかもしれません。イースターの時期には、キラキラの卵オブジェを作ったりするのも良いでしょう。
気軽に楽しめるアクアミッショーネで、ぜひ箔押しに挑戦してみてください。
金属ならではの色の煌めきは、きっとあなたを魅了することでしょう。