私たちの先人は大自然の中から「色」を見出し、絵画を描いてきました。
とりわけ鉱物を原料とする岩絵具は、東洋美術の発展と蜜月の関係にあります。
例えば東京国立博物館が収蔵する「絹本著色普賢菩薩像」の台座部分には、群青や緑青はもちろんのこと、今日の日本絵画でも馴染みのある素材が多数用いられております。
群青の原石を藍銅鉱(アズライト)、緑青の原石を孔雀石(マラカイト)と呼び、原石はこのような姿をしています。
このふたつの原石は同じ銅の含水炭酸塩鉱物からできており、大気中の成分によって藍銅鉱が孔雀石へと変化します。
そのため両者の色が混ざったものも存在し、まさにこれは大地が作り出した調色板とも言えるでしょう。
写真右が藍銅鉱、左が孔雀石です。
しかし、天然の岩絵具が万能というわけではありません。
前述の通り鉱物などを砕いているため、1両(15g)あたりの価格が高く、大作を作る場合には多くのコストが必要となります。
また、天然由来ゆえ、ロットによって色にバラつきが生じることもあります。
そして何より、地球広しといえど砕いて色材になる素材というのは種類に限りがあります。油絵具やアクリル絵具のような色相を、全て天然のもので賄うのは容易ではありません。
そこで登場したのが、この新岩絵具です。
この新岩絵具も天然岩絵具同様、各色10段階に分けられています。5番が最も粗く、段階が上がるにつれて粒子が細かくなり、白が最も細かい粉末状になります。
左からナカガワ胡粉の新岩絵具「群青」、同社の天然「群青」、吉祥の「群青」。
それぞれ微妙に色味が違うことがわかります。
この顔料づくりは、まず釉薬と金属酸化物を高温焼成して製造される着色ガラスの塊を作るところから始まります。そして擬似的な「原石」を生成し、それを砕くことで、天然の岩絵具と併用しても違和感がない、粒子感のある色材となります。
そのため色数も豊富で、混色をする前提で設計されていない岩絵具でも、油絵具やアクリル絵具に負けないカラーパレットを有しています。また、天然の岩絵具と比べて顔料の耐久性が非常に高いのも特徴です。
当ラボでは、ナカガワ胡粉株式会社と株式会社 吉祥の新岩絵具をお取り扱いしております。
どちらも素晴らしい国産岩絵具を製造されているメーカーなので、甲乙つけ難いのですが、吉祥の強みのひとつとして、何とも言えない渋いチョイスの色調と色名にあるのではないかと思っています。
吉祥は色名も独特で、岩納戸や古代錦、茶緑青口など、字面を読むだけでどんな色なのかワクワクしてしまいます。
そうした東洋の色彩風景を巧みにトリミングしているのが、このメーカーの特徴と言えます。
では実際に新岩絵具を塗ると、どのような発色をするのでしょうか。今回は「群青」をキーワードに焦点を当てます。
【使用画材】
色材:浅葱群青、群青勝群緑、水色群青、 黒群青
メディウム:アラビアゴム
基底材:竹和紙 水彩画用
前回の「煌めく雲母〜その歴史と使い方〜」でもご紹介したように、岩絵具もさまざまなメディウムを使って描くことができます。
ただし、番手が小さくなるとより粒子感が出過ぎて絵具になりにくいため、アラビアゴムやアクリルエマルション、オイルメディウムと混ぜる場合は比較的細かい12番から白がおすすめです。
こちらのサンプルも12番を使用して着彩しました。
浅葱群青の「浅葱」はネギの若芽のことを指します。
藍色よりも薄く水色よりも濃い、薄青風味の群青という、繊細な調色が魅力的です。
群青勝群緑は群緑がかった群青色。本記事の冒頭で紹介した藍銅鉱が大気によって若干の緑青色を帯びている様子を想起させます。
水色群青、黒群青もまた絶妙。一瞥すると全て同じ色に見えるかもしれませんが、吉祥ならではの素朴な色彩を有しています。
【使用画材】
色材:浅葱群青、 黒群青
メディウム:アクリルエマルション
基底材:竹和紙 水彩画用
アクリルエマルションの耐水性を活かして、このようなレイヤーによる絵画表現も可能です。
着色ガラスが生み出す、少し不透明でアーティフィシャルな色面は、天然岩絵具では作ることができない唯一無二の質感です。
新岩絵具は天然の代替物というよりは、また別の「新しい」岩絵具とも捉えられるでしょう。
これ以外にも、吉祥の岩絵具には魅力的な名前の商品が多数あります。
新岩絵具の購入は、ぜひPIGMENT TOKYOのオンラインショッピングをご利用ください。