箔というと、箔押しや砂子などをはじめとしたメディウムを用いて「基底材に貼る」ための画材と思いがちですが、実はそれ以外にも用法があります。
たとえば金消や銀消という画材は、粉末状にした金属製の顔料です。これらを細かく練り潰し、溶かした膠等と共に練ることで伸びの良い絵具、金泥・銀泥となります。
PIGMENT TOKYO「金属箔」
また、金消を用いなくとも、箔を正方形に断ち落とした際にできる、切廻しと呼ばれる細かい箔と膠を練ることで、箔の色を生かしたドローイングを行うことができます。
もちろん、シート状の箔から金泥・銀泥を作ることも可能です。
この手法を用いることで、粉末状の販売がない箔なども顔料のように絵具化して用いることが可能です。
少量から作ることもできるので、ちょっとした用途の場合でも、金消を用いずシート状の箔を用いた方が良い場合もあるでしょう。
この作業は金属を絵皿で練り合わせる工程が重要なため、乾燥後も温めて再度利用できるよう、メディウムは再可溶性のある膠を使用するのをおすすめしております。
アクリル絵具用のメディウムは乾燥すると皮膜化し硬化するため、この作業に向いていません。
また、透明水彩で用いるアラビアゴムも水を加えることで液体状となりますが、固着力が膠と比べて弱いという点からおすすめはいたしません。
それでは実際に必要な素材をみてみましょう。
まずは粉末状の販売がない「新光箔」で絵具を作ってみます。
この箔は銀箔に合成樹脂と染料・顔料で着色コーティングされたものです。両面にコーティングを施すことによって、銀特有の変色を極力防止する加工がなされています。
ただし性質上、長時間光の下に晒すと、若干の退色が見られることがありますのでご注意ください。
【画材リスト】
・金属箔(写真のものは新光箔)
・牛膠溶液 直火濃縮20%(豚膠溶液でも代用可能)
・絵皿
・筆洗
・水匙
・電気コンロ
(※箔を焼く作業でも用いるため、他の器具での代用はおすすめしません。)
・面相筆
もちろん、ご自身で使い慣れている膠で代用することも可能ですが、パーセントや水の量などは膠の種類によって変化しますので、ご自身で調整をしてご使用ください。
作業プロセスは以下になります。
①箔を絵皿に入れる
金属箔を絵皿に入れます。銀箔は硫黄と反応して黒く変色したり、新光箔は耐光性が弱いため、展示や使用する場所によって箔の使い分けが必要です。
②,③膠溶液を作る
別の絵皿に、20%程度で濃縮した膠に水を添加します。目安としては、岩絵具を膠で練り合わせる時と同程度の濃度です。
膠を均等に混ぜられるよう、同じ絵皿ではなく別の絵皿で作業をしてください。
④混ぜながら練る
前のプロセスで作った膠溶液を、箔を入れた絵皿に入れて中指の腹を使い練り合わせます。
⑤水の添加
必要に応じて水を添加します。画像を参考に絵皿全体が水っぽくならない程度の量を少しずつ加えてください。
⑥練り上げ
さらに練り上げます。膠と金属箔が分散し、綺麗に馴染んだら完成です。
⑦描く前の作業
膠は冷えるとゼリー状になり、温めると液体状になる特性があります。
顔料などと混ぜた時も同様で、膠で作った絵具は必要に応じて適宜加熱をする必要があります。夏場など暑い時期はこうした器具が不要な場合もありますが、基本的には電熱機で加熱し、しっかりと液体にしてから描画する必要があります。
⑧焼き付け
膠と混ぜたある程度細かくなったペースト状の箔を電熱器で炙り乾かし、より強く定着させます。
再度、膠と水を足して、中指の腹を使い練り混ぜてください。
面相筆に軽く水を馴染ませて、絵具をつけて試し書きをします。この時、水が少なすぎる場合は適宜調整をしてください。
⑨完成
実際に竹和紙(水彩用)に描画してみた様子がこちらです。
写真では少し伝わりづらいですが、エフェクト顔料とはまた異なった高級感のある質感で、サインやカリグラフィーなどに用いても効果的に用いることができるでしょう。
ただし、人工的に金や銀を再現したピグメントと比べて高価なので、広い面積を塗るのには適していません。
もちろん、金箔や銀箔も同様の手順で絵具にすることができます。
銀箔は他の箔と比べて箔どうしがくっついてダマになりやすく、練りにくいため、しっかりと混ぜ合わせる必要があります。
場合によっては砂子筒(金泥)を使って箔を細かくしてから膠と練り混ぜることをおすすめします。
こちらの写真は、純金箔の五毛色を練っている様子です。この箔を使用すると滑らかな金の絵具を作ることができました。
純金箔のみ④~⑧の工程を繰り返す事でより輝きが強くなります。
同じく、竹和紙(水彩用)に描画した様子がこちらです。
金を擬似的に表現したエフェクト顔料にはない、物質の魅力と煌めきが美しいです。
新光箔、純金箔、本銀箔で描き比べた様子がこちらです。
箔特有の光沢が非常に美しいので、つい手に持って傾けて、偏光感を楽しみたくなってしまう質感を有していました。
同様の手順で新光箔だけでなく、黒箔や銅箔でも絵具を作ることができます。
色々な箔で試してみたり、箔押しで余った箔を再利用してみるのも良いかもしれません。
金と銀を混ぜてみたり……など色々な使い方ができるでしょう。
ご興味のある方は、ぜひ試してみてください。