水系アクリル絵具と混合することで透明感のある色味を作ったり、柔軟かつ強度の高い盛り上げ表現を可能とするジェルメディウム。
「これはチューブ絵具と混ぜて使うもの」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は混ぜ合わせるだけでなく、コラージュを作るための接着剤としても使用できるのをご存知でしょうか。
また、レーザープリンタで普通に出力した画像を、耐水性のある基底材に接着させることで、そのイメージを転写させるなんてことも可能です。
今回はそんな可能性を秘めたジェルメディウムを使って、転写の技法を軸にコラージュ作品を作ってみようと思います。
この記事では、メトロポリタン美術館のアーカイブで公開されいる書の画像を使用しました。*1
用意するものは以下の通りです。
■画材と道具
・木製パネル
・レーザープリンタで出力した版元の画像
・ジェルメディウム
・塗装用ローラー
・霧吹き
・アイロン
・あて布
・ドライヤー
(注:パネルへ転写する際にイメージが反転します。文字などをプリントする際はご注意ください)
①目止めと下塗り
木製にメディウムが染み込まないよう、目止めを行います。
ガラスなど耐水性の基底材へ転写を行う場合は、メディウムの定着力を強くさせるため、必要に応じてプライマーの処理を行ってください。
ローラーでジェルメディウムを2〜3層塗り、完全乾燥させてください。
その後、もう一度ジェルメディウムを均一に塗ります。
②転写するイメージにジェルメディウムを塗る
①で塗ったジェルメディウムが乾燥する前に、転写するプリント側にも手早くジェルメディウムを塗ります。
後に行うプロセスの都合から、普通紙(PPC用紙)を使用してください。
また版に強くローラーを当ててしまうと紙が破れてしまうため、慎重に行ってください。
③パネルと版を接着する
①と②で塗ったメディウムが乾燥しないうちに、2つを接着します。
気泡が入ると版の欠けが生まれてしまうため、基底材へ均等に貼り付けます。もし気泡が入ってしまった場合は、電子機器の画面保護フィルムを貼るように、中心から外に向かって印画紙を伸ばしながら丁寧に張り込みをおこないます。
③アイロンで圧着
乾燥中に気泡が発生しないよう、アイロンで圧着を行います。
この時、必ずイメージが印刷されている面をパネルと接着してください。
温度は一番低く設定し、スチームは使用せず、当て布を使って接着してください。
接着が完了したら、接着面が完全に乾燥するまで待ちます。
④乾燥したパネルをふやかす
余白の部分を切り取り、乾いたパネルへ霧吹きをかけ均一に湿らせます。
ジェルメディウムは1度乾燥すると耐水性となる性質を持っているため、普通紙の繊維質だけが溶け出し、ジェルメディウムで接着されたレーザープリンタの色のみがパネルに定着されます。
⑤表面の繊維を取り除く
均等に画面が湿ったら、指の平を使って優しく擦るように普通紙の繊維を取り除きます。
この時、強く擦ってしまうとジェルメディウムで転写されたイメージまでも削れてしまう場合があるため、優しく取り除いてください。
もし作業途中で乾燥してしまった場合は、再度霧吹きで水をかけて、丁寧に紙を取り除いていきます。
⑤'このプロセスを数回繰り返す
大まかに全体の繊維を取り終えたら、一度ドライヤーで乾燥させ、どの程度繊維が残っているか確認します。
その後、④〜⑤のプロセスを繰り返します。
転写した像が見えないほど白くなっている部分は、重点的に取り除きます。
下記の写真は2回ほど繰り返した様子です。
再度全体を湿らせて、じっくりと普通紙の部分を取り除きます。
⑥転写完成
再度乾燥させ、好みの色味になるまで紙を取り除けたら完成です。
版の転写のみで作業を終えたい方は、この上から画面保護のワニスをかけると良いでしょう。
光沢感を出したい方はクリスタルバーニッシュを、マットな質感を出したい方はマットバーニッシュがおすすめです。
今回はエージングされた古文書のような雰囲気を作りたかった為、繊維を若干残し、上からジェルメディウムと少量の茶系の絵具を混ぜてたものを塗りました。
完全に画面へ定着しているため、上から絵具を乗せたり筆で撫でても、コラージュの上に着彩した時のような画面のシワやヨレが発生することはありません。
⑦コラージュ
最後に日本の伝統美術「料紙」をイメージして、コラージュのプロセスを加えて画面を華やかにしてみました。
こちらも使用するのは同じくメトロポリタン美術館のホームページで公開されている作品。*2
実際にカットして当ててみながら、コンポジションを作ります。
⑧貼り付け
こちらのプロセスではジェルメディウムのマットを使用します。
文房具用の糊は接着力が弱かったり、耐水性がなく上から絵具を重ねるの剥がれてしまいますが、ジェルメディウムを使用すればしっかり画面に定着させることができます。
接着した部分のフチに不自然な光沢が発生しないよう、マットメディウムを使用しています。最終的に光沢感のある仕上がりにする場合は、通常のジェルメディウムを使っても差し支えはありません。
⑨仕上げ
さらに古色風味をつけたかったため、さらに違う色を混ぜたジェルメディウムを薄くのせ、画面を軽く雑巾で叩いて更にエージング加工を行います。
転写した版はプリントしたイメージ写真と質感や色味も異なっているので、広がりのある平面空間を生み出すことが可能です。
⑩完成
乾燥させたら完成です。
今回は無地のパネルに転写をしましたが、基底材に色を付けることで転写した際に下の色層が透けて、一味違った風合いを楽しむこともできます。
また、最初に定着させた版は完全な耐水性になっているので、この上から絵具をのせるなど、より絵画的な表現を加えた作品に仕上げても良いでしょう。
水系下地の上にはアクリル絵具はもちろん、アルキド樹脂や油絵具を重ねることも可能なので、モノクロの版の上からAQYLAでグレージングをして着彩していく、写真油絵のような技法にも挑戦してみてください。
ジェルメディウムを使って、新たなコラージュ作品制作に挑戦してみましょう。
参考図版
*1 《Biographies of Lian Po and Lin Xiangru》Huang Tingjian,ca. 1095,The Metropolitan Museum of Art
*2 《Cosmological Mandala with Mount Meru》14th century,The Metropolitan Museum of Art
《Emperor’s twelve-symbol festival robe》The Metropolitan Museum of Art
《Five Beauties》Teisai Hokuba,1840,The Metropolitan Museum of Art