作品制作の過程で自ら裏打ちを施したい、または自身で施さざるを得ないこともあるのではないでしょうか。
前回記事「裏打ちの所作 -輪郭-」に引き続き、京都にて表具師としてご活躍されている物部画仙堂代表の物部泰典氏に、裏打ちの基本技法を教えていただきました。
裏打ちの基本工程
日本の裏打ち技法を「投げ裏打ち(投げ打ち)」といいます。
和紙と絹本で本紙に裏打紙を貼る工程が異なりますので、それぞれの手順ごとにご説明いたします。
裏打ちの作業を行う際は、アクリル板などの防水性のある平滑な板を作業台に敷くことをおすすめいたします。凹凸のある板や紙を喰いやすい素材ですと剥離しにくく、または作品破損の要因になります。
【裏打ち紙を貼る】
◾️和紙
① 本紙(作品)の準備
本紙を準備します。
裏打ちをした後に作品サイズに断ち落とすので、作品実寸(仕上がりサイズ)より一回り大きく余白を残しましょう。
断ち落としが少ない、もしくは実寸で制作された場合は、その分作業の精度が高くなります。
そのため裏打ちを要する作品は、断ち落としを考慮した基底材のサイズ選定や制作方法をご検討ください。
② 本紙(作品)に水を引く
本紙裏面に水を引きます。
裏表にした本紙の下に紙を一枚敷き、水刷毛または噴霧器で裏面全体を湿らします。
和紙は伸縮性に優れ、濡らすと伸び、乾くと縮む性質があります。
本紙と裏打ちする肌裏紙を濡らし乾燥させることで、双方ともに伸縮し、シワやたるみが伸びてきれいな張りのある状態になります。
下に敷く紙は和紙でなくても、うけ紙や上質紙、コピー用紙などでも構いません。
印刷されたものや色付きの紙は濡れることでインクや染料等が溶けて作品に色移りする可能性がありますので、お気をつけください。
・水刷毛の場合
水刷毛で本紙の裏面全体に水を引きます。
穂にしっかりと水を含ませ、数回振って水切りをします。
ただし、和紙の裏面は繊維が毛羽立ち易く、力を入れると破損の原因にもなります。撫ぜるように刷毛を静かに引いてください。
とりわけ大きい作品の場合は、素早く作業をしないと先に水引をいた部分が乾いてしまいます。
特に本紙が厚口の場合は水分が染みにくいので、しっかりと引く必要があります。
対して、薄口の場合は水分が浸透しやすいので、水が多いと本紙と下敷きの紙が癒着してシワが伸びにくくなります。
・噴霧器の場合
噴霧器に水を入れ、本紙の裏面全体にたっぷりとムラなく水分をかけます。
粒子の細かい、霧状の水を散布できる噴霧器をご使用ください。
簡易的な霧吹きは、噴射する水の粒子が大きく均一な水引きができないので、ご使用をお控えください。
今回裏打ちをしたのは、毛氈(もうせん)の上で薄口の楮紙に墨や膠でドローイングした作品。
自然乾燥後、処置をせずそのまま保管していたため、かなり紙ツレやシワがあり、全体が波打っていました。
このような状態の作品でも、裏打ちをするとどのくらい綺麗になるのでしょうか。
上の画像は水刷毛と噴霧器で、作品裏面に水を引いた状態。このままだと、紙ツレやシワは残ってしまいます。
こちらの作品のように墨や膠を使用していると、紙の余白部分と、膠や墨で描かれている部分で硬さに差異があり、吸水性が異なります。そのため、先に墨の部分を軽く水刷毛で湿らせて柔らかくします。
部分的に施す作業の場合は、的確に濡らすことができる水刷毛を使うと良いでしょう。
また、部分的な作業の最中に他の部分が乾いてきた時は、噴霧器や水刷毛で湿らせ、常に全体が湿り気を帯びた状態としてください。
同様に、基底材の余白を生かし、岩絵具を膠やアラビアゴムなどで描いた場合も吸水性の差異が生じますので、上述同様の工程を施してください。
ただし、薄墨(磨りが少なく水分が多い墨の)を使ったり、生の紙や礬水(ドーサ)が効いてない和紙に描いた作品は、水を引くと墨が泣く(にじむ)可能性があります。その場合は、噴霧器で水を散布することをおすすめします。
③ シワを伸ばす
撫ぜ刷毛で本紙のシワを伸ばします。
水引きを行っただけでは、まだ皺がある状態なので、撫ぜ刷毛できれいに伸ばします。
この時に、乾いている部分があれば水刷毛や噴霧器で水分を与えます。
今回はツグ撫ぜ刷毛を使いました。
空気を押し出すように中央から外へ、少しずつ優しく撫ぜ刷毛で押し出しながらシワを伸ばしてください。一気に刷毛を引くと、折れジワや破損の要因になります。
特に今回のように水張りをしないで描いた作品は墨の輪郭部分にツレが生じやすく、なかでも薄口の和紙の場合は顕著に表れます。撫ぜる方向に気をつけ、丁寧に伸ばしてください。
また、この時も乾燥しているようであれば、随時全体に水分を与えてください。
本紙が厚手であれば、細かく切り返さず、長めのストロークで撫ぜても大丈夫です。
上の画像は、撫ぜ刷毛でシワを伸ばした状態。紙のツレやシワが目立たなくなりました。
また、絵肌が凸凹するような粒子の荒い岩絵具などを使う場合には、基底材の裏打ち後に絵具をのせてください。
④ 糊引き
◾️和紙の糊引き
裏打紙に糊を引きます。
糊刷毛、薄糊、裏打紙をご用意ください。
・糊刷毛
薄糊は、薄く均一に糊を引くので、適度な毛丈で糊含みの良い刷毛をご使用ください。
・糊
炊いた生麩糊、または接着成分が入っていない市販の障子糊を水で溶いた薄糊をご用意ください。
・裏打紙
肌裏紙または薄手(3匁程度)の楮紙をご用意ください。
楮紙は生、礬水のどちらでも構いません。肌裏紙とは、裏打ち用に漉かれた生の薄口楮紙です。
サイズは本紙よりも一回り大きいと、後の作業がしやすくなります。
楮紙は繊維が長く、薄くても強靭でしなやか、且つ水にも強いので裏打ちに適しています。
同じ和紙でも、三椏紙や鳥の子紙は艶がありきれいですが固く折れ皺がつきやすく、雁皮紙は繊維のゴロ(繊維の塊)があるので向いていません。
かたや、薄い和紙(2匁以下)を使うと濡れた状態で持ち上げる際に破ける可能性があります。初めて裏打ちをされる方は、適度な厚みとしなやかさのある3匁程度をお選びください。
糊の塗りムラを無くす作業前の裏打紙(端:糊の未浸透/中央付近:糊溜まりがある状態)
《1. 裏打紙の表面に糊を引く》
裏打紙の表面に糊を引きます。
糊刷毛にたっぷりと薄糊をつけ、紙の外側まで間を空けずに上下左右と引き、全体に糊液を浸透させます。一気に引くと、シワができる原因にもなりますのでご留意ください。
ただ、この段階では糊溜まりや浸透してないところが散見します。
刷毛は、下の画像のように柄の部分を第二指と第三指、第一指で持つと良いでしょう。そうすると片手でスムーズな回転ができ、作業がしやすくなります。
返し刷毛(返し塗り)をせず、縦方向は逆撫でせずに奥から手前、横方向は左右に、刷毛目の間隔を空けずに引いていきます。その際に穂の面を交互に使うことで、適度な糊付けが行えます。
また、糊刷毛を使うことで、裏打ち成功のポイントでもある、薄く均一でムラの無い糊の塗布が可能になります。
《2. 塗りムラと糊溜まりを無くす》
糊の塗りムラと糊溜まりを無くします。
たらいの縁などで穂についた余分な糊をとり、紙に対し平行に、真っ直ぐ刷毛を引きます。
なお、糊溜まりが残っていると腐敗、かすれは接着不足による本画と裏打ち紙の剥離に繋がります。
⑤ 裏打ち
本紙を裏打ちします。
《1. 裏打紙を持ち上げる》
糊を塗布した裏打紙を持ち上げます。
ただ、濡れた薄い紙は手で持ち上げにくいので、掛け棒を使います。
裏打紙の短辺以上の用尺がある、短冊状の薄手の木や竹製の棒(板)をご用意ください。木や竹の定規でも結構です。
上の画像のように、短辺の紙端から棒の幅分とった位置に棒の片刃(エッジ)を立てます。
裏打紙の端を指で少しつまみ上げます。掛け棒の面につけ、左手の親指と人差し指で裏打紙と棒を抑えながら持ち上げてください。
持ち上げたら手前の角を右手でつまみ、裏打紙の糊を塗布した面が下に向くようにします。
(※画像の手の動きに合わせて利き手を「右手」として表記しております。利き手が左手の方は逆とお考えください。)
なお、このような作業は、繊維が長く水に強い、楮紙のみが可能な技法です。
例えば、宣紙のように繊維が短く濡れると破れる紙では、糊引きした状態で持ち上げることができません。そのような紙を使う場合は、地獄打ちという技法で行います。
地獄打ちは、本紙を裏表で板に張り、そこに直接糊をつけて裏打紙を貼ります。
《2. 本紙に貼る》
本紙に裏打紙を貼ります。
本紙裏面が上、裏打紙の表面(糊の塗布面)を下にして、掛け棒のない側の紙端から下ろし真っ直ぐ貼ります。
この時に、本紙の表裏を再度確認してください。初心者の方ですと本紙の表面に裏打紙を貼ってしまうことがありますので、慣れるまではお気をつけください。
本紙(作品)が実寸または余剰が少ない場合や、裏打紙が本紙サイズ同等程度だと、寸分まで合わせて濡れた裏打紙を置く必要があり、難易度が上がります。
そのため、特に初心者の方はできるだけ、本紙や裏打紙に余裕を持たせたサイズをご用意ください。
本紙裏面に裏打紙を貼った状態(密着前:本紙と裏打紙の間に気泡あり)
空気がなるべく入らないよう静かに裏打紙を置き、端まで下ろしたら最後に掛け棒を外します。
撫ぜている風景(使用刷毛:京型ツグ撫ぜ刷毛)
《3.本紙と裏打紙を密着させる》
本紙と裏打紙を、撫ぜ刷毛を使い密着させます。
ツグ撫ぜ刷毛を寝かし、穂の腹を使って紙面を撫ぜるように空気を抜きます。
大きな作品の場合は、裏打紙を下ろしながら同時進行で撫ぜ進めることでシワの発生を防ぎます。
濡れた裏打紙は繊細で、また紙裏は毛羽が立ちやすい状態ですので、焦らず丁寧に作業をすることがポイントです。
なお、ツグ撫ぜ刷毛は代替品がなく、紙の裏打ちには必需品です。
撫ぜ刷毛の穂に使われているツグとは、柔靭で撥水性が強く、裏打ちに大変適した素材です。
◾️絹本
絵絹などの絹地の基底材や、それに描いた書画作品のことを絹本といいます。
蚕の繭から紡いだ動物性繊維のため、水や摩擦に弱く、濡らして乾かすと縮んで縮緬状のシワができます。それゆえ、あらかじめ絹本の作品を水で濡らし、縮めておくことが必要です。
加えて、紙よりも繊維の収縮率が高いので、和紙と同じやり方で裏打ちを施すと絵具が剥がれてしまいます。
① 本紙(作品)の準備
本紙を準備します。
和紙同様に裏打ちをした後に作品サイズに断ち落とすので、作品実寸(仕上がりサイズ)より一回り大きく余白を残しましょう。
ただし、次工程の水引きでしっかりと収縮させますので、ご考慮の上、制作してください。
② 水引き(みずびき)
本紙(作品)に水引きをします。
こちらは、裏打ち作業の前日以前に行ってください。
裏表にした本紙の下に紙を一枚敷き、水刷毛または噴霧器で作品全体をしっかりと濡らします。およそ一昼夜、毛布や布などの上に置いて乾燥させて絹を収縮させます。
水刷毛の場合は強く擦らず、中央から外へ引いてください。
なお、絹本でも絵具が泣く場合があります。心配な場合は水刷毛ではなく、噴霧器を使うと安心です。
水刷毛または噴霧器のいずれで行う際も、基本の道具や方法は和紙同様です。
ただし、大きい作品は、絹本の縮みがかかるまで2〜3回同じ作業を繰り返してください。
噴霧器を使用した絹本の水引き風景
③ 糊引き
裏打紙に糊を引きます。
糊刷毛、固糊、裏打紙をご用意ください。
・糊刷毛
固糊には、毛丈の短い付け廻し刷毛をご使用ください。
・糊
炊いた生麩糊、または化学的な接着成分が入っていない市販の障子糊を、付け廻し刷毛でよく練った固糊をご用意ください。
・裏打紙
本紙よりも一回り程度大きい肌裏紙、または薄手の楮紙をご用意ください。絹本の裏打紙は布地が紙をかむので、薄手(3匁以下)でも構いません。ただし、薄紙は糊引時や持ち上げる時に破れやすく扱いが難しくなります。初心者や濡れた紙の扱いに慣れていない方は、3匁程度の厚さの方が作業しやすくなります。
《1. 裏打紙の表面に糊を引く》
裏打紙の表面に糊を引きます。
基本的な方法は和紙と同じです。「和紙 ④糊引き」の項目をご参照ください。
ただし、糊が固いからと強く刷毛を引かないようにしてください。裏打紙が毛羽立ったり破れる原因となります。
《2. 塗りムラと糊溜まりを無くす》
糊の塗りムラと糊溜まりを無くします。
付け廻し刷毛にたっぷりと糊を付け、溜まりができないように伸ばします。
④本紙を蒸らし、裏打紙を貼る
本紙を蒸らして、裏打紙を貼ります。
この時点で絹本は乾燥した状態です。このままでは裏打ちがしにくいので、裏打紙を使って本紙に湿度を持たせます。
《2. 本紙に裏打紙を貼る》
本紙に裏打紙を貼ります。
数分置いたら、裏打紙の表裏を返し、糊面を下にして本紙に貼ります。
この時、裏打紙を降ろす際に撫ぜ刷毛を使いながら貼ると良いでしょう。
和紙と異なる点は、織り目の凹凸があるところ。気泡やシワを撫ぜ刷毛で抜きにくい時は、裏打紙を持ち上げるなどの微調整も行えます。
裏打紙を置いた後、しっかりと撫ぜ刷毛で撫ぜて本紙と密着させると、次の圧着する工程がスムーズに行えます。
基本的な裏打紙の持ち上げや貼り方は、「和紙 ⑤裏打ち」をご参照ください。
⑤裏打ち(圧着)
本紙を裏打ちし、裏打紙を圧着します。
絹本の裏打ちは、打ち刷毛で叩いて、圧着させます。叩くことで、絹本の織り目に裏打紙の繊維が絡みます。
この工程を行わず④の状態で乾燥させると、絹本が縮んで縮緬状のシワができ、裏打紙から剥がれてしまいます。
打ち刷毛の穂はツグとシュロです。絹本などの裂(織物、布地)の裏打ちにのみ使用する刷毛で、こちらも必需品です。
厚く重量があるので、穂の面で打つことで余分な力を入れずとも裂と裏打紙を圧着することができます。
また、しっかりと圧着することで強度を備えつつ、しなやかな本紙になり、掛け軸などで丸めても本紙と裏打紙が剥がれたり折れたりしません。
打ち刷毛の持ち方
《1. 打ち刷毛を持つ・穂先の湿り気確認》
打ち刷毛を持ち、穂先の湿り気を確認します。
柄を持つのではなく、玉厚の部分を第一指と第二〜五指で挟んで握り込むように持ってください。
このように持つことで、穂の面全体に圧力がかかります。
穂が乾いている場合は、手に水をつけて穂先を撫ぜて、少量の水分で湿らせます。穂先が乾燥していると裏打紙や作品破損に繋がるので、必ず確認しましょう。
《2. 打ち刷毛で叩いて圧着する》
打ち刷毛で叩き、本紙と裏打紙を圧着します。
端から順に隙間なく、高い位置からではなく、拳ひとつ分程度上の位置から垂直に刷毛を打ち降ろします。刷毛を斜めに打ち降ろすと裏打紙が傷つき、圧着も弱くなります。
ポイントは、刷毛の重さを利用して面で打つこと。
刷毛の幅で進み、細かく均等の力で、同じペースで打ってください。
《3. 裏打紙の紙肌を整える》
裏打紙の紙肌を整えます。
打ち刷毛で叩いた後、裏打紙の繊維が毛羽立っています。
撫ぜ刷毛を使い、繊維を撫ぜて紙肌を整えてください。後からだと直りにくいのでこのタイミングで、行いましょう。
この後の工程は、和紙、絹本ともに同じです。
【仮張り〜仕上がり】(和紙・絹本共通)
仮張りを行い、いよいよ仕上げの作業です。
裏打ちした本紙などを臨時に張り付け、平らに乾燥させることを仮張りと言います。
仮張り板、端紙、撫ぜ刷毛をご用意ください。
・仮張り板
裏打ちにおける仮張り板とは、杉白(すぎしらた)の角材を格子状に組み、その表裏に丈夫な紙質の楮紙を張り重ねた表面に、何層にも柿渋を塗布した道具を指します。
柿渋とは、重ね塗りして乾かすと撥水作用のある天然染料です。古くからその特性を生かし紙や布製品の加工、建材等にも使われてきました。柿渋を紙に塗装することで適度な平滑面になり、紙・糊残りが少なく、紙や裂も剥がしやすくなる効果を得られます。
しかしながら、仮張り板は製作に手間を要する上に表具工房で自製していることが多く、一般的には非常に入手が困難です。
代替品として、平滑なベニヤ板などの木板やパネルに、カシュー塗料を塗布して乾燥させたものをご用意ください。
カシュー塗料とは、カシューナッツの殻の抽出液から作られた合成塗料です。ウルシ科のカシューの実は漆と類似した成分を含んでおり、柿渋と近い特性を持ちます。
なお、板を使う場合は、薄板は歪むため10cm〜15cm程度の板厚が望ましいです。作る大きさにもよりますが、作品サイズや機動性なども含めてご検討ください。
入手しやすい素材に、無垢材(無塗装板)やアクリル板などもございますが、無垢は水分の吸収が良く紙を喰い、他方アクリル板のようなプラスチック製は逆に滑りが良すぎて乾燥する前に落ちてしまいます。
・ヘラ差し紙(ヘラ紙)
ヘラ差し紙を付けることで、板から乾燥させた本紙を剥がす際に作業が容易になります。
余った裏打ち紙を短冊状にカットしておくといいでしょう。
① 仮張りをする
裏打ちした本紙を仮張りします。
《1. ヘラ差し紙を付ける》
ヘラ差し紙を付けます。
本紙に糊がつかないよう、裏打紙の四方の縁に糊をつけ、余白部分の縁に適量を付けてください。
絹本を仮張りしている作業風景
《2. 仮張りをする》
仮張りをします。
裏打紙の端を静かに指で持ち上げ、裏打紙側を仮張り板に張ります。
撫ぜ刷毛で裏打ち紙の四方(糊をつけた縁部分)のみ撫ぜて、仮張り板に接着させます。
下敷きの紙が本紙にくっついている場合は、接着後に剥がします。
《3. 空気を入れる》
裏打ちした本紙と仮張り板の間に空気を入れます。
ヘラ差し紙の付け根部分をそっとつまんで少し紙を上げ、そこから息を吹き込みます。
空気を本紙と板の間に吹き込むことで、癒着を防ぎ、作品がぴんと平らに乾燥します。
ヘラ差し紙を貼る位置は任意ですが、息を吹き込む際に全体に空気の流入をしやすい所に貼るとより良いです。
② 乾燥
仮張りした本紙を乾燥させます。
屋内などの静かな場所で自然乾燥させます。
直射日光が当たる場所や強風等をあてて急速に乾燥させると、作品の劣化や痛み、不十分な仕上がりの原因にもなります。
③ 仮張り板から本紙を剥がす
仮張り板から本紙を剥がします。
乾燥後、ヘラ差し紙が付いている箇所の隙間に竹べらを差し込みます。画像ではペインティングナイフ(ペンチングナイフ)を使用しています。
カッターナイフなど先が鋭利なものは本紙を破損する可能性が高いので、プラスチック製や木、竹製などの刃先が丸みを帯びた薄刃ものをお使いください。パレットナイフのようなフラット型よりも、L字型のナイフの方が使いやすくおすすめです。
次に、ナイフを板面に沿わせて、裏打紙を剥がします。
紙の四隅(角)のみを接着させた状態で剥がしていくと、本紙に対して均一に力が入り、シワになりにくくおすすめです。ただ、本紙のサイズや素材にもよりますので、剥がし易い方法で行ってください。
④ 仕上げ
仕上げの作業を行います。
本紙をカットして、できあがりです。
《untitled》Natsuko Shiraishi、(制作中/部分)
紙、墨、膠
紙のツレやシワも伸びて、墨の色調のコントラストやグラデーションも以前より鮮明に見えるようになりました。
刷毛や糊の詳細につきましては、こちらの記事も併せてご参照ください。
裏打ちの所作 -輪郭-
受け継がれた技の根底にある、道具や素材、それに精通した職人経験によって築き上げられた技術。
裏打ちを知ることで、紙や絹本の特性を改めて感じられたように思います。
物部 泰典(ものべ やすのり)
経済産業大臣指定伝統的工芸品「京表具」伝統工芸士
有限会社 物部画仙堂 代表取締役
京都芸術大学 講師
有限会社 物部画仙堂
京都で明治34年に開業し、4代に渡り表具師として伝統技術を継承する。
参考資料
京都都表装協会 編『表具の事典』(京表具協同組合連合会 2011年)