白を比べる、使い分ける。

白を比べる、使い分ける。

絵画制作において、白系顔料は欠かすことができない画材です。

油絵具では、地塗りにはじまり混色やハイライトの描きおこしなどに、日本絵画では具絵具を作る基材としても重宝されています。

PIGMENT TOKYOでは、大きく分けて4種類の顔料を取り揃えております。



一見すると全て同じ白ですが、それぞれ異なった特性を持っています。また、処方を間違えると画面のヒビ割れなどトラブルが起きる可能性も……。今回はそんな白にまつわる「基本のキ」をお届けします。


①ジンクホワイト


まずは汎用性の高い、ジンクホワイトについてご紹介。



ジンクホワイトは、酸化亜鉛から作られています。やや青味があり、透明感のある色彩空間をつくりだすことができます。

隠ぺい力が弱いため、混色の際に用いられ非常に使いやすいです。ただ亀裂が起きやすい性質も持っているため、仕上げの調色などに使うのが理想です。

メディウムは油系・水系問わず使用できるため、みなさまでも一度は手にしたことがあるかもしれません。



②シルバーホワイト


シルバーホワイトは塩基炭酸鉛を素材とする白。ジンクホワイトと並び、主に混色をする際に使用されます。



他の白と比べて乾燥が速く、温かみのある色味が持ち味。

鉛を含有しているため、遊離硫黄を含む絵具との混色で黒ずむ可能性があるため、混色する絵具には少々注意が必要とも言われるこの絵具。

ただ実際にはこのような変色はおこらないというデータもあり、気になる方は実際に混色のテストをしてみてから使用してください。

ジンクホワイトよりは強い隠ぺい力をもち、混色はもちろん、強靭な塗膜を形成するため中塗りから仕上げまで、さまざまなレイヤーで利用できます。

顔料としての比重が非常に重いため、水系のメディウムとの相性が悪く、基本的には油系メディウムのみで使用されます。

19世紀に入るまで、板絵に用いられる白はこのシルバーホワイトが全てだったのだとか。

ちなみにジンクホワイトの登場が19世紀中盤、この後にご紹介するチタニウムホワイトは20世紀初頭に絵具として使われ始めました。



③チタニウムホワイト


チタニウムホワイトは、いわば白の中で「もっとも強い白」です。酸化チタンを原料としており、化学的に安定していて、亀裂や剥落の心配がほとんどありません。



下の層を見えなくしてしまうほどの隠ぺい力があり、色はやや黄味を帯びています。

混色で使用する際には、少量を混ぜながら少しずつ練り合わせていく必要があります。

また、原料となるチタン鉱石はこんな色をしております。


(「日本製鉄株式会社×PIGMENT TOKYO〜世界最高級の技術とものづくりの発信地、東日本製鉄所 直江津地区を探る〜①」より)


黒い鉱石から真っ白な顔料が生まれるというのは、少し不思議ですね。



④胡粉


胡粉は風化させたイタボガキから作られる、非常に柔らかな白です。



主成分は炭酸カルシウムで、変色が少なく安定した顔料です。日本絵画の彩色で主に用いられ、水干絵具や具絵具を作る際にも使用されます。

貝の上蓋と下蓋の混合比率によって等級がつけられ、前者が多いほど明度が高く純白に近い色をしています。

なんと奈良時代から鎌倉時代までは、この胡粉という言葉は鉛白(シルバーホワイト)を意味していたそうです。



また、各種画材メーカーによってオリジナルの調色がされた、ミキシングホワイトやセラミックホワイトという名称の白もございます。



使用されるメディウム・レイヤー・表現に合わせて、自分に一番合った白を探してみてください。



取材協力


株式会社クサカベ

http://www.kusakabe-enogu.co.jp/



参考資料


「WHITE」株式会社クサカベ

「Q&A」株式会社クサカベ http://www.kusakabe-enogu.co.jp/q_a/q_a_o_m.html (2021年1月9日閲覧)

「ホルベイン油絵具ホワイト」ホルベイン画材株式会社


大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。