水彩用筆を使ってみよう

水彩用筆を使ってみよう

食べる料理によってナイフとフォークやスプーン、お箸を使い分けるのと同じように、絵具もメディウムの種類や目的に応じて筆や刷毛を使い分ける必要があります。


例えばキャンバスに固練りのチューブ油絵具をそのまま使用する場合、硬質かつ弾力のある毛質のブタ毛筆を用いることで、油絵具特有のこってりとしたマチエールを画面に作ることができます。水系で適度に粘度がありながらも、重ね塗りをする必要がある膠と岩絵具の組み合わせの場合は、羊毛や鹿毛を用いることで適度な量の絵具を画面に残すことができます。


それでは、同じく水系で水に薄めて使う透明水彩絵具の場合はどのような筆が良いのでしょうか。当ラボ取扱いの筆をみていきましょう。

 

①リス毛

リス毛は水の含みがよく、柔らかくて筆運びが良いのが特徴。水彩を始める場合、ぜひ1本は持っておきたい筆です。穂先が綺麗に整うため、太い線から細かい線までの調整が容易です。

またリスは化粧品用の筆でも用いられることもあり、美術用途以外でも目にする機会のあるかもしれません。

ただし2022年現在、リス毛は入手困難な素材となっております。ご希望の方は、お買い求めください。

 

 

 

 

②ナイロン

ナイロンは人工的に作られた原毛のため、天然の筆と比べてリーズナブルなのが特徴です。当ラボではMOLLIS Round、MOLLIS Ovalの2種類を取り扱っております。

こちらで使用されているナイロンは水の含みが良く、柔らかいため水彩絵具にぴったりの筆です。

Round(ラウンド)は丸筆を意味し、Oval(オーバル)は卵形・楕円形を指す言葉です。Ovalは先が細くなっており、平塗りから細かな表現まで幅広く使用できます。

 

 

③コリンスキー

細かい描写を行いたい場合は、SK MeteorとSK.starsがお勧めです。

コリンスキーはシベリヤと中国に生息するイタチの一種。しなやかで、まとまりが良いのが特徴です。適度なコシもあるため、水彩絵具だけでなく、アクリル絵具や油絵具でも使用することができます。

 

とりわけSK Meteorは穂先が長く作られており、繊細で柔らかい表現や長い曲線を得意としています。仕上げのサイン入れなどにも使用できます。対してSK.starsは前者と比べると穂先が短く、適度な太さも有しているので、平面構成デザインや作図や建物のパースなど、繊細なドローイングに向いています。

こちらもリス毛同様、2022年現在は入手困難な素材となっております。

 

④羊毛

日本画用に作られた羊毛や馬毛を用いた筆らも、透明水彩で使用することができます。

ただし、水彩絵具の絵筆で階調を手早く作れるという特性を生かしたい場合、ある程度強弱がつけやすい筆の使用をお勧めいたします。

当ラボの区分ですと、運筆、面相筆、彩色筆、毛書筆などは、①〜③の筆と併用するのにも向いています。特に運筆は、細い線から太い線まで筆の運びによって調整することができるので、同じく筆の強弱の調整がしやすいOvalと併用しても良いでしょう。

 

 

⑤刷毛

透明水彩は乾燥後も耐水性にならないため、色を重ねれば重ねるほど画面の彩度は下がっていきます。

そのため透明水彩で刷毛を使用するタイミングはドーサ引きや水張りなど、基底材に関わる下準備のパートで使用することがほとんどでしょう。

こうした作業を行う場合は、一番スタンダードな絵刷毛を使用するのをお勧めいたします。

もう少し厚手のもので作業をしたいなという方には、ドーサ刷毛をお試しください。

 

絵刷毛

 

ドーサ刷毛

 

 

絵具の種類ごとに筆を使い分けるのは、運用やコスト面を考えると少々大変かもしれませんが、少し気を使うだけで絵具の持つ力を何倍も引き出すことが可能となります。

また、気になる筆がある場合は当ラボの店頭で試し描きもできますので、天王洲のリアルスペースにいらっしゃった際には、お気軽にスタッフにお声掛けください。

 

Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。