東洋の赤、世界の赤

東洋の赤、世界の赤

PIGMENT TOKYOには日本はもちろん、世界中からいろいろなお客様がいらっしゃいます。アーティストはもちろん、デザイナーや立体など絵画が専門でない方やアートファンの方もいらっしゃるのですが、こんな質問をうけることがあります。

 

「赤色が欲しいです。一番赤い赤はどれですか?」

 

確かに学校教材の絵具セットを見ると、そのチューブに書かれているのは“赤”や”青”、“黄色”などの色名。

また、デジタルアートでは全ての色がCMYKやRGBで表現されるなかで、こうした質問がされるのは決しておかしなことではありません。

 

しかし、私たちの目に映る世界には一言で表すことのできない色で溢れています。

実際に当ラボでも「赤」とだけ表記された色材はひとつもありません。

なのでこういった質問をされてしまうと、実は凄く困ってしまうのです。

 

強いてひとつ挙げるとすれば、みなさまが想像される”赤”に近い色はこのカドミウムレッドかもしれません。

 

 

 

さて、同じ商品名が3つも並びましたね。

これらはそれぞれ日本の画材メーカーであるクサカベ、マツダ、ホルベインのカドミウムレッドです。

写真だとわかり難いかもしれませんが、実はメーカーごとにも微妙に色の差があります。

さて、ではまた冒頭と同じ質問を、逆にみなさまにしましょう。

 

「一番赤い“赤”ってなんでしょう?」

 

少しナンセンスな質問に感じませんか。カドミウムレッドひとつでも、色があるわけでして、世界はもっと沢山の”赤”に溢れています。

 

そんな“赤”の中でも、とりわけPIGMENTでは沢山の種類におよぶ「朱」を取り扱っております。

朱色とは黄色を帯びた赤色で、天然の岩絵具でも使用される辰砂を原料とするピグメントです。

 

 

 

この辰砂や、水銀と硫黄を合成したのが朱色となります。ただ、近年は欧州を中心に水銀などの重金属を使用した顔料の製造が規制され始めているため、先々製造できなくなる日が来るかもしれないとも言われています。

 

 

 

この”朱”は英語にするとVermilion。つまり油絵具で使われるものと同じものが使用されています。

東洋の伝統色として紹介されることの多い朱ですが、材料学の視点で俯瞰すると時代や地域をまたいで利用されていることがわかります。

 

 

 

 

これらの顔料は、「顔料+メディウム=絵具?」の記事でもご紹介したように膠をはじめとしたメディウムを使用することで、誰でも簡単に絵具をつくることが可能です。

【PIGMENT ARTICLES】顔料+メディウム=絵具?

 

 

少しハードルが高いな、という方にはこの朱を墨にした朱墨という商品もオススメです。

朱墨とは、煤の代わりに朱と膠を固めて作られた紅い墨で、硯と組み合わせることで気軽に東洋の伝統色を楽しんでいただくことができます。

こちらの商品は装飾として金を全体に巻いており、金色には発色いたしません。

 

 

こちらは通常の墨と同様、少量の水を使い、磨って使用します。

混色する場合は、それぞれ顔料の比重が違うため色分かれすることがありますので、使用毎によくかき混ぜてお使い下さい。

また、膠液と併用することで滲みの変化など表現の幅を広げることもできます。

 

 

 

 

PIGMENTでは、これ以外にもレーキ系の透明度の高い赤や新岩絵具のビビットな赤など、この記事では紹介しきれない“赤”を沢山ご用意しております。

 

 

ぜひ、当ラボであなたの思う”一番の赤”を探してみてください。

 

 

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。