魚膠とアクアミッショーネ

魚膠とアクアミッショーネ

箔を貼るための道具は色々とありますが、まず必要不可欠な糊

ただ、この糊材にも種類がいくつかあり、一体どれを選んでいいのか悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、当ラボでおすすめしている箔の糊についてご紹介いたします。

 

 

こちらは、PIGMENT TOKYOのオリジナル魚膠。

 

 

 

 

【用途・使用方法】

ドーサ引き(にじみ止め加工):4〜5%溶液にして使用

箔貼り:魚膠(1.5〜3%溶液)にアルギン酸(1%溶液)を足して使用

金泥・パール系顔料のメディウム:1.5〜3%溶液にして使用

 

【物性値】(2021年8月9日現在)

粘度:28.2 mPa・s

ゼリー強度:JS 585g

pH 5.8

 

こちらの膠は、和紙や絹のにじみ止め加工であるドーサ引きの用途で使用されます。

ゼリー強度が高いので、ミョウバンを入れずに撥水効果を得られます。また、透明色なので、基底材への色の影響もほとんどありません。

ゼリー強度とは膠の強さを表す数字で、数値が大きいほど強くなります。例えば、他の牛や鹿、魚由来の膠のゼリー強度が概ね100〜300g程度なのに比べ、こちらの膠は585g。いかに強いかがわかります

ただし、その高いゼリー強度ゆえ、画面の割れに繋がるため、金泥やパール系顔料以外の描画用のメディウムにはあまり向いていないので、お気をつけください。

 

 

 

 

 

 ※こちらの商品は販売を終了いたしました。

 

上述の魚膠とこちらの溶液、この二つ、元は同じものです。

顆粒状の魚膠を20%溶液にしたものなので、基本的な用途も同じです。

また、こちらの魚膠溶液は防腐剤も添加しておりますので、安心してお使いください。

なお、保管の際は冷蔵庫にお入れください。冷えるとゼリー状になるので使う時に常温に戻すか、湯煎で溶解します。

用途に合わせて希釈するだけですぐに使えるので、初めて膠をお使いになる方や、少量の使用におすすめです。

 

そして、もう一つの用途は、箔の糊

膠を使って箔を貼る際は、膠溶液だけだと乾いてしまうのでアルギン酸溶液を入れることで乾燥を遅くします。

アルギン酸は布海苔という海藻から抽出した増粘剤です。1.5~3%に希釈し、アルギン酸溶液を足してお使いください。入れる目安は膠液2~3に対しアルギン酸ナトリウム液1くらいです。お好みでご調整ください。

 

 

 

 

膠とアルギン酸を使った箔の貼り方は、平押しなどのベーシックな使用だけでなく、砂子のように粉末状の細かい箔を貼る技法に最適です。

 

 

 

 

さらに当ラボには、もう一つ魚膠があります。

 

 

 

 

【用途】

描画用(絵具のメディウム)

箔貼り

 

【物性値】(2021年8月9日現在)

粘度:4.2 mPa・s

ゼリー強度:JS 310g

pH 4.4

※膠はロットにより物性値が異なる場合があります。オンラインショップでご購入の際は、商品ページにて詳細をご確認ください。

 

こちらの魚膠は、上記でご紹介したものほどゼリー強度が高くないので、描画用のメディウムとしてお使いいただけます。

白系や淡い色の顔料に対して茶系の膠よりも色味への影響が少ないので、表現により使い分けてもいいかもしれません。

 

なお、ご自身で膠溶液を作る際は、防腐剤のご使用をおすすめしております。防腐剤を使用することで冷蔵庫で保管すれば約1年ほど使えますが、使用しない場合は腐敗しますので、23日以内にご使用ください。

また、防腐剤は、熱い状態で入れると効きが悪くなります。ある程度冷ましてから入れてください。

魚以外の膠にも使用いただけますので、様々なメディウムを試してみたい方にはオススメの商品です。

 

 

 

 

 

 

膠以外の箔下糊には、大人気のイタリア製の箔用の糊材のアクアミッショーネがあります。

 

 

 

 

膠が伝統的な糊材に対し、こちらは近代以降に生まれたの箔貼り用の糊です。

アクリル樹脂でできているので、粘性が強く、表面が乾いても長時間粘着質が残ります。

そのため、初めて箔を貼る方や、細かい形に箔を貼る作業にも向いていますが、砂子の技法にはあまりお勧めできません。

また、常温保存が可能なので、環境を選ばず使えるメリットもあります。

 

 

では、アクアミッショーネが得意な、細かい絵柄や模様の箔を貼ると、どのようになるのでしょうか。

 

 

上の画像は、筆にアクアミッショーネをつけて線描をした後に箔を貼ったものです。

平筆などで余分な箔を落とすと、模様が表れます。

また、塗ってから少し時間が経っても、触ると指に糊の粘着力を感じるほど粘性が持続するため、ゆっくりと作業することができます。

アクアミッショーネは上述のように粘着が強いので、獣毛筆よりもナイロン筆の方が使用後のお手入れがしやすいです。

 

 

 

なお、使用の際のご留意点として、アクアミッショーネをたくさんつけ過ぎたり、箔を貼る時に強く擦りすぎると糊が滲んできれいに形が表れないこともあります。

 

 

こちらが、アクアミッショーネを毛の粗い、硬い筆で描いた時の画像。

下地には大和雅墨 茜雲を塗っています。

 

 

 

下の画像は、箔を貼り、少し硬めの筆で箔を落とした後の画像。

見比べて見ると、筆跡よりも箔が着いているのが、お分かりいただけるでしょうか。

アクアミッショーネを塗ってから5分以上経ってからあかした箔を貼ったのですが、少し強めに押して擦ったので、箔がかなり定着しています。

このように、想像と違う形が表れることも加味して、自分の表現として取り入れてもいいかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基底材や絵柄などによっても状況は変わると思いますので、それぞれの糊の特徴を生かして、ぜひお試しください。

箔の糊を選ぶところから、箔の世界をご堪能ください。

Profile

白石 奈都子

PIGMENT TOKYO

白石 奈都子

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。