ご自身で絵具を作っていて、上手くメディウムと色材が混ざらなかったという経験はないでしょうか。これらは全て表面張力によって起きる現象で、フタロシアニンやレーキ顔料をはじめとする有機系顔料や、エフェクト顔料で多くみられます。
実際にアラビアゴムとアストロフレーク 12/ ロイヤルブルー #20を紙パレット上で混ぜた時の様子がこちら。
こうしたことが起きないよう、表面張力が強い顔料で水性の絵具を作る場合は、少しずつ加水しつつ、無水エタノールを添加して練り合わせる必要があります。
もちろんこの方法も間違ってないのですが、もっと簡単に作る方法があります。
ここに株式会社クサカベからリリースされている水性顔料 分散剤を添加することで、水溶性の液体の表面張力を下げ、水に浮きやすい色材と混ぜることが可能です。
実際に混ぜた様子がこちら。
この液体を1〜2滴垂らすことで、容易に顔料を混ぜ合わせることができました。もちろん、色味に大きな変化は起きませんので、安心してご使用ください。
ただ、この分散剤はほんの数滴で強い効果を与えてしまいます。絵具づくりを効率化する場合はお勧めなのですが、はじきやすい紙への馴染みをよくしたり、基底材への着色力を強くしたい場合は、もう少し弱めの分散剤がお勧め。それがこのオックスゴールです。
これはその名の通り、牛(Ox)の胆汁(Gall)から作られています。牛の胆汁には界面活性剤を多く含んでおり、この成分が絵具のにじみを良くするのに、重要な役割を持っているのです。
なかなか聞きなれない名前ですが、私たちの身近なものに例えますと、食器や洗濯の洗剤に界面活性剤は多く含まれています。
この成分は繊維に染み込む浸透作用と、油と水を繋ぐことで均一な状態にする乳化作用、そして粒子状のものを液体全体に馴染ませる分散作用という、3つの作用を有しています。
ムラのない均一な面を塗るのに効果的なのはもちろん、サイズ(ドーサ)の強い紙への絵具の定着を良くさせることも可能です。その場合、絵具に添加するのはもちろん、水で薄めたオックスゴールを描画前に紙に塗布することで同様の効果を得ることができます。適量は水250mlに対して本品を2~5滴が目安です。適量以上添加してしまうと、発色が悪くなってしまったり、上手く着彩できない場合がございます。
それでは実際に塗り比べた様子をみてみましょう。
【使用画材】
基底材:竹和紙水彩用
色材:ZECCHI透明水彩絵具
このように、同じ基底材で同じ絵具でもオックスゴールを添加するだけで、このような変化を得ることができます。
上段が、当ラボの記事コンテンツでもよく登場する、和紙 水彩画用 アートパッドです。元々水彩の着彩に適した紙ですので、水だけでも適度に馴染みがよかったです。
オックスゴールを混ぜることでより明度が暗く、紙の奥深くまで滲みるような表情を得ることができました。
次に下段は、雁皮紙と呼ばれる薄手の紙に着彩しました。光沢があり滑らかで、楮紙などと比べて高い耐水性を有しています。着彩を行うと、水を添加しない場合は滲みが少なく、かなり強いストロークの線を描くことができました。
次にオックスゴールを添加してみると、基底材の下に浸透しにくく横に広がり、薄い色になってしまいました。
このように、この素材は絵具と混ぜることで、紙の滲み方をコントロールすることができるのです。
こうした技法以外にも、水気を弾きやすい紙へ着彩したい場合、この素材は非常に便利です。
例えば、株式会社歴清社からリリースされている箔押し紙は、箔の上にコーティングがされており、透明水彩など水分の多い絵具ははじかれてしまうことがあります。
手づくり金銀紙の端切れの、金色と銀色のものにそれぞれ着彩をしてみました。
【使用画材】
基底材:箔押し紙
色材:ZECCHI透明水彩絵具
しかし、この図の右側のように、オックスゴールを添加することで基底材に絵具が残り、平滑な画面にも着彩することが可能となります。
基底材に絵具が滲みにくいため、どこかため塗りのような絵肌を作ることができるのも、魅力のひとつです。
もちろん、この技法は箔へ墨を着彩したい場合でも応用できます。
またカラーチタンへの着彩も可能となるため、今まで挑戦できなかった基底材も使用することが可能となります。
「エフェクト顔料を使って絵具を作りたいのだけれど、上手くできない。」という方や、「着色してみたい素材があるのだけれど、絵具が上手くのらない。」という体験をしたことがある方は、ぜひこの分散剤とオックスゴールをお試しください。