PIGMENT TOKYOオリジナル和膠が生まれるまで 後編 〜メイドインジャパンの膠製造の現場に迫る〜

PIGMENT TOKYOオリジナル和膠が生まれるまで 後編 〜メイドインジャパンの膠製造の現場に迫る〜

PIGMENT TOKYOではオリジナルの膠・展色剤として、何種類もの商品を取り扱いしております。

これらの商品の製造を一手に引き受けているのが、兵庫県姫路市にてゼラチン・コラーゲンペプチドの製造をする宏栄化成株式会社です。


前回の「PIGMENT TOKYO オリジナル和膠が生まれるまで 前編〜コラーゲン・ゼラチン産業〜」では、同社の代表取締役社長の福島隆氏に、膠の概要や、それを取り巻く状況、宏栄化成の膠について伺いました。

後編では、同社常務取締役の清水宏之氏の案内のもと、実際にオリジナル和膠が生まれるまでの工程を見学しました。


食品・工業製品としてのゼラチン・膠は以下のプロセスで製造されます。

 

 

 

今回は細かく切られた牛の乾皮と、魚(鯛)の皮を原料とした2種類を作成しました。

牛皮は乾燥させた状態のものを細かく刻んでから、水で戻してから炊きます。

 

本来は何度か抽出し、ゼリー強度の異なる膠を数種類合わせて炊くのですが、1次抽出のみ行いました。

膠の種類により抽出の回数は変わりますが、一度釜に火を入れた場合は24時間体制で抽出が必要になるため、非常に手間がかかります。

 

右が牛皮で左が鯛の皮を煮ている様子



ここから何時間もかけて膠を煮出していくことになります。

調理するとき同様、こうしたものを炊いていると灰汁や油分が浮いてくるため、これを丁寧にレードルですくっていきます。

 

 

この写真だけ見ると、まるで料理をしているようです。

まるでスープを作っているときのような匂いが漂っていました。

 

一定の温度になるように管理をしながら、定期的に濃度計で膠の濃度を測定していきます。

大ロットで作る食用のゼラチンやコラーゲンペプチドなどと異なり、オリジナル和膠は職人の手によって作業をする必要があります。例えば、今回は1次抽出だけで着火から8時間かかりました。

 

 

牛膠は7:30に魚は10:30から着火し火入れがはじまった



1次抽出が終わった様子はこちらです。見た目は出汁のようです。これを別の場所に移動させ、人肌くらいまで冷ましたのちに濾過作業を行います。

 

 

膠の抽出液



こちらが濾過器で濾過をしている作業です。

陶器製の漏斗にはパルプ製のフィルターが敷き詰められており、これによって不純物を真空で濾過します。

魚膠も同様の方法で濾過が行われます。

 

下のガラスは容器内を真空にする器具が装着されている。これによって効率的に濾過を行う



粗熱が取れたら、保存容器に膠溶液を流し込み、冷却作業を行います。

 

 

実際の商品製造の際は、冷却後に切り分けられ、専用の金網を使って工場の一室で乾燥作業が行われています。

 

 宏栄化成で乾燥中の膠



このあと、強度や成分を測るための作業が行われます。

 

下記の写真左は、宏栄化成で使用しているゼリー強度を計測する機械です。

専用の瓶に溶解した膠を入れて​​溶解したものを冷まし、ゼリー状態になったものをプラスチック棒で押し返す力がどれくらい必要かを測ります。写真右が検査用の瓶です。

 

瓶の規格もJIS(日本産業規格)で厳密に決められている




以下の写真は膠の粘度を計測する器具です。

食用と工業用では求められる粘度が異なるので、計測方法も変わります。

 

 

左右で食品用と工業用のどちらにも対応できるような仕組みになっている



オリジナル和膠は時期に応じて様々な原料を使用しているため、大ロット商品のように数値を一定にすることをコンセプトにしていません。

そのため「9.混合」のプロセスは行わず、棒状のまま最終検査され、出荷されます。

 

以上のように、長いプロセスを経てこの膠は完成します。

他にも宏栄化成の施設には紹介しきれなかった原料のサンプルや試作品などを所持しており、現在の主要商品ではなくとも、並々ならぬこだわりを肌で感じることができた取材となりました。



取材終了後、1次抽出が終わった牛皮の原料を持ち帰り、PIGMENT TOKYOのラボスペースにて2次抽出と3次抽出まで行いました。

まずは、保存容器で固形状になった膠の切り分けを行います。

宏栄化成で乾燥作業をしていた時同様、網目状の金属にゼリー状態の膠を置き、常温で乾燥させました。



 魚膠を乾燥させている様子



プロセスとしては宏栄化成で行っていた作業同様、鍋に1次抽出が完了した原料と水を入れ、接着に適した濃度になるまで煮詰めます。今回は2次抽出は7時間ほど、3次抽出も7時間ほど行いました。

(本来は濃度計などを用いて、適切な濃度になるまで煮詰めます。)

その後、簡易的な濾過作業をしたのち、金型に液体を流し込んで、同様のプロセスで細く切り分け、乾燥を行いました。

 

和菓子用の金型で代用

 

膠を乾燥させている様子。手前が2次抽出の牛で、後方が魚膠



製品レベルの濃度測定や抽出は行わない簡易的な作業とはなりましたが、このように宏栄化成で作業が行われたものと遜色ない見た目の膠を作ることができました。

 

 左から1次抽出、2次抽出、そして3次抽出の膠。透明性に差があるのがわかる



PIGMENT TOKYOでは引き続き、職人と作家が長い時間をかけて培ってきた表現技法の技術の積み重ねと知見の普及活動を続けています。

他の水系メディウムと混ぜたりと、日本画以外の可能性も秘めている膠。

分野を超えた表現の可能性を高品質な国産品で、ぜひ探求してみてください。



【企業情報】

宏栄化成株式会社

〒671-1262 姫路市余部区上余部33

TEL:079-273-2001

FAX:079-273-2010

ホームページ:https://www.koei-chem.com/index.html

 

*同社の膠はPIGMENT TOKYO限定商品です。

PIGMENT TOKYOの店舗及びオンラインショップよりご購入ください。

https://pigment.tokyo/

 

Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。