混ぜて楽しむテンペラ絵具

混ぜて楽しむテンペラ絵具

一言に水に溶けるメディウムと言っても、その種類は多種多様です。

アラビアゴムを主材とする水彩絵具、動物性の皮や骨から作られる膠、合成樹脂から作られるアクリルエマルションなど、私たちが画材屋でよく目にするものだけでも、色々な種類があります。

 

特にアラビアゴムやアクリルエマルションはそのまま顔料と混ぜるだけで絵具を作ることができるので、PIGMENT店頭でご覧いただけるサンプルではもちろんのこと、当ラボ記事コンテンツでも重宝しております。

 

 

 

長い時代で愛され続けてきた画材は使いやすいのは事実。

ただ、チューブ入り絵具が中心の今、プロダクトとして流通しているメディウム以外のものに触れる機会を作るのは、難しいのではないでしょうか。

一念発起して「新しいメディウムを試そう」と思って、技法書を片手にレシピと睨めこをするのも、少々ハードルが高いですよね。

そんな方におすすめなのが、こちらの2つのテンペラメディウムです。

 

 

 

※こちらの商品は販売を終了いたしました。

カゼインメディウム

 

卵テンペラにカゼインと、どちらも美術を専門にしてる方以外にはあまり聞きなれない名前かもしれません。

 

テンペラ絵具とは「混ぜ合わせる」という意味のラテン語であるテンペラーレ(temperare)が語源。

これら素材と絵画史のお話は、詳細を語ろうとすると非常に長くなるため、詳しくは別の機会に譲りますが、このふたつのメディウムは油絵具が台頭するよりも前に、ヨーロッパ大陸で主に用いられていました。

 

共通しているのは水溶性でありながらも油系絵具の上に描画が可能ということです。

そのため、単体での使用はもちろん、油絵具で薄く塗り重ねた上から細かい筆でハッチングする混合技法に使用するのもオススメです。

また、その素材や生まれるマチエールも、私たちが普段見慣れた合成樹脂とは一味も二味も違います。

 

「古典技法だ」と、ついつい構えてしまいそうになりますが、使い方は簡単、顔料とメディウムを混ぜるだけです。

水溶性という特性を生かして、水練り顔料や顔料ペーストを使うとより簡単に絵具づくりが楽しめます。

 

 

 

テンペラペースト

 

 

 

卵テンペラとはその名の通り、鶏卵をメディウムとする絵画技法です。卵黄、卵白、全卵と全てが糊剤として使用できるため、使用された時代や作家によって様々なレシピが存在しています。非常にカスタム性の高い絵具です。

こってりとした肉厚な発色をする油絵具と比べて、ビビットで軽やかな発色をするのが特徴です。

 

 

【使用画材】

色材:易分散 フタロシアニンブルー、顔料ペースト チタニウムホワイト

メディウム:卵テンペラメディウム

基底材:チップボード紙にキャンバス

 

このメディウムは適度な光沢も有しており、油絵具とアクリル絵具の中間のような発色と光沢感を持っています。

ただしメディウム本体が飴色玉ねぎのような色をしているため、白と混ぜると少しだけ明度が下がります。

 

 

カゼインメディウムとは、牛乳から抽出したミルクカゼインを用いたメディウムです。

原料はこのように粉状になっており、これに膨潤のプロセスや炭酸アンモニウムの添加などを経てやっとメディウムの状態になります。以下商品リンク先に処方を記載しておりますが、読んでみると分かるとおり少し骨が折れますね。

 

 

 

こちらのカゼインメディウムは卵テンペラメディウム同様、色材と混ぜるだけなので気軽に絵画制作が可能です。

マットな美しい絵肌を作ることができますが、その強力な接着力ゆえ、木枠に張ったキャンバスなど柔軟性のある支持体に塗るとひび割れの危険性があります。

必ず板など硬質な支持体を利用してください。

 

 

 

【使用画材】

色材:易分散 フタロシアニンブルー、顔料ペースト チタニウムホワイト

メディウム:カゼインメディウム

基底材:チップボード紙にキャンバス

 

乾燥後は、卵テンペラメディウムと比べると少しドライな印象です。

身近な画材で例えると、卵テンペラメディウムがアクリル絵具に近い光沢感だとしたら、カゼインはアクリルガッシュのようなマットさがあります。

しかし、ガッシュのような色の鈍さや不透明さはなく、フタロシアニンブルーが持つ透明性と発色を最大限に生かしてくれるメディウムです。

乾燥速度が非常に早いため、油系メディウムを添加することで乾き具合を調整できたり、塗膜に柔軟性を与えることも可能です。

 

 

実験として、卵テンペラメディウムとミルクカゼインを混ぜて簡易的なエマルションの絵具を作ってみました。

右から卵テンペラメディウム、ミルクカゼイン、卵テンペラメディウムとミルクカゼインの混合メディウムで、キノフタロンイエローとチタニウムホワイトを混色して塗装しました。

 

下記塗りサンプルのとおり、卵テンペラメディウムが一番濡れ色に近く、卵テンペラメディウムとミルクカゼインがその次、一番マットなのがミルクカゼインでした。

同じ色材と同じ水系テンペラ絵具の仲間でもここまで差が出るとは。実際にサンプルを作った私自身もびっくりしました。

 

 

【使用画材】

色材:易分散 キノフタロンイエロー、顔料ペースト チタニウムホワイト

メディウム:卵テンペラメディウム、カゼインメディウム

基底材:チップボード紙にキャンバス

 

 

こうした古くからあるメディウムは、写真のようなスーパーリアリズム絵画だけに利用されるわけではありません。

例えば抽象表現主義の巨匠、マーク・ロスコは「シーグラム壁画」のシリーズにおいて、溶き油、膠、全卵、天然樹脂、合成樹脂という多様な種類のメディウムを使用して作品制作をしました。

あまり馴染みのない絵具を試すのも、新しい表現の可能性を広げる一つの手段かもしれませんね。

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。