応用的なオイルメディウムの使い方

応用的なオイルメディウムの使い方

みなさまは油絵を描かれるとき、どのような画用液やメディウムを使われてますか。


一番スタンダードなのは、各画材メーカーから出されているペインティングオイルでしょう。これは乾性油とテレピンなどの揮発性油を基本とし、商品によって光沢感をより出すための樹脂や、乾燥速度を速くするための成分が添加されています。

油絵は、絵具を重ね塗りするとき、下の層の絵具より上の層の油分を多くして描く「ファットオーバーリーン」という決まりごとがあります。もちろん作品や作風によって、必ずしも守る必要があるものではありませんが、上に来る層ほど絵具が柔らかくなるため、画面のひび割れが起きにくくなるなどのメリットがあります。


ただ、乾性油単体では非常に乾燥が遅いため、適度な比率でこれを薄めて使用する必要があります。

すでに調合済みのペインティングオイルを揮発性油で薄めながら使用すれば、トラブルが起きにくく、適度な乾燥速度も得られる作品を描くことができます。

もちろん比率を色々とテストしながら自身で配合することも可能なのですが、初心者の場合はまずこれを購入されることをおすすめします。


油絵具の展色剤で欠かすことができない乾性油の詳しい種類について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。



PIGMENT TOKYO「乾性油を使い分ける



ただ、全ての人にとってこの「ファットオーバーリーン」が適した技法であるとは限りません。例えば絵を乾燥させるスペースが限られていたり、指定された時間内に作品制作をしなくてはいけない場合、適度な乾燥速度は欠かせない要素のひとつです。

また、油絵具に強い光沢感を得たい場合や、より乾燥速度を遅らせたい場合など、メディウムに求める要素は人それぞれでしょう。

そこで今回は、ペインティングオイルをすでに使ったことがあるという方に向けて、目的別でおすすめの展色剤や樹脂、メディウムをご紹介します。

最初は普段使っているオイルに添加して使ってみて、もし手に合ってるようでしたらオリジナルの技法に挑戦してみるのも良いかもしれません。



1.乾燥速度を速くしたい


ただ一言に乾燥速度を速くしたいと言っても、アプローチ方法はさまざまですが、一番シンプルな方法はアルキド樹脂を添加することです。

この樹脂は絵画用はもちろん、塗料用樹脂としても広く使用されています。ホームセンターの塗料でこの名前を目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

PIGMENT TOKYO取扱いの商品ですと「デュオ クイックドライングリキッド」がおすすめです。

 

 

こちらはガラスのボトルに入ったアルキド樹脂で、乾きが早く流動性に優れており、乾燥後も適度なつやを保ちます。ペインティングオイルなどの展色剤に混ぜて使用することもできますし、絵具に直接混ぜることも可能です。

ただ、過剰に添加すると絵具の発色と耐光性が落ちるのはもちろん、画面に黄変が起きたりすることもありますので、気をつけてご使用ください。

 

より粘度の高い「デュオ クイックドライングメディウムグロス」という商品もございます。厚塗りをする絵具に添加する場合はこちらをおすすめします。

 

 

また、ZECCHIからリリースされている「ブラックオイル 3270」も非常に乾燥速度の速い乾性油ですが、オイル自体が濃色のため、中間色から暗色の絵具に適しています。添加できる量は最大で50%程度です。

 

 

2.より光沢感を出したい

 

水系メディウムにはない、しっとりとした濡れ色の重厚感のある光沢感を有しているのが乾性油の特徴です。ただ、それ以上に光沢感を出したいという方におすすめなのが、ダンマル樹脂です。

画材店によっては溶解した状態で売ってる場合もあるのですが、当ラボでは原材料そのものをお取り扱いしています。

溶解方法は非常にシンプルで、濾す用の布にダンマル樹脂を入れたあと、紅茶のパックを使う時のようにテレピンの入った瓶へ布ごと樹脂を浸します。

体積比で揮発性油2〜3に対してダンマル樹脂を1程度の比率にして、上から蓋をして溶解させます。この比率の場合、1日から3日程度で完全に溶解します。濾すための布は、ストッキングやお茶を濾す時のパックなどを使用するのがおすすめです。

 

 

 

それ以外に、上記でご紹介した「デュオ クイックドライングメディウムグロス」を使用する方法もございます。これはアルキド樹脂由来の光沢となりますので、ダンマル樹脂とはまた異なった質感を得ることができます。



3.混合技法をやってみたい

 

仕上げまで油絵具で描く技法が確立されるまでの過渡期に、テンペラ絵具と油絵具を併用する技法が確立されました。現代においても、それらの技法を応用してさまざまな表現に挑戦するアーティストが多数おります。

しっくりと調和しないこと、たがいに性分のあわないことのたとえとして、日本では「水と油」という言葉があるように、通常は水と油は混ざることはありません。

しかし、クサカベの「AQYLA」を用いることで、それが可能となります。これにより、油絵具の上から水系の絵具の細やかなハッチング表現をすることができます。




 

 

当ラボでは「水性ながら油性の性質も持つ新しい絵具、AQYLAとは?」という記事にて株式会社クサカベにお邪魔し、技術開発部課長の岩崎氏にこの商品の魅力と、その特性についてお伺いしました。

 

PIGMENT TOKYO 「水性ながら油性の性質も持つ新しい絵具、AQYLAとは?




このように、油絵具には目的や技法によって多様な画用液やメディウムが存在します。

新しい技法に挑戦してみたり、表現の幅を広げてみたいという方はぜひこれらの画材を試してみてください。

Profile

大矢 享

Art Materials Expert at PIGMENT TOKYO

AKIRA OYA

Born in 1989 in Tokyo. Master of Fine Art and Design at Nihon University College of Art. While working at PIGMENT TOKYO as an Art Materials Expert, he also continues his career as a visual artist.

Born in 1989 in Tokyo. Master of Fine Art and Design at Nihon University College of Art. While working at PIGMENT TOKYO as an Art Materials Expert, he also continues his career as a visual artist.