岩絵具は、天然の鉱石や土などの自然物からできた天然岩絵具と、人工的に作られた岩絵具の2種類に分類することができます。中でも人工岩絵具は種類も多く、その違いについてご存知でない方もいらっしゃるかと思います。
天然岩絵具は他の顔料と比べて高価で希少性が高いものも多く、近年では製造が難しい色もあります。また自然物から作られるがゆえに、資源やカラーバリエーションにも限りがあるため、その代替品として人工岩絵具が生まれました。
人工岩絵具は、ガラス質(釉)と色の粉(顔料)を混ぜて、高温で溶融・冷却し、色のついた岩石状の塊を作り、それを砕いて粒子の粗さ別に分けたものです。顔料を用いることで、天然岩絵具とはひと味違う幅広い色調を作ることが可能になりました。
今回は、新岩絵具(しんいわえのぐ)と京上岩絵具(きょうじょういわえのぐ)の特徴やその違いをご説明いたします。
◾️新岩絵具
PIGMENT TOKYOで最も色数の多い岩絵具。
ガラス質である「釉」の成分に鉛を含みます。
【色種】約155色(2021年10月現在)
【番手】10段階/5番(粗・濃い)〜白番(細・淡い)
【特徴】
・顔料の耐久性が非常に高い。
・色調が幅広い。
・粒子の大きさによって、光が乱反射し色がグラデーションしているように見える。
・色によって価格が違う。
新岩絵具の大きな特徴は、天然岩絵具にはない彩度や色相の広さです。色数が豊富で鮮やかなトーンは、PIGMENTの中で最も人気のある岩絵具と言っていいでしょう。
また、新岩絵具は小瓶のセットもございます。少しずつ多種を描き比べたい方にもおすすめです。
◾️京上岩絵具
ガラス質である「釉」の成分に鉛を含まない、無鉛岩絵具です。
【色種】13色(2021年10月現在)
【番手】10段階/5番(粗・濃い)〜白番(細・淡い)
【特徴】
・耐候性に優れ、劣化や変質がしにくい。
・鉛による環境汚染が発生しない。
・粒子の大きさによって、光が乱反射し色がグラデーションしているように見える。
・全ての顔料の比重がそろっているので、混色しても分離しにくい。
京上岩絵具は、有鉛である人工岩絵具による環境汚染が問題となり、ナカガワ胡粉絵具株式会社と京都府中小企業技術センターと共同研究開発し、製造された新しい岩絵具です。
鉛は硫黄成分や環境汚染ガスなどに反応し、劣化や変質します。環境保護の観点だけでなく芸術作品を守るためにも、新たな人工岩絵具の必要性を求められたことにより誕生しました。
色数は少ないですが、深みと華やかさのある色調は、新岩絵具とはまた一味違う趣があります。それに加え、新岩絵具や天然岩絵具と同様に粒子の大きさを10段階に分けた番手の違いにより、豊かな色のバリエーションが感じられるでしょう。
多くの岩絵具は色により比重が異なる場合が多く、同じ番手でも比重の違いにより色が混ざり難く重い色が沈殿することがあります。そのため、混色せず重ね塗りをして重厚感のある色彩を作る表現方法も用います。しかし、京上岩絵具は比重が揃っているため、同じ番手同士であれば分離しにくく、混色も可能です。
新岩絵具と京上岩絵具をそれぞれ混色し、塗り比べしたものがこちらです。
京上岩絵具
【使用画材】
色材:京上岩絵具 トルコ青12、紅藤紫12
メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム
基底材:竹和紙 水彩画用
京上岩絵具も絵皿の中では若干色の層ができましたが、きれいに混ざりました。今回は濃淡がわかりやすいように少し淡い色合いで塗っています。
新岩絵具
【使用画材】
色材:新岩絵具 水浅黄12、岩桃12
メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム
基底材:竹和紙 水彩画用
【使用画材】
色材:新岩絵具 美群青12、桜色12
メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム
基底材:竹和紙 水彩画用
上の二つの画像は、新岩絵具を混色したものです。練ってすぐ塗ると、比較的きれいに混ざりました。
しかし、絵皿を少し置いておくと、新岩絵具の方は色の層ができ始めました。
【使用画材】
左:京上岩絵具 トルコ青12、紅藤紫12
右:新岩絵具 水浅葱12、岩桃12
こちらは一例ですが、色の組み合わせによる比重差の大小、分量の比率、メディウムなどにより状況も変わります。比重の違いを利用して塗りの表情を作るなど、好みの色と表現に合わせてお選びください。
下記リンクの動画では、実際に混色しているところをご覧いただけます。
【PIGMENT Selection】Kyojyo pigments
芸術と色への欲望、人類の叡智と技術が発展により生まれた新しい岩絵具は、アーティストの表現への渇望に潤いを与えてくれるかもしれません。
色への探求に、お役立てください。
また、PIGMENTには、新岩絵具と京上岩絵具を使用したアーティストの作品も展示しております。
こちらは主に日本画材を使用した絵画作品を制作している、画材エキスパートの芹澤の過去の特集記事です。制作過程の様子や、実際にどのように岩絵具を使用しているかなど、アーティストの画材の使い方も紹介しております。
10月には芹澤の個展も開催され、新作の発表もございます。実際に作品をご覧いただくことで、それぞれの岩絵具の美しさや魅力を作品を通して感じられるもではないでしょうか。
作家本人も在廊している日もございますので、お気軽にお声かけください。
【展覧会情報】
芹澤マルガリータ 個展「Serenity」
会場 アートスペース羅針盤
会期 2021年10月11日(月)~16日(土) 11:00~19:00(最終日は17:00まで)
住所 東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビル2F
TEL 03-3538-0160
芹澤マルガリータ
Instagram https://www.instagram.com/margaritaserizawa/
※こちらの展示は終了しております。
参考資料
・ナカガワ胡粉絵具株式会社 絵具について-京上岩絵具
http://nakagawa-gofun.co.jp/begin/kyojo.html
・ナカガワ胡粉絵具株式会社
http://nakagawa-gofun.co.jp/index.html