2022年6月より開催する「*ブルーピリオド展〜アートって、才能か?〜」は、漫画『ブルーピリオド』の作中絵画や没入型シアターを通し、視覚だけでなく様々な感性を刺激するかのような展示です。
*こちらの展示は終了しております。
インタビュー前編に続き、兼ねてよりPIGMENTと親交のある、作者の山口つばさ氏のスタジオにて、制作における表現方法やその思いについて伺います。
山口つばさ氏 インタビューPart 1
【ARTICLES】作家の道具 — 漫画家 山口つばさ —
山口氏のスタジオ風景より。
アナログ作業を行うデスクには、筆やペン、墨など制作に使われる画材が並んでいます。画像中央は、スタジオで飼育されているベンガルワシミミズクのヨル君。
—アナログで描いたものをデジタルに取り込んだ漫画表現をされていますが、絵肌やグラデーションをどのように表現されていますか。また、制作をする上で気にしているところなどあれば、教えてください。
山口つばさ氏(以下、山口/敬称略):
元々フルアナログで、トーンもアナログで制作していたんです。
ブルーピリオドが初連載作品で、その前に短期連載で描いていた新海誠監督の作品がフルアナログで、それがとても時間がかかるんです。
作中に作品を取り込んだりするので、どうしてもデジタルに移行せざるえなくて。でも、逆にデジタルならではの表現ができるといいのかなと思っています。
例えば、砂トーンをちょっとだけかけたり、少しだけレイヤー感を出してみたりして、気をつけています。
—トーンはデジタルだけで描かれているのですか。
山口:デジタルだけですが、トーンが単調にならないように、ちょっと水彩っぽい質感に落とすようにしています。
墨を水で溶いて原稿用紙にじゃばーっと塗って、それをスキャナーで取り込み、トーン化できる機能がクリップスタジオにあるのでそれでトーンを作ります。
(トーンが)作中の作品だと浮かないように、絵を描く話なので水彩っぽい表現を入れて、作品の持っている絵画とマッチするようにしています。
—まさにデジタルとアナログを併用しているんですね。墨はよく使われるのですか。
山口:最初に5枚くらい墨のトーンみたいなのを作って、それを使い回しています。
—最近はデジタル表現が多いのですが、アナログならではの表現じゃないとできないものもあり、やはりいいなと思います。
山口:ありがとうございます。でも、デジタルはやはり便利ですよね。いいものも増えています。デジタルとアナログのいいとこどりをできればな、と。
フルアナログで制作していた時の表現方法を説明する山口氏。
「彼女と彼女の猫」著:山口つばさ 原作:新海誠
山口:フルアナログの初期には、原稿用紙を削ったりしてました。
新海誠監督の作品「彼女と彼女の猫」。この頃がフルアナログです。
あとは、スパッタリングなども使いました。
—いわゆる絵画表現ですね。
山口:受験とかで教わったような表現とか、画材の使い方の面白さを生かそうと。
例えば、雪の奥行きが出るように、ホワイトで落としているところと、削っているところで差をつけてみたり。誰も見ていないようなところだけど……この辺がフワッとするように描いたり。
—「彼女と彼女の猫」も拝読したのですが、新海誠監督が原作と知り、驚きました。
山口:ありがとうございます。
新海監督の風景表現とか、季節や温度、日の入り方が印象的であるべき作品だと思ったので、この時の方が、だいぶ絵的な表現を頑張っています。
なんとか絵で持たせられるように、そうじゃないとヤバい!と思って描いていました。
原稿を削りホワイトで落として、雪や奥行きを表現した部分。(「彼女と彼女の猫」より)
—制作において大切にされている素材や質感など、山口さんが考える「素材と質感の美学」はありますか。
山口:ちゃんと考えている漫画家もいるので、そんな特殊なことでもないかもしれませんが……。トーンを描くときに、レイヤー感というかグレーの色が綺麗になるように、他の方より考えているのかもしれません。
例えば、トーンを重ねるときにちょっと網目の違うグレーを重ねて、色濃くしたりとか、黒や網目の違いを気にして違いを出しています。
—グレーをどう見せるか。
山口:砂トーンを、同じ濃さなんだけど色に変化が出るように、微妙に重ね方を変えたりします。
他の方だと同じドットで濃度の濃さで見せる場合が多いのですが、自分の場合は網目で濃さやニュアンスをかえる場合が多い。砂じゃなくて、チェックだったり。
あんまりドットやトーンの単調さが出ないようにしています。
—プルーピリオドは陰影やグレーが綺麗だなと思っていたので、お話を聞いてそれが合致しました。
山口:あー嬉しいです。それはもしかしたら受け取る側の感性の問題では、と私は思っています。
(ブルーピリオドの)1話をTwitterであげた時に、「ずっとカラーで描かれていると思ったのに、最後まで見たらモノクロだった」と言って下さった方が何人かいたんです。多分それはそういうレイヤーや水彩のような表現が、そういう風に思ってくれていたのかなと。
—私も実は……カラーの印象がずっと記憶にあって、(時間をおいて)最近改めて拝見したら「あれ、グレーだったんだ」って思いました。
山口:そうそう、たまにそういう感想もいただきます。そこは、他の漫画よりは気を使っているのかな、と思います。
—お話を伺って、もう一回改めて読んでみたくなりました。
アナログとデジタル、それぞれの特性を生かしながら、山口氏自身の描出方法として取り入れた『ブルーピリオド』。
モノクロの世界だからこそ感じることのできる、陰影の美からなる空間表現は、山口氏の感性や技術だけでなく、漫画作品への思いから生まれたものではないでしょうか。