遷り変わる銀の箔

遷り変わる銀の箔

箔という言葉から、どのような色を想像しますか。

世界中で最も使われているであろう金色の箔は、箔の象徴とも言える色かもしれません。

そして、次点には、銀色の箔が挙げられるでしょう。

しかしこの銀色、実は銀100%で作られている箔だけではありません。

 

その理由は、銀の特性が影響しています。

銀は酸化しやすい性質を持っており、空気に触れると黒ずんでしまいます。シルバーアクセサリーをお持ちの方は、同じような経験をされた方も多いのではないでしょうか。

そのため、純銀だけはその輝きを保つことが難しく、同系色の違う物質や、加工が施された銀箔が使われていることがあります。

 

 

では、主な銀色の箔、銀からできた箔をご紹介します。

 

 

 

◾️本銀箔

 

 

こちらはまさに、純銀100%の本銀箔。

そのため、長期間空気に触れることで徐々に経年変化します。「白銀(はくぎん、しろがね)」の名に相応しく、凛とした白やかな銀色です。

本銀ならではの優美な輝きや、エージングを生かした表現を求める方は、ぜひお使いください。

 

 

 

◾️変色しない箔

 

 

 

装飾品などにもよく使われているプラチナ100%の箔。環境を選ばず、箔そのものは変化しないので、銀色の美しさを保ちたい方におすすめです。

白金の異名の通り、温かみのある白さのある銀色です。

 

 

 

◾️変色しにくい箔

 

 

どちらも銀箔よりは変色しにくい箔です。

アルミは、日常で目にする機会が多い金属なので、イメージしやすいかもしれません。静かな銀色の光沢を持つ、リーズナブルな箔です。

 

錫(すず)は銀箔やプラチナ、ホワイトゴールドよりもやや黄味があり、落ち着いた色合いの銀色です。

 

 

 

◾️変色はしにくいが、退色する箔

 

 

新光箔は純銀100%から作られた箔ですが、合成樹脂と染料・顔料により着色コーティングされています。そのため、酸化による変色はしにくいのですが、光の照射が長期に及ぶと着色部分が若干退色します。

No.1 白色、No.28 銀ねずみ色はどちらも銀色ですが、着色コーティングされているので新光箔の特性を持っています。

他にも、金色、赤、青、緑、黒色系など全32色あり、色のついた箔をお探しの方におすすめです。

 

【新光箔 一覧】

 

 

 

◾️変色する箔

 

 

中金箔は一見銀色ではないのですが、銀100%を用いた金色の箔です。

銀箔を変色させて作られているため、銀の特性は引き継がれています。本銀箔とは異なる色の変容をお楽しみいただけます。

 

ホワイトゴールドは純金50%、純銀50%でできた箔。銀の含有率が高いため、こちらも銀の性質を受け継いでいます。

プラチナと錫の中間色で、アイボリー系の柔らかな色調の銀色です。歳月を重ねると、どのような色味になるのでしょうか。

 

 

 

こちらの三種も純銀100%から作られています。

銀箔を硫黄で燻し、銀そのものの色を変化させて作られた箔で、日本独自の技術です。

また、銀は燻すことで、赤から紫、青、そして黒へと変色します。一枚一枚に表情の違いがあり、青貝箔は紫から青、赤貝箔はオレンジから赤、紫と色幅があります。

職人技から生まれた、色の揺らぎを感じることができる箔、とも言えるかもしれません。

ご使用の環境によって色の変幻や進度も異なりますので、その様を取り入れた表現も見ものではないでしょうか。

 

 

 

また、銀でできた箔にドーサ引きすることで、酸化による変色を完全に防ぐことはできませんが、少し遅らせることができます。

ただし、赤貝箔と青貝箔はドーサを塗布した箇所の色が大きく変化しますので、ご注意ください。

下の画像は、それぞれの箔の左側はドーサ無し、右側に箔上ドーサを施しています。

 

 

【使用画材】

基底材:竹和紙 水彩画用

糊材:魚膠溶液 20%、アルギン酸溶液 1%

箔:青貝箔、赤貝箔、黒箔、本銀箔

箔上ドーサ液:魚膠溶液(魚膠溶液20%を水で1-1.5%濃度に希釈)

【ドーサの有無】

箔の左側:ドーサ無し/箔の右側:ドーサ有り

 

魚膠溶液 20%...こちらの商品は販売を終了いたしました。


本銀箔以外は、はっきりとした色の変化が見られます。こちらは、いずれも箔貼りと箔上ドーサを行ってから約1年ほど経過しているので、その間に経年変化もしています。

赤貝箔、青貝箔の色の変化は、膠以外のドーサ液やメディウムでも起こりますが、魚膠のように透明感のあるメディウムの方が箔色の変化が顕著に見られます。

 

 

箔の貼り方は、こちらの動画をご参照ください。

 

 

 

InstagramのIGTVでも、燻し銀箔や箔で使う糊剤、箔で使う膠についてもご説明しております。

◾️【IGTV】 Fumigated Silver Leaf / 燻し銀箔

 

 

 

では、この箔に絵具は乗るのか、作品に取り入れたい方は気になるところです。

メディウムに膠やアラビアゴムなどを使用した場合や、はじき止め効果のあるオックスゴールを使った時と描き比べてみます。

 

 

◾️墨×アルミ箔

 

【使用画材】

基底材:楮紙 晒 ドーサ 10匁

箔:アルミ箔

色材:大和雅墨 碧潭(二度塗り)

【オックスゴール有無/塗布方法】

左:塗布なし

中央:下塗り

右:色材に混入

 

 

水分の多い墨ははじきやすく、濃いめに磨るのはもちろんのこと、濃墨に向いている墨の使用をおすすめします。

今回、通常使用程度の濃さで試したところ、オックスゴールの有無に関わらずかなりはじいてしまったため、重ね塗りをしました。

 

また、オックスゴールは下塗りとして使用するよりも、墨に混ぜてから描いた方がはじき止めの効果を得られました。

しかし、それでもまだアウトラインが不鮮明な部分もあります。

さらに箔への馴染みをよくしたい場合は、ボディパウダーをつけた脱脂綿で箔を脱脂し、パウダーの粉をよく落としてからお描きください。

 

 

◾️アラビアゴム×アルミ箔

 

【使用画材】

基底材:楮紙 晒 ドーサ 10匁

箔:アルミ箔

色材:吉祥 群緑13

メディウム:アラビアゴム メディウム

【オックスゴール有無/塗布方法】

左:塗布なし

中央:下塗り

右:色材に混入

 

 

こちらは重ね塗りをしていませんが、墨よりも定着が良く、やはりオックスゴールをあらかじめ入れた方が更に箔への馴染みが良くなりました。

しかしながら、水分をはじくことで偶然生まれた模様も、箔ならではの魅力。メディウムや色材により定着力も異なりますので、作品の表現に合わせて調整してお使いください。

 

また、金箔の種類やその違いについては、こちらの記事をご参照ください。

 

【FEATURES】金色の画材、金箔を探る

 

 

 

一見難しそうに見える箔ですが、PIGMENT TOKYOのワークショップでは初めてお使いになる方やお子様でも楽しめる講座をご用意しております。

 

◾️ワークショップ

[入門]箔で夜空をつくる

 

日程:毎月1回

時間:14:00ー15:30

場所:PIGMENT TOKYO

ご予約:https://pigment-store.myshopify.com/collections/workshop

※詳細は、ワークショップのページにてご確認ください。

 

定期開催している人気の箔のワークショップです。日本の伝統的な箔の貼り方や表現を体験できます。

専任講師による、画材に触れながら学べるワークショップ。こちらも、ぜひご活用ください。

 

 

 

「変色する」というデメリットにも見える銀箔の特性は、その背中合わせに無限の可能性があります。その個性を知り、使いこなすことで、自分だけの表現に繋がるかもしれません。

白石 奈都子

PIGMENT TOKYO

白石 奈都子

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。

多摩美術大学 染織デザイン専攻卒業。オリジナルの和紙、書を主体とした制作に携わり、アーティストとして活動中。