生の楮紙で広がる表現

生の楮紙で広がる表現

和紙とは、日本で昔から漉かれている紙のことを指す言葉です。

しかし、その中にはさまざまな種類の紙が含まれており、素材はもちろん、ほんの少し使い方を変えるだけで、個性的な表情をみせてくれます。


例えば特に滲み防止のために行う下処理次第で、発色が大きく変化します。

これをドーサ引きと言い、膠とミョウバンを混ぜた液体が多く用いられます。


当ラボでは下地処理がされた和紙を「ドーサ」、されてないものを「生」と表記しております。

今回はその中でも初心者にも扱いやすい楮紙で、ドーサが基底材にどのような効果を与えているのか、塗り見本を観察しながら見ていきましょう。






最初のサンプルでは絵具の滲みをよりわかりやすくするために、均一な水溶性の色水が作りやすいカラーインクと透明水彩を用いました。


【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙 未晒(生) 15匁


【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙 未晒(ドーサ) 15匁


カラーインクをスポイトで上からポタポタと垂らして着色しました。

ドーサなしの場合、インクを落とした瞬間から色が紙に染みていき、じんわりと滲んだ形は、まるで顕微鏡からみた世界のような、イメージになりました。

それに対して、ドーサを引いた紙はしばらく経っても水滴が紙に染みることがなく、紙を傾けて紙面上のインクを軽く動かしたのち、ようやく乾燥しました。

適度な滲みがありつつも、乾いていないインクが画面を這ったストロークも残されております。



次に水彩絵具を用いて試し書きをしてみます。


【使用画材】

色材:透明水彩絵具

基底材:楮紙 未晒(生) 15匁



【使用画材】

色材:透明水彩絵具

基底材:楮紙 未晒(ドーサ) 15匁



ドーサなしの方は、穂にたっぷりと絵具を含ませたにもかかわらず、画面中盤で息切れをしてしまいました。

書き味も、紙にどんどん水分を奪われていくような感覚があり、筆を思うようにコントロールすることができません。

また、太い直線を引くためにグッと画面に筆を押し付けると、絵具が基底材に全て浸透しました。

対して、ドーサ済みの和紙では全て最後まで線を描くことができました。


これら4つのサンプルからわかるように、絵具や筆の滲みを生かしたい場合は生の和紙を、そして明瞭な描画を生かした表現を行いたい場合は、ドーサ済みの紙を用いると良いでしょう。



つまり、線をメインに使いたい時はドーサ済みの紙を、にじみを生かしたい場合は生の紙がおすすめです……と言いたいところなのですが、実は生の紙には別の強みも存在します。


例えば透明水彩やカラーインクなどの水溶性絵具ではなく、アルキド樹脂絵具のAQYLAや水系油絵具DUOを使って和紙に絵を描きたいとき、水系絵具を用いる時より少し強めにドーサを効かせる必要があります。

そういう時は生の和紙を用意して、ご自身でドーサの効き具合を調整するのがおすすめです。




当記事冒頭でもお話しましたとおり、一般的に和紙のドーサは膠とミョウバンの混合液が用いられますが、当ラボでは紙のpHをより理想的な状態に保つという観点から、ミョウバンを使用せずドーサ引きが可能な膠をご用意しております。




こちらの魚膠は、ゼリー強度が高いのでミョウバンを使わずに滲み止め効果を得られるので、保存性に優れた紙にご興味ある方は、ぜひお試しください。

なお、初めてドーサ引きをされる方でも使いやすい、魚膠溶液もございます。


【使用画材】

色材:カラーインク、DUO

基底材:楮紙 未晒(生) 15匁、魚膠



全体的に通常より少し強めにドーサをかけることで、遅乾性である油絵具特有の筆跡を生かしたストロークを生み出すことができます。

ただし、油分が和紙に染み込むと基底材の劣化を招くため、過度に画用液を添加することはお控えください。



それ以外にも、色水を張った絵皿に折り畳んだ和紙をつけることで、簡単な和紙染めを楽しめます。

感覚的に色あそびを楽しむことができるので、お子様とご一緒にいかがでしょうか。


【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙 晒(生) 10匁



【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙 晒(生) 10匁



【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙 晒(生) 10匁



上記の方法を応用して、自分だけの色和紙を作ることもできます。

耐水性のカラーインクを使うと、さらに上から絵を描くこともできるので、より表現の幅が広がります。


【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:楮紙(生)



気に入った色のピースを集めてコラージュを作成しました。ツルツルとした質感のユニペーパーαにコラージュすることで、楮紙にステイニングされた味のある質感との対比を狙いました。





【使用画材】

色材:カラーインク

基底材:ユニペーパーα、楮紙(生)



このように、同じ楮紙であってもドーサの効き具合によって表出されるマチエールはさまざま。

和紙についてより詳しく知りたいという方には、こちらの記事もおすすめです。




また、以下のリンクより和紙も購入可能です。当ラボは日本国内はもちろん海外への発送も承っております。

生の和紙の魅力をぜひ体験してみてください。

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。