ジェルメディウムを使った転写テクニック

ジェルメディウムを使った転写テクニック

更新日:2025年7月24日

 

 

ジェルメディウムの使い方

 

水系アクリル絵具と混合することで透明感のある色味を作ったり、柔軟かつ強度の高い盛り上げ表現を可能とするジェルメディウム。


「これはチューブ絵具と混ぜて使うもの」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそれだけでなく、コラージュを作るための接着剤としても使用できることをご存知でしょうか。

また、レーザープリンターで出力した画像を、耐水性のある基底材に接着させることで、そのイメージを転写させることも可能です。

 


メディウムについて、もっと知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

 

 

 

 

 

ジェルメディウムを使って画像写真 を木製パネルに転写する方法

 

今回はジェルメディウムを使って、転写の技法を軸にコラージュ作品を作ってみたいと思います。

この記事では、メトロポリタン美術館の公式ウェブサイトのアーカイブで公開されている書の作品画像を使用しました。*1


用意するものは以下の通りです。

 


 

■画材と道具

・木製パネル

・レーザープリンターで出力したの画像

・ジェルメディウム

・塗装用ローラー

・霧吹き

・アイロン

・あて布

・ドライヤー

(注:パネルへ転写する際にイメージが反転します。文字などをプリントする際はご注意ください)



 

手順


1. 木製パネルの目止めと下塗り


木目にジェルメディウムが染み込まないよう、目止めを行います。

ローラーでジェルメディウムを2〜3層塗り、しっかりと乾燥させてください。
その後、もう一度ジェルメディウムを均一に塗ります。

 

 

 

ガラスなど耐水性の基底材へ転写を行う場合は、メディウムの定着力を強くさせるため、必要に応じてプライマーの処理を行ってください。

 


 

 

2. 転写する画像にジェルメディウムを塗る


1. で塗ったジェルメディウムが乾燥する前に、転写するプリント側(表面)にも手早くジェルメディウムを塗ります。

後に行うプロセスの都合から、普通紙(コピー用紙/PPC用紙)を使用してください。

また、プリント画像に強くローラーを当ててしまうと紙が破れてしまうため、慎重に行ってください。


 


 

3. プリント画像をパネルに接着する


1. と 2. で塗ったジェルメディウムが乾燥しないうちに、プリント画像(表面)とパネルを接着します。

気泡が入るとその部分の画像が欠けてしまうため、ムラがないように基底材へ貼り付けます。もし気泡が入ってしまった場合は、電子機器の画面保護フィルムを貼るように、中心から外に向かって印画紙を伸ばしながら丁寧に張り込んでください。





4. アイロンで圧着する


乾燥中に気泡が入らないように、アイロンでしっかりと圧着します。

この時、画像が印刷された面がパネルと接着していることを確認してください。


アイロンの温度は最も低く設定し、スチーム機能は使用せず、必ず当て布を使って作業します。

圧着作業が終わったら、接着面が完全に乾くまで置いておきましょう。





5. 乾燥したパネルを霧吹きで湿らせる


余白の部分を切り取り、乾いたパネルに霧吹きをかけ、まんべんなく水分を与えて湿らせます。

ジェルメディウムは一度乾燥すると耐水性を持つため、普通紙の繊維質だけが水に溶け出し、ジェルメディウムによってパネルに接着されたレーザープリンタの色(インク)のみが定着します。





6. 表面の繊維を取り除く


画面が均一に湿ったら、指の腹を使って優しくこするようにしながら、普通紙の繊維を取り除きます。

ジェルメディウムで転写された画像が傷ついたり削れたりないように、力加減を調整して作業を進めましょう。


作業中に紙が乾いてしまった場合は、霧吹きで水をかけて再度湿らせてください。





7. プロセス5〜6を数回繰り返す


全体の繊維をおおよそ取り終えたら、一度ドライヤーで乾かして、どのくらい繊維が残っているか確認します。


その後、5. 〜 6. の工程を繰り返します。

転写した画像が見えないほど紙の繊維が残り白くなっている部分は、重点的に取り除きましょう。


5. 〜 6. の工程を2回ほど繰り返した状態


 

 

全体をもう一度湿らせて、普通紙の部分を丁寧に取り除きます。





8. 転写完成


再び乾燥させ、理想の色合いになるまで紙の繊維を取り除いたら完成です。

転写した画像だけで仕上げたい場合は、この上から画面を保護するワニスを塗ると良いでしょう。

光沢感を出したいときはクリスタルバーニッシュを、マットな質感を出したい方はマットバーニッシュを使うと効果的です。


 




今回は古文書のようなエイジングされた雰囲気を作りたかった為、繊維を少し残した状態で、ジェルメディウムに少量の茶系の絵具を混ぜたものを上から塗りました。


プリント画像が画面に強く定着しているので、その上から筆で絵具を重ね塗りしても、コラージュの上に着彩した時のような画面のシワやヨレは生じません。





9. コラージュ


続いて、日本の伝統美術「料紙」をイメージして、コラージュの手法を取り入れ画面をより華やかに仕上げます。

こちらで使用した作品画像も、メトロポリタン美術館の公式ウェブサイトで公開されている作品。*2

実際にカットして当ててみながら、コンポジションを作ります。





10. コラージュするパーツを貼り付ける


こちらのプロセスではジェルメディウムマットを使用します。

文房具用の糊は接着力が弱かったり、耐水性がなく上から絵具を重ねると剥がれてしまいますが、ジェルメディウムを使用すればしっかり画面に定着させることができます。


 


接着した部分のフチに不自然な光沢が発生しないよう、ジェルメディウム マットを使用しています。最終的に光沢感のある仕上がりにする場合は、通常のジェルメディウムを使っても差し支えはありません。





 

11. 仕上げ


さらにアンティーク調の古色風味をつけたかったので、違う色を混ぜたジェルメディウムを薄く塗布し、画面をタオルで軽く叩いてエイジング加工を行いました。

画面に転写された画像は、印刷した未加工のプリント画像とは異なった独特の質感や色味が生まれます。この技法を用いることで、平面空間や多様なデザインの可能性を広げることができます。






12. 完成


乾燥したら完成です。




今回は無地のパネルに転写をしましたが、あらかじめ基底材に色を付けることで、転写時にその下の色が透けて見え、ひと味違った風合いを楽しむこともできます。


また、最初に転写して定着させた層は耐水性になっているので、画面の上から絵具をのせて、より絵画的な表現を加えた作品にしても良いでしょう。


水性で施した下地にはアクリル絵具はもちろん、アルキド樹脂や油絵具を重ねることも可能です。モノクロの転写画像の上からAQYLAでグレージングをして着彩すると、まるで写真に油彩する「写真油絵」のような技法に仕上がります。


 


ジェルメディウムを使って、新たなコラージュ作品制作に挑戦してみましょう。


 

ジェルメディウムは他にも多数商品がございます。こちらのリンクよりご覧ください。

《ジェルメディウムをもっと見る》


 

 

 

 

 

参考図版

*1 《Biographies of Lian Po and Lin Xiangru》Huang Tingjian,ca. 1095,The Metropolitan Museum of Art

*2 《Cosmological Mandala with Mount Meru》14th century,The Metropolitan Museum of Art

《Emperor’s twelve-symbol festival robe》The Metropolitan Museum of Art

《Five Beauties》Teisai Hokuba,1840,The Metropolitan Museum of Art

 

 

 

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。

平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。

平面作品を中心にアーティスト活動中。