ー箔とは
箔とは金属を薄く延ばし、絵画などに装飾を施すために用いられる画材です。
加工が容易かつ強い光沢を放ち、保存性にも優れている金は世界各国で美の対象となり、様々な美術様式の進化と発展を遂げました。
とりわけ光源を自然光と焔に頼らざるを得ない時代においては、現代でいう間接照明のような役割を果たしていました。
日本美術の場合、先人たちは「仄暗い日本家屋の環境下で、いかに明るい空間を演出するか」の探求を試みました。その結果、金屏風や蒔絵、切金をはじめとする金属箔を用いた美術作品など、多様な発展を遂げています。
《四季花草図屏風》狩野光信、16世紀、メトロポリタン美術館蔵
箔は非常に柔らかく薄いため、支持体に貼り付けるのはもちろん、好きな形に切り取ったり、細かくしたものをパウダー状に振りかけるなど、多彩な表現をすることが可能です。
ー箔の種類について
箔には金・銀・銅・プラチナ・アルミなど様々な金属が使用されます。銀箔に合成樹脂と染料や顔料で着色コーティングを施した、カラフルな新光箔という商品もあります。
一言に金の箔と言っても以下のような種類があり、色味や形状によって様々な名前が付けられています。
●純金箔… 純金箔 三歩色 断切、純金箔 四号 断切、純金箔 正五毛 断切、イタリア純金箔 23.75K など
一般的に金箔というと、これら純金箔のことを指します。金特有の豊かな光沢を作り出すことができます。三歩色、四号、正五毛は金の含有率の違いを表しています。断切とは、製法の違いを指す言葉で量産性に優れています。イタリア産の金箔は、日本の金箔に比べると厚みがございます。
●洋金箔… 洋金箔青口、洋金箔赤口 など
真鍮箔、丹銅箔とも呼ばれています。銅と亜鉛の合金で、純金箔に比べて安価なため純金箔の代用品として使われます。
●切り廻し… 純金箔四号/切廻し など
箔を正方形に整形した時に落としてしまう周りの部分で、細かく砕かれたものです。
シート状を必要としない箔押しや、砂子筒を使用し細かく砕く作業に向いています。
●金消… 純金消 正一歩 0.4g、純金消 正五毛 0.4g、純金消 青色 0.4g など
粒子の細かい純金顔料です。絵画や高級仏具、金継などにも使用されます。これを細かく練り潰し、膠等と練ったものを金/銀消、金/銀泥と呼びます。
下記の特集でも、色の違いに着目しつつ種類についてご紹介しております。
また、古より夜空に光る月を表現する際に用いられてきた銀箔の種類は、こちらにまとめています。
ー箔を貼ってみよう
箔を貼るために必要な道具の一例は次の通りです。
・メディウム
・あかうつし紙
・絵皿
・平筆
・刷毛
・シッカロール
箔は紙と紙をコラージュする時と同じように、支持体へメディウムで定着させます。初心者の方には、水性箔下糊のアクアミッショーネをおすすめしております。こちらの商品はボトルから出してそのまま利用できるので、気軽に箔貼りを体験いただけます。
また当ラボオリジナル商品、魚膠も箔の接着に利用できます。こちらの商品をご利用の場合は、併せてアルギン酸もご購入ください。アルギン酸を使用することで、魚膠溶液に粘度を保たせ、乾燥速度の調整を行うことができます。
詳しい貼り方はこちらの動画もご参考にしてください。
また、初めての方でも気軽に始められる「画材セット(はじめての箔/はじめての純金箔)」もおすすめです。
※こちらの商品は販売を終了いたしました。
ー砂子筒で箔を散らす
箔は砂子筒を利用して、パラパラと細かく支持体へ散らすことができます。
砂子筒の「砂子」とは、箔を細かく粉にしたものです。
経巻や色紙など書の料紙装飾に多用されるほか、絵画では光を表現するために地面や霞の部分などに用いられています。
こちらも箔を貼るときと同様に接着剤が必要になりますので、魚膠を薄めてご使用ください。
目の荒さによってテクスチャを変えることができ、「金泥」が一番細かく「極荒」は最も網目が大きくなります。
箔をそのまま砂子筒に入れて振りかけることもできますし、そうした表現に特化した切り廻しという商品もございます。また、箔を貼ったときに出た細かい箔を集めて、切り廻しにすると無駄がなく、便利です。
砂子に関する詳細はこちらの記事をご覧ください。
ー好きな形に貼り付けよう
紙をコラージュする時のように、箔を切ることで自分の好きな形にアレンジすることも可能です。箔を和紙で挟んだ状態であれば、ハサミやカッターで自由に切ることができますが竹刀か西洋式箔切りナイフがあるととても便利です。また、箔を仮置きしたり、カッターマットとして鹿皮台か西洋式箔切り台があれば、スムーズに作業することができます動物の革を貼った台を利用することで、台に貼り付くことを防ぎます。
また、シルクスクリーンのように型を使えば、細かい模様を支持体に転写させることも可能です。
箔と型紙を使用して文様を施す「印金」の技法について、過去の特集で作業過程をご紹介しております。
※こちらのイベントは終了しております。
ー箔をメノウ棒で磨く
箔は磨きのプロセスを加えることで、さらに輝かせることができます。ヨーロッパでは瑪瑙(めのう)を用いて箔を磨きます。日本では鯛や猪の牙で金の絵具を磨く場合があります。
メノウ棒の詳しい使い方はこちらの記事もご覧ください。
ー現代に息づく箔表現
箔の表現方法は、今も進化を続けています。
広島の箔メーカー、株式会社 歴清社が独自開発した箔を駆使した箔押し紙は、美術品用途だけでなく、外資系ホテルのエントランスをはじめとしたインテリアなどにも用いられています。
箔押し紙については、下記で詳しくご紹介しています。
また箔押し紙の端切れをパックにした「手仕事のおすそわけ」も非常に人気のある商品のひとつで、職人ひとりひとりの手仕事にかける想いが詰め込まれた一品です。
大手製鉄メーカーの日本製鉄が開発・生産を行っているカラーチタンTranTixxiも、箔の精神を受け継ぐ最先端の商品のひとつです。
同社の独自技術によって、チタン表面の酸化被膜を自在にコントロールし、豊富なカラーバリエーションを作り出しています。加えて酸性雨でも変色しにくく紫外線や海水への耐性も高いことから、これまでは建築物の外装などに用いられてきました。
この意匠性チタンTranTixxiを用いた絵画用基底材カラーチタンパネルを、PIGMENT TOKYOでは取り扱っています。
もちろんアクリル絵具や油絵具で描いたり、箔を貼ることも可能です。
下記の特集では、試し塗りとあわせてカラーチタンパネルの詳細をご紹介しております。
ーまとめ
箔というと少々ハードルが高く感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが当ラボでは、初心者の方でも扱いやすいキットから解説の動画コンテンツまで、幅広くご用意しております。
初めて箔に触れる方向けに定期開催している『[入門]箔で夜空をつくるワークショップ』では、「平押し」「切箔」「砂子」といった箔の伝統技法を習得いただけます。
当ラボではワークショップやメールマガジンなどを通じて、箔のみならず画材について定期的に情報提供しております。
ご関心のある方は、ぜひ会員登録をお願いいたします。