「この瞬間の色の響きを描きたい」と感じたとき、頼りになる画材のひとつ、ソフトパステル。
油彩や水彩のように画溶液や水で溶く手間も、乾燥を待つ必要もなく、手に取ったその時に想いを紙へと写せます。
移ろう光の瞬き、空気に溶け込むような光の粒子感、そして空の色が変わる間際の一瞬の煌めき。それらを直感的に捉えられる手軽さは、これからアート制作を始めたい方からプロフェッショナルな表現者まで、あらゆる人々を魅了してやみません。
本記事では、日本のソフトパステル専門メーカーが造る「ゴンドラパステル」が持つ風雅なカラーバリエーションや色彩表現を高めるテクニック、そして完成した作品を美しく保つための秘訣まで詳しく解説します。
歴史を紡ぐ日本初の「ゴンドラパステル」
王冠化学工業所が手掛ける「ゴンドラパステル」は、1919年(大正8年)に誕生した日本初のソフトパステルです。創業以来100年以上にわたり研鑽を重ね、京都の工房にて職人が丹念に仕上げる伝統的な製法を受け継いでいます。
その最大の強みは、優れた「色の速写性」にあります。水や筆、パレットといった道具を用意する必要がなく、乾燥を待つ時間も不要です。豊富な色数の中から直感的に色を選び、すぐに描き始めることができます。
エッジ(角)を利用したシャープな線描から、面を使った大胆な着彩まで、表現の自由度が高いのも特長です。繊細なタッチや柔らかなストロークにも柔軟に応えてくれる品質は、まさに日本の光と影を描くために磨き上げられた逸品と言えるでしょう。
| ゴンドラパステル 商品一覧 |
日本の風土が育んだ242色の色彩設計

日本の海に囲まれた湿潤な気候が育む四季、そして遠くの山々が霞んで見えるような繊細なグラデーション。ゴンドラパステルは、日本の環境がもたらす柔らかな光や風景を写し出すために、242色もの豊かなカラーバリエーションを取り揃えています。
特筆すべきは、その絶妙な色構成です。原色から中間色まで、厳選された顔料の美しさを最大限に引き出す色設計となっており、無彩色は「白」と「黒」の2色に絞り、その間に広がるグレーには、意識的にわずかな色味を含ませています。「百鼠(ひゃくねずみ)」と言われる繊細な色の機微を愛でてきた、日本の伝統文化が息づく設計は、単なるモノトーンでは表現しきれない、日本の自然が持つ深い情緒を鮮やかに描き出します。
表現者の自由度を広げるアーティスト品質
長い間、ゴンドラパステルがプロフェッショナルなアーティストに愛用され続ける理由は、厳選された原料選びと、顔料本来の美しさをダイレクトに伝える独自の製法にあります。
色味や指先の一部のように馴染む描き心地を徹底して追求する姿勢こそが、長きにわたり表現者の信頼を得てきた理由にほかなりません。
また、一般的なパステルよりも短い「約2cm」という形状にも理由があります。このサイズは、描画時の一定の強度を保つとともに、指先で画材をコントロールしやすくし、あらゆる角度からのストロークを可能にして多彩な表現を支えます。
安全性を考慮した素材の選定と、時代に合わせた改良を積み重ねたその品質は、国内外の専門家からも高く評価されています。
パステルの基礎知識

【使用画材】
ソフトパステル:ゴンドラパステル No.625(青)/314(黄)
オイルパステル:オイルパステル(セヌリエ) No.237(青)/ No.19(黄)
基底材:竹和紙 水彩画用
ここでは、それぞれのパステルの糊剤の違いから成る特性について比較します。
ひとえにパステルと言っても、その特性は成分によって大きく異なります。パステルの原料を大きく分けると、着色用の「顔料」、ボディをつくる体質顔料(炭酸カルシウムなど)、そしてこれらを固める「糊剤(バインダー)」の3つです。
なかでも性質を決定づけるのは、糊剤の種類と濃度、分量です。この原料の違いが、描画時の基底材への固着力に影響します。
表現したい質感に合わせて最適な種類を選んでください。
ソフトパステルとオイルパステルの比較
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ソフトパステル (ゴンドラパステル) |
オイルパステル (セヌリエ オイルパステル) |
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原料 |
顔料 体質顔料(炭酸カルシウムなど) 水溶性糊剤 |
顔料 非乾性油(少量のミネラルオイル等) ワックス(少量) 非乾性結合剤 |
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テクスチャ |
マットでさらりとしたドライな質感 |
しっとりとして伸びの良いウェット感 |
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描画の特長 |
柔らかく細かな粒子による繊細な色調 |
隠蔽(いんぺい)力 鮮やかな発色 |
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得意な表現 |
シームレスな色の変化 透明感のある空気感の描写 |
インパスト技法(厚塗り) スクラッチ技法(引っかき) |
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グラデーション |
濃淡の自然な階調 |
ダイナミックで力強い変化 |
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混色・重色 |
透明感のある重色(レイヤリング) |
色の重なりによる深みと重厚感 |
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基底材への定着力 |
定着しない(粉体が紙に乗っている状態) |
高い定着力(完全固着はしない) |
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仕上げ 保存性 |
専用定着液(フィキサチフ)を散布を推奨 ※粉の剥落やこすれによる汚れを防ぐため |
専用定着液(フィキサチフ)を散布を推奨 ※表面のベタつきや色移りを抑えるため |
ドライパステル(ソフト/ハード)
顔料と体質顔料を最小限の固着剤(水溶性糊剤)で固めたものです。
固着剤の濃度や分量によって、柔らかい「ソフトパステル(軟質)」と、密度の高い「ハードパステル(硬質)」に分かれます。
ゴンドラパステルは「ソフトパステル」に分類されます。
描画すると細かく柔らかな粒子が広がり、非常に伸びが良いのが特長です。
その反面、紙への定着力は弱いため、練り消しゴムなどを優しく押し当てて余分な粉を吸着させ、色を薄くしたり修正したりすることができます。
オイルパステル
顔料を非乾性油*(ひかんせいゆ)とワックスで練り上げたものです。
*非乾性油:時間が経っても乾燥して固まらない油。
油分によって顔料が基底材にしっかりと密着するため、定着力が非常に強く、紙だけでなくさまざまな基底材に描くことが可能です。油彩画のように、色を塗り重ねることで生まれる重厚な表現を得意としています。
描画部分が意図せず消えたり剥落したりする心配はほとんどありませんが、ソフトパステルのように後から消しゴムで消すことは難しくなります。
相性の良い基底材・定着剤
豊かな表情を引き出す基底材の特徴
ドライパステルは描画の際、紙と擦れることで色材が粉末状に広がるため、水彩紙のような表面に凹凸のある「中目」から「荒目」の紙を選ぶと、パステル本来の優れた発色とポテンシャルを引き出すことができます。
一方、目の細かい紙は、繊細なぼかしや滑らかなグラデーションの表現に適していますが、表面が平滑すぎるとパステルの粉が定着しにくい場合があります。表現したいテクスチャや技法に合わせて、紙の質感を選ぶと、より理想の表現に近づけることでしょう。
PIGMENT TOKYOでは、汎用性が高く作品制作にも使える以下の紙をセレクトしました。もちろん、これ以外の紙でも多彩な表情が生まれます。ぜひ、さまざまな紙との相性を試して、ご自身の表現を見つけてください。
竹和紙(水彩画用)
表面は中細目程度のテクスチャーで、滑らかな描き心地と美しい発色を楽しめます。
主原料には、強くしなやかな竹繊維を使用し、250g/㎡という十分な厚みがあるので、本格的な作品制作に求められる優れた強度を誇ります。
表面には「にじみ止め加工」を施しているため、水彩絵具はもちろん、パステル画におけるぼかしやグラデーション表現のために指で強く擦り込んでも、毛羽立ちにくいのが特長です。和紙特有の柔らかな風合いと、使いやすさを兼ね備えています。
描画技法とミクストメディア

パステルの角を使って線を描いたり、横に寝かせて面を塗ったり、塗った色を指や筆、スポンジでこすって「ぼかす」など、使い方を少し工夫するだけで様々なテクスチャを生み出すことが可能です。
また、パステルの「色を重ねる」特性を理解して、水彩絵具や他の画材と併用する「ミクストメディア」を用いることで表現の幅が広がり、ゴンドラパステルの魅力をより一層堪能できます。
絵具のようにパレットで混色できないパステルは、紙の上で色を重ねる「レイヤー技法」によって新たな表情を生み出します。塗り重ねる順序、筆圧の強弱、そしてストロークの速さ。その一つひとつの重なりが、無限の色彩美を創り出します。
色彩を彩る基本技法
繊細なグラデーションとレイヤリング

【使用画材】
ゴンドラパステル:(左からNo.403, 314, 426)
基底材:竹和紙 水彩画用
ゴンドラパステルの粒子は非常に細かいため、軽いタッチで色を広げるだけで、空気の層のような繊細なグラデーションが生まれます。また、下の層と異なる色をふわりと重ねる「レイヤリング(重色)」を行うことで、下の色が粒子の隙間から透けて見えるような深みと、奥深いニュアンスを持つ色彩を構築できます。
※必要に応じて、層の間に定着液を挟むことで、さらに多くの色を塗り重ねることも可能です。
ドライパステルの美しい「グラデーション」や「レイヤリング」が実際にどのように表現されるのか、こちらの記事でサンプル画像とともに紹介しています。制作のヒントとして、ぜひあわせてご覧ください。

水でなぞる・広げる
水溶性の糊剤で固められているゴンドラパステルは、描いた上から濡れた筆でなぞるだけで、水彩画のような柔らかなにじみ・ぼかしを創り出せます。
表現の幅を広げるミクストメディア
水性画材とのミクストメディア(混合技法)は、多くのアーティストに愛用されている手法です。ここでは、代表的な組み合わせの例を紹介します。
水彩絵具 × ゴンドラパステル

【使用画材】
色材:ゴンドラパステル(No.304)
水彩 534 ビリジアン/543 ウルトラマリングリーン
基底材:竹和紙 水彩画用
水彩絵具で画面全体に大まかな色や下地を塗り、乾燥させた後、ゴンドラパステルで細部を描き込んだり、ハイライトを入れたりします。 下の色を活かした重層的なグラデーションや、水彩の「にじみ」とパステルの「粉の質感」による、美しいコントラストを生み出すことができます。
アクリル絵具 × ゴンドラパステル

【使用画材】
ゴンドラパステル: No.422(青)/ No.125(クリーム)
アクリル絵具 :モーブ(松田油絵具)
下地剤(メディウム):ジェッソS
基底材:竹和紙 水彩画用
アクリル絵具やジェッソなどの下地材を使って凹凸のあるマチエール(質感)を作り、乾燥後にゴンドラパステルを重ねます。
ザラザラとした下地の表面にパステルの粉がよく引っかかるため、通常よりもさらに鮮やかな発色が得られ、立体的で奥行きのある絵肌を作ることができます。
作品保護と定着の方法
作品を保護する方法
ソフトパステルは紙への定着力が弱い画材であり、画面には粉末状の粒子が乗っているだけの状態です。そのため、表面に少し触れただけでも色落ちしてしまいます。定着液(フィキサチフ)を使用しても、完全に固着させることはできません。
制作中や保管の際は、画面が他のものと擦れないよう、上から保護紙(グラシン紙やコピー用紙など)を被せて覆ってください。完成後は適切に定着液を塗布し、展示作品や長期保存する場合はガラスやアクリル板の入った額縁に入れて保護することをおすすめします。
定着液(フィキサチフ)の散布方法
画面から30〜40cmほど離した位置から、薄く、複数回に分けてスプレーします。
「一層スプレーをかけたら完全に乾燥させる」というステップを数回繰り返すことで、パステルの質感や発色を守りながら、粉落ちを防ぐ強固な被膜を作ることができます。
【定着液を使用する際の注意点】
一度に大量の定着剤を吹き付けると、パステルの粒子が液剤に沈み込み、特有の明るい発色が損なわれて画面全体が暗く、彩度が落ちる原因となります。必ず「薄く、数回に分けて」散布してください。
ゴンドラパステルの保管について
パステルを直射日光の当たる場所に長時間置くと、褪色(色あせ)の原因となります。保管の際は必ず箱の蓋を閉め、光が当たらない場所で保管してください。パステル自体の品質(顔料の発色)を守ることで、これから描く作品の美しさを長く保つことができます。
創作の幅を広げるゴンドラパステル
スケッチやドローイングでの活用
ゴンドラパステルは準備や片付けが最小限で済むため、旅先や屋外でもサッと取り出して、思い立ったその瞬間に絵画制作を楽しめるのが大きな魅力です。
アーティストにとっても、本制作に向けた「エスキース(習作)」やドローイング、配色の検討用として長く愛用されてきました。刻一刻と変化する光や色彩のインスピレーションを即座に紙に写し取れるのは、ドライパステルならではの強みです。
PIGMENT TOKYOでは、初めての方にも最適な「48色セット」から、日本の情緒を網羅したフルライナップの「242色セット」まで幅広くご用意しています。
混色だけでは出せない微細な色相の違いを感じ、本格的な作品制作に用いる場合は、あらかじめ幅広い色域を揃えておくのもおすすめです。
手元に豊かな色彩があることで、使い手側の感性も研ぎ澄まされ、奥深い表現の広がりとなっていくのではないでしょうか。画材とともに色彩感覚が育まれていく楽しさを感じながら、繊細な色の重なりがもたらす、優美で深みのある色彩の世界を、ぜひお手元で体験してください。












