作家の道具 — 漫画家 山口つばさ —

作家の道具 — 漫画家 山口つばさ —

絵がうまいだけではなく、天才だけが進める道でもない。

答えのない美術の世界を描いた漫画、『ブルーピリオド』。

アートにゆかりがある方だけでなく、この作品を通して美術に触れるきっかけになったなど、多方面で大きな影響があった作品のひとつではないでしょうか。

その物語の世界観を五感で体感できる展覧会、「*ブルーピリオド展〜アートって、才能か?」が開催されます。 

*こちらの展示は終了しております。

 

作者の漫画家の山口つばさ氏とPIGMENT TOKYOとの出会いは、PIGMENTで開催したワークショップ。ご参加いただいたことを機に、その後も当ラボの絵筆をご愛用いただいております。

漫画制作の現場において、どのように絵筆を使い、印刷を媒体とする表現で活用しているのか。

今回、展覧会に先駆けてスタジオにお邪魔し、画材や道具、制作について、インタビューをいたしました。

 

 

山口つばさ氏 スタジオにて。一緒に写っているのは山口氏が飼育しているベンガルワシミミズクのヨル君。

 

 

— PIGMENTの筆をこんなにお使いいただいているのですね。

山口つばさ氏(以下、山口/敬称略):

はい、他のお店の筆や刷毛も使ってみたのですがしっくりこなくて……忖度なく、PIGMENTで買った筆は本当に使い心地が良いです。

 

 

アナログの制作作業が行なわれているデスクにて。

愛用されてる絵筆から、エージングによる味わいとアナログ作業ならではの痕跡が伺えます。

 

 

—ありがとうございます。

いつも使われているのは、こちらの筆(連筆平筆、線描筆、コリンスキー優印面相、削用)ですか?とても使いこまれていますね。

山口:はい、こちらをメインで使っています。

 

 

 

 

 

—刷毛や結構大きめの筆も使うのですね。平筆も使われているのですか。

山口:描写では肌とかマット目のところに平筆や線描筆などを使います。輪郭などのラインはGペンです。

 

 

孔雀筆や白鶏毛筆、女竹筆などの希少筆もお持ちなのですね。

希少筆はPIGMENTでも人気で、実はすぐに売れてしまいます。孔雀筆や白鶏毛筆のようにしなやかなものは、自分が思った線と違うラインや動きが出て面白いですよね。

山口:穂の色が、使うことで鈍っていくのが嫌だなと思って……希少筆はまだ使っていません。でも面白そうですよね、今度使ってみます。

 

 

 

 

 

 

 

他に使ってみたい、またはお気に入りの画材や筆はありますか。

山口:色々試してみたいのですが、新しい表現を探すのは大変なので、今はあまり試せていません。

本当に、PIGMENTの筆はテンション上がります!

筆が悪いと全然絵が変わるし、筆がいいとめっちゃ描きやすくて、自分の絵が上手くなっているような気がします。

 

 

確かに、筆の状態で線や描画が変わりますよね。

山口さんとPIGMENTとの出会いはワークショップの色彩学講座ということですが、今ご興味のあるジャンルや受けてみたいワークショップはありますか。

山口:パッと思いつくのは、日本画をやってみたいです。

日本画はやったことないので、どうやってやるんだろうって。

 

 

ワークショップで、岩絵具で絵を描いていただく日本画の講座もありますので、よろしければ今度いらしてください。

山口:ぜひ行ってみたいです。他には何がありますか。

 

 

現在、定期的に開催しているのは、水干顔料で絵具を作る「水彩絵具づくり」と、箔の講座があります。

山口:水彩絵具の講座は前に受けました!

美術系の高校に通っていたので一通り勉強したのですが、日本画の画材はハードルが高いので日本画だけやらなかったなって。あとは作中で描く時に、勉強したいなと。

 

 

あと、特別企画の講座ですが、クレヨンやパステルを作る講座もあります。

山口:あ、楽しそう!面白いですよね、画材作るの。

 

 

はい、画材を作るのは楽しいですよね。

この2年間はあまりできなかったのですが、また以前のように、PIGMENTならではの色々な種類のワークショップを開催できればいいなと思っています。

山口:ブルーピリオドのファンも、美術に興味はあるけどどこから手をつけていいのか……という方が多い印象があります。この作品を読んでいる方は、ワークショップに興味ある人も多そうですね。

 

 

ブルーピリオドを読んで、油絵に興味が出る人も多そうですね。

山口:大学を受験するほどじゃないけど、と。

 

 

—PIGMENTにも、プルーピリオドを読んでいる美大の受験生や、受験用で良い筆を使いたいと来てくださったお客様もいらっしゃいます。

山口:やはり影響が。学生の皆さんも、良い筆を使うようになってくれたら嬉しいなと思います。

 

 

美大のことや制作上の悩みなど、、この作品を通して、多くの人にアートが生まれる場所のことを知ってもらえるようになったのではないかと思います。

山口:お子さんが美大に行っている親御さんが、「子供が何をやっているかわかった」と言っていました。この作品がきっかけでカルチャースクールに通った方もいて、アートが趣味の選択肢のひとつとして上がった気がして、嬉しいです。

 

 

 

 

—漫画はどのように制作されていますか。

山口:完全デジタルではなくて、途中まで手描きで描いて、トーンとかはスキャナーで取り込んでデジタルで、という感じです。

 

 

—人物は全て手書きですか?

山口:はい。

 

 

 

 

—Youtubeの山口さんのチャンネル山口つばさの遊び場で、人物を描かれている動画を拝見しました。あのようなイメージでしょうか。表紙は透明水彩ですか?

山口:はい、あんな感じです。表紙は透明水彩とアクリル絵具を使っています。

 

山口つばさの遊び場より

 

 

—同チャンネルで、他の漫画家の先生と表現方法のお話をされていたのを聞いて、やはり技法などを研究されているのかな、と思いました。

山口:そんなことはないのですが……こうするとこう見える、例えばりんごにびっくりマークをつけるような、絵画あるあるみたいな。そんな感じです。

 

 

そういうところは、やはり絵画表現から繋がっていますか?

山口:はい、それはもちろんあります。

 

 

 

 

—アナログとデジタルで制作する際に、気持ちの上で気をつけている部分はありますか?

山口:漫画はそもそも工程が多いんです。

ネーム描いて、下書き描いて、全体を仕上げて、同じ絵を何枚も描くみたいな。これも下書きと、何枚もあって……。

 

 

—本当ですね、同じものが何枚も……こんな感じなんですね。

山口:一人でやっているんだけど、分担作業みたいなところがあって。次の工程の山口さんが頑張ってくれるだろう、って。

自分の分身みたいなのが次のトーンを、みたいな時はあります。

 

 

—それがフルアナログになると、すごい大変ですよね。作品によっても異なるかと思いますが、制作にかかる時間も違いますか?

山口:自分はやっぱり違います。描いている感じはアナログの方があります。

若干作業っぽくなりがちなので、気を抜くとデジタルでの作業は心が無になってしまいます。

手入れの時は、意識して画面を見ないといけないので、ラジオなどを聴きながら作画しています。

 

 

—(1話で)作画を描くのにどれくらい時間がかかりますか。

山口:大体20日くらいです。40ページくらいで2週間かな。15〜20日くらいに始まって、月末に終わります。

 

 

—以前のインタビューで、デジタルの上で限界があると仰っていたのですが、どのようなことがありますか。

山口:最近アナログで納品することが多く、蛍光カラーをよく使うのですが、スキャンで蛍光色が出ないんです。なので、原画とスキャンデータが違う、ということがあります。

印刷では色が出ないのですが、この絵自体を良くするようにしないとな、と思います。

 

 

 

 

スタジオにはアナログとデジタル、それぞれ専用のデスク。手描き用のデスクの上には使い込まれたたくさんの筆と、ペン。

小さめの筆ばかりが使われているかと思いきや、大小様々な筆で描かれていることに驚きました。

 

インタビューの後篇では、絵画表現に造詣の深い山口氏ならではの、漫画というフィールドで使われる画材や、アナログとデジタルの共存、また制作についての思いをさらに掘り下げて伺います。

 

山口つばさ氏インタビュー Part 2
【ARICLES】質感の美学 — 漫画家 山口つばさ —

 

 

 

展覧会情報

 

 

【開催概要】

展示会名:「ブルーピリオド展~アートって、才能か?~」

期間 :2022年6月18(土)~9月27日(火)

会場 :東京 天王洲 寺田倉庫G1ビル(東京都品川区東品川2丁目6−4)

主催 :ブルーピリオド展製作委員会

オフィシャルホームページ:https://blueperiod-ten.jp/

コピーライト:©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会


※こちらの展示は終了しております。

Profile

白石 奈都子

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

白石 奈都子

多摩美術大学染織デザイン専攻卒業。オリジナルの紙や和紙、書を主体とした制作に携わり、現在はアーティストとして活動中。

多摩美術大学染織デザイン専攻卒業。オリジナルの紙や和紙、書を主体とした制作に携わり、現在はアーティストとして活動中。