油絵具やアクリル絵具にシルバーホワイトやチタニウムホワイトがあるように、日本画用の色材にも岩絵具にも白系の色が存在します。
しかし、岩絵具は比重が重く、一般的な顔料のように顔料同士を混色して色を作ることができません。よってこれらの色材は混色して絵具の明度を下げることより、膠で軽くグレーズをかけたり下地に使ったりなど、補助的な目的で使用されます。
もちろん、岩絵具同士の混色も可能ですが、その場合は顔料の比重が同じものを選ぶ必要があります。
それでは、白系の岩絵具にどのような特徴があるのか、見ていきましょう。
①水晶末
水晶末は、天然の水晶を砕いた白系の岩絵具です。
隠ぺい力が弱いため、岩絵具や水干を塗った上から薄く色をつけることで、画面に白味がかった煌めきを与えることができます。今回ご紹介している白系の岩絵具の中で、最も弱い白です。
キラとも呼ばれる雲母とは異なり、鉱物そのものが持つザラザラとした質感のある塗りが作れます。
②方解末
方解石を粉末にした、半透明の岩絵具です。
水晶末よりは隠ぺい力が強く、少し透け感のある白として使用できます。また、支持体を盛り上げてマチエールを作る時にも使用されます。
この色の原石は非常にもろく、砕くと板状になる性質を持っているため、上からペインティング・ナイフなどで削りたい場合などでも重宝されます。
③岩胡粉
岩胡粉は、大理石を砕くことで作られます。
今回挙げた白系の岩絵具の中で最も隠ぺい力が強いため、下塗りやマチエールを作る時に便利です。テクスチャのある胡粉のような使い方ができます。
天然の鉱物特有の、温かみのある質感が特徴的です。
④岩白
水晶末、方解末、岩胡粉は天然の鉱物を砕いて作られた岩絵具なのに対し、岩白は鉛ガラスと顔料を混ぜた塊を砕いて作られています。こうした手法で作られた岩絵具は、新岩絵具と呼ばれます。
新岩絵具が持つ共通の特徴として、人工顔料特有の近代的な色味と、適度な隠ぺい力を有しており、画面に塗ると天然岩絵具と比べて少しマットな仕上がりになります。
岩白は上記の色と比べると黄味がかっています
⑤胡粉
胡粉は天然のイタボ牡蠣が原料の、炭酸カルシウムを主成分とする顔料です。(メーカーによって使用されている貝の種類が異なります。)厳密に言うとこの色材は岩絵具ではありませんが、日本画では欠かせない色のひとつです。
貝殻を屋外に30年以上放置し風化させた後、粉砕し、石臼で細かくした後、水で何度も晒し精製した後、薄板状に自然乾燥させて作られます。
白色の絵具としてはもちろん、画面を盛り上げたり、染料を加えて顔料のように使用したり、水干絵具の原料としても使用されます。
当ラボでは、膠と練り合わせてあるチューブ入りの「都の雪」から、「白雪印」、「白寿印」、「金鳳印」と等級別の胡粉もご用意しております。
等級の違いは貝の使用している部分の違いで、それにより白さが異なります。
金鳳は厚く大きな蓋部分を使用した一番美しい白で仕上げ向き、白寿は金鳳より小さい蓋部分、白雪は蓋と身の部分を合わせており、下地などに適しています。
実際に塗ってみた様子はこちらになります。
水彩画用の竹和紙に紫系のアクリル絵具を下地として塗り、その上から各色をアラビアゴムを使って着彩しました。
それぞれの色が、どのように下のレイヤーを透過するのかがわかります。
【使用画材】
基底材:竹和紙水彩用
地塗り:アクリル絵具
メディウム:アラビアゴム
色材:天然水晶末、天然純方解末、天然岩胡粉、天然岩白
【使用画材】
基底材:竹和紙水彩用
地塗り:アクリル絵具
メディウム:アラビアゴム
色材:胡粉 金鳳印、胡粉 白寿印
このように、一見同じような色に見える白系の岩絵具でも、種類によってさまざまな使い方がございます。作家によっては天然の白系岩絵具を混ぜ合わせて、オリジナルの盛り上げ絵具を作る方もいらっしゃるようです。
今回の記事にある使い方も、ほんの一例をご紹介しただけですので、ご自身の作品にあった使い方を探してみてください。
ピグメントの白を比較した記事はこちらになりますので、併せてご覧ください。