日本美術、及び日本画を制作するにあたって、岩絵具は欠かすことができない素材です。
その起源は定かではありませんが、日本では古墳時代に中国大陸経由で伝来したと言われております。
岩絵具は鉱物を砕いて作られる顔料で、原産国は色によってさまざまです。例えば日本美術の青色の代表格である群青の原料は藍銅鉱(アズライト)という石。
この藍銅鉱、かつては銅山を有していた秋田県でも産出されたという記録もございますが、現在は海外産のものが使用されることがほとんどです。その産出エリアは広く、アメリカやモロッコ、ナミビアで採られています。
金などと比べると安価かつ、世界中で採取されることから、さまざまな国で色材として使用されており、古代エジプトではもちろんのこと、中世のヨーロッパでも絵画用途として用いられてきました。
ちなみに群青というと、天然ウルトラマリンを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、天然のウルトラマリンの原石はラピスラズリです。藍銅鉱の青とは原材料はもちろんのこと、色味も大きく異なります。
これらをはじめとする鉱物由来の色材は、染料と比べて保存性に優れています。6世紀から7世紀にかけて制作されたとされる高松塚古墳の壁画《西壁女子群像》は、顔料と煤で巧みに描かれており、今でも鮮やかな色彩を放っています。
しかし資源が乏しく、技術面でも遅れをとっていた島国において、顔料は輸入に頼らざるを得ない状態にありました。『日本書紀』では朝鮮半島にあった王国、高句麗の王より曇徴という僧侶が彩色と紙墨の技術者として派遣されたという記載があります。
岩絵具はいわば色のついた砂のようなもので、単体では着色能力を有しておりません。つまり、この瓶の中の色と水を混ぜても絵具にはならないのです。
そのため、何かしらのメディウムと混ぜる必要があり、岩絵具で制作したい場合は膠などと混ぜ合わせて絵具にします。
他の色材と比べて岩絵具は1粒あたりの粒子が大きく、ザラザラとした質感が特徴です。ピグメントと比べて非常に物質性の強い素材と言えるでしょう。
ー岩絵具の種類と特徴
岩絵具は大きく分けて以下の3種類がございます。
・新岩絵具
天然岩絵具は、その名の通り鉱山などから産出される鉱物を砕いて顔料化したものです。天然物ゆえ色数に限りはございますが、人工物にはない落ち着いた色味と煌めきが特徴です。
対して新岩絵具は人工の岩絵具です。天然岩絵具が補えない多様な色数を有しています。天然岩絵具と併用しても違和感がないよう、顔料と鉛を含んだガラスを練り合わせて焼くことで人工の鉱物を作り、それを砕いて顔料にしています。天然岩絵具と比べて光を反射しづらく、マットな質感です。
京上岩絵具は新岩絵具の一種で、無鉛ガラスで作っている岩絵具です。新岩絵具は空気中の硫黄と反応して変色する現象が報告されており、その対策として京都府中小企業技術センターとナカガワ胡粉株式会社の合同で開発がなされました。
鉛を使用していないため環境にも優しく、濃色化が可能なことから従来の新岩絵具にはなかった色味が特徴です。
新岩絵具・京上岩絵具については、こちらでも詳しく取り上げています。
ー岩絵具の番手とは
鉱石を砕き、水の力で粒の大きさを分けた結果、このような美しいグラデーションができあがります。原料と色の名前は同じですが、粒子の大きさを10段階程度に分けて、それぞれナンバリングしているのです。これを「岩絵具の番手」といい、最も白く粒子が細かいものを白番、最も色濃く粒子が荒いものを5番としています。
粒子が細かくなるにつれて一粒あたりの光の反射が強くなるため、色の明度が上がります。
逆に粒子が荒くなると光を乱反射させるため、まるでザラメのようなキラキラとした質感を得ることができます。
ー岩絵具の使い方
岩絵具を使って描くのに必要な画材は、こちらです。
①膠を湯煎し、使用する分をビーカーなどに移します。
②薬匙で岩絵具を絵皿に移します。
③絵皿に水匙で膠を加えます。粒子の番手によって加える量を調整してください。
④指でしっかり練り合わせます。
⑤水を添加したら完成です。こちらも膠同様、絵具の番手によって量を調整してください。
今回は膠より少し多いくらいの水を加えました。
⑥しっかり練り合わせたら完成です。
ー岩絵具のメディウム、膠について
日本画を描く上で、メディウムは「三千本膠」という種類の膠を用いられるケースが多いです。
しかし、この「三千本膠」自体は時代と共に質や形状が異なるため、共通の規格を示すものではありません。
当ラボでは先ほどご紹介した牛膠溶液 直火濃縮20%をはじめとして、牛、鹿、魚などさまざまな種類の膠をお取り扱いしております。
ぜひご自身の作風にあった膠を探してみてください。
初心者向けの使用方法も公開しております。こちらの動画をご覧ください。
ー応用的な使い方
しばしば、お客様から「岩絵具の接着剤(メディウム)は膠だけでしょうか」というご質問をお受けすることがあります。
近年は合成的に作られた樹脂を膠の代わりに使用して制作をする方もいらっしゃいます。なので岩絵具を使用したい時、常に膠を使用しなくてはいけない訳ではありません。
例えば、油絵具用のメディウムやアクリル絵具用のメディウム、透明水彩メディウムと岩絵具を混ぜることも可能です。
ただし、岩絵具特有の鉱物を砕いた味のある色味を最大限に生かしたい場合は、合成樹脂ほど固着力が強すぎず、適度な光沢を有する動物製の膠を使用することをお勧めします。
ーまとめ
気軽に岩絵具を使った日本美術表現を始めてみたいという方には、こちらのセットをご提案いたします。
何を描いたら良いか分からないなという方には、塗り絵感覚で日本画を楽しむことができる、ナカガワ胡粉絵具株式会社の「日本画をたのしもう」セットや、「初心者キット」がぴったりです。
膠を湯煎するというのは少々ハードルが高いように思えるかもしれませんが、慣れてしまえば簡単に岩絵具を使用することができます。
当ラボの岩絵具で、はじめの一歩を踏み出してみませんか。