およそ200年ぶりの合成無機顔料として注目を浴びているインミンブルー(YInMnBlue)。この顔料は、オレゴン州立大学のサブラマニアン教授率いるサイエンスチームが、電気系の利用のため新しい原料の研究をしていた際、偶然発見されました。
特殊な固有名を持つ青というと、フランスの美術作家イヴ・クラインが命名したインターナショナル・クライン・ブルーを想起する方もいらっしゃるでしょう。
しかし、これは19世紀以降に誕生した合成ウルトラマリンをベースに開発された青と言われており、厳密に言えば新しい青ではございません。
それに対し、インミンブルーは他の構造体が混ざった酸化マンガンを高温で構造をテストした際に生まれた色材で、Yttrium(イットリウム)、Indium( インジウム)、Manganese( マンガン)という元素名を掛け合わせて命名されました。
この色の最も大きな特徴は、赤と緑の光の波長を吸収し、青の光の波長を反射することです。また、多くの赤外線を反射する特質を持っているため、非常に鮮やかな発色をします。併せて、化合物としても非常に安定しており、耐久性と耐光性に優れています。
とりわけ水や油にも強いので、美術用途に適した顔料であることはもちろんのこと、工業地区での耐久テストも良好で、外壁などの工業用塗料としての可能性も秘めています。
さらに、この合成物には一切の有害物質が含まれていないため、昨今の色材において重要視される健康や安全問題もクリアしております。
画面に塗った時の色味は合成ウルトラマリンブルーに近く、印刷物のCMYKで表されるようなニュートラルな青と異なり、温かみのある赤を帯びた発色をします。
PIGMENT TOKYOでは2018年よりインミンブルーのチューブ入りアクリル絵具と、顔料をお取り扱いしており、店舗とオンラインショップを通してご提供しております。
そしてこの度、日本国内専売品として、このインミンブルーを使用した油絵具の販売が開始となりました。
インミンブルーは流通して間もない顔料ということもあり、同色のチューブ入り油絵具を開発するためには、従来のプロダクトとは異なった独自のレシピ研究が必要となりました。
そこでこの企画に協力いただいたのが、大阪市に本社を持つ画材メーカーのホルベイン画材。
PIGMENT画材エキスパートが監修の元、いくつかのサンプルが製作されたのち、その中で最も青が美しく発色し、隠ぺい力の高いレシピが採用となりました。
(ただし、顔料濃度が高いため経年変化によって顔料と油が分離する場合があります。適宜、ティッシュなどで拭き取りながらご使用ください。また、未開封であれば油絵具として長期保存に問題がないよう、設計されております。)
こちらの商品はメディウムとしてポピーオイルを使用しているため、リンシードオイルと比べて黄変が少なく、インミンブルーの発色を存分に生かしながら作品制作を進めることができます。
白地と黒地、2種類のベースに塗ってみた場合のサンプルはこちらです。
【使用画材】
基底材:キャンバス
左地塗り:ジェッソ下地
右地塗り:アキーラ(カーボンブラック)
メディウム:リンシードオイル
一番上はチューブから出した絵具を、リンシードオイルで粘度調整をして塗装しました。中段は更にメディウムを添加し、下地の色が透けるようにしたもの。最下段はチューブから出したままの絵具を、乾いたブラシで塗った状態です。
適度な隠ぺい力があるため、絵具単体でも筆跡の少ないフラットな面を作ることが可能です。
また黒い下地に塗ることで、一段階色が暗くなっていることがわかります。
今回、この絵具を使って作品を制作してみました。
《Study for The “Image”》Akira Oya, 2021
こちらでも上記の塗りサンプル同様、下地にアキーラを使用しております。
使用したのはこちらの色です。
油絵具は水系絵具と比べて乾燥に時間を要します。
そのため、 両者を併用した混合技法を用いることでスピーディーな制作が可能となります。
また、アキーラは一般的な水系エマルション絵具と異なり、バインダーにアルキド樹脂を使用しているため、乾燥前と乾燥後の色味に差が少なく、コントロールが容易です。
非常にマットな仕上がりとなるため、上からレイヤーを重ねる際にも光沢度の調整がしやすく、こうした混合技法にぴったりな絵具です。
その上から、薄く重ねていくようにインミンブルーを描画しました。明度の暗い面はチューブそのままの色を、明るい方にはシルバーホワイトを添加し塗装しております。
こちらのインミンブルーは数量限定販売となっております。
ぜひ国内の大手画材メーカーとPIGMENT TOKYOによる「世界一新しい青」を、お手にとってみてください。