岩絵具の番手を比べる:アラビアゴムとアクリルエマルション

岩絵具の番手を比べる:アラビアゴムとアクリルエマルション

岩絵具は水彩画や油絵具で使用されるピグメントと異なり、その粒度によって色や質感などが変化します。

例えば番号が小さくなればなるほど粒子は大きく、それにともなって比重も重くなります。逆に番号が大きくなるにつれて粒子は小さく、粒同士が光を多く反射するので明度が上がり、白みがかってきます。5番と白を見比べるとその差は歴然。同じ素材からできた色材とは思えないほど明度と彩度に違いがあります。

 

PIGMENT TOKYO ARTICLES 日本美術に欠かせない画材「岩絵具」より



ナカガワ胡粉株式会社から販売されている新岩絵具の群青の6番と13番を比べてみましょう。

 

まずは岩絵具の重さと体積の比較です。

同じ規格の瓶に、群青の6番と13番をそれぞれ同等の高さまで入れ、重さを計ります。




 

すると、上の画像の通り、6番の方が重いことがわかります。

つまり、比重の軽い13番の方が、同じ重さでもカサが大きくなります。

PIGMENT TOKYOでは顔料を1両(15g)単位で販売しており、同じ1両でも岩絵具は番手が大きくなるほどカサが大きくなります。

したがって、群青の6番と13番をそれぞれ同じ量のメディウムと混ぜた場合では、前者と比べて後者の方が沢山の絵具を作ることができます。



次に質感を比べてみます。

前述の通り番号が大きくなるにつれて粒子は小さくなるため、不透明度にも差が生まれます。例えば6番の場合は砂のようにキラキラと光を反射させていますが、13番の場合は粉の時点で比較的マットな質感を有しています。

 

 

透明水彩絵具を作る時のメディウム、アラビアゴムを混ぜた状態がこちらです。13番は下に敷いている紙パレットを覆い隠す程度の隠ぺい力を有していますが、6番は全体的にサラサラとしていて、透け感があります。

 

 

この水彩絵具用のメディウムで混ぜた岩絵具を塗ってみましょう。上に6番を、下に13番を塗るとこのような差が生まれます。

 

 

【使用画材】

色材:ナカガワ胡粉 新岩絵具 群青 6番、13番

メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム

基底材:竹和紙 水彩画用



岩絵具とは日本画などを描くために粒度等が調整された色材です。そのため、これらを膠と混ぜて絵具にし、紙や絹等の基底材に適しています。

膠は適度な耐水性を有しているので、塗り重ねると適度なにじみを保ちながら乾燥します。

 

それに対して、透明水彩絵具のメディウムであるアラビアゴムは非耐水性で、上から絵具をのせても綺麗に塗り重ねることができず、絵具が動いてしまいます。

そのため、一層だけ軽く着彩する場合には効果的かつ、簡単に岩絵具の質感を楽しむことができるのですが、6番のように隠ぺい力がない絵具の場合はしっかりと色が定着しません。



もし番手の大きい岩絵具を膠以外のメディウムで使用したい場合は、アクリルエマルションを使用するのがおすすめです。

アクリルエマルションとは、アクリル絵具のバインダーであるアクリルの原液です。

このメディウムは顔料ペーストや水練り顔料、顔料などと混ぜることで、オリジナルのアクリル絵具を作ることができます。

乾燥すると耐水性となるため、メディウムに膠を使用した時よりも、しっかりと色を塗り重ねることができます。

 

また強い接着力もアクリルエマルションの特徴です。

例えば荒い岩絵具の場合、アラビアゴムで練っただけでは基底材を手で撫でると絵具が砂絵のようにポロポロと取れてしまいます。

膠やアクリルエマルションを使うことで、こうした剥落のトラブルを起きにくくすることができます。



6番と13番ではどのような差が生まれるのか見てみましょう。

上が3回ほど塗り重ねた時の様子です。アラビアゴムの時同様、1層だけではうまく色がつきません。完全乾燥させて、3回ほど塗り重ねることでしっかりとした群青のザラついた質感が表現できています。

 

 

【使用画材】

色材:ナカガワ胡粉 新岩絵具 群青 6番

メディウム:アクリルエマルション

基底材:竹和紙 水彩画用




13番をアクリルエマルションで練って塗った場合はこのようになります。

新岩絵具は天然岩絵具と比べてマットかつ隠ぺい力が強いので、アクリルエマルションで練ってもその性質がいかんなく発揮されています。

もちろん、3回ほど重ね塗りをするとよりマットな発色を得ることができます。

ただ、塗り重ねた時の微妙なにじみを作りたい場合は、耐水のアクリルエマルションではなく、膠などを使用すると半耐水特有のにじみや絵具のたまり、動きを得ることができます。

 

 

また、アクリルエマルションは増粘剤と組み合わせることで粘度調整が出来るため、絵具を好みの硬さにすることも可能です。ただし、この増粘剤自体に固着力はなく、乾燥速度が遅くなる原因ともなりますので、少量ずつ添加しながら調整をしてください。

 

また、同じく乾燥すると耐水性となるメディウムに油絵具用のオイルメディウムがありますが、上記の通り荒い場合は何度も重ね塗りをする必要があります。

油系のメディウムは乾燥まで長い時間を要するため、こうした岩絵具の重ね塗りには向いておらず、何か具体的に狙っている表現がない限りはおすすめできないメディウムです。



以上のように、それぞれの粒度と色の関係やメディウムの特性を理解した上で、岩絵具を使ってみてください。

 

Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。