日本画筆の名前〜平筆、刷毛、連筆〜

日本画筆の名前〜平筆、刷毛、連筆〜

日本語の「筆」を英語で表記すると「Brushes」となりますが、日本絵画では多様な「Brushes」が存在します。

たとえば、線を描く筆だけでも運筆、骨書筆(こつがきふで)、面相筆、毛書筆(けがきふで)などがあり、それぞれ用途に応じさまざまな形状をしております。


また、広い面を塗るために作られた道具には、大きく分けて「平筆」「刷毛」「連筆」という種類がございます。

それぞれにどのような違いがあるのかをご存知でしょうか。


今回の記事では、絵画で広い面を塗るための「Brushes」をご紹介します。




平筆




平面を塗る筆でもっともポピュラーなものがこちらの筆。美術の授業で目にした人も多いかもしれません。

毛足が短く、小回りが効くため狭い範囲をムラなく塗るのに適しています。




墨や膠、インクはもちろん、水彩絵具やアクリル絵具をはじめとした水系絵具、油絵具にもご使用いただけます。

どんなメディウムにも使用できる、万能な筆と言っても過言ではないでしょう。



実際に塗ってみたサンプルはこちら。上から順に、加水する量を増やして色を塗っております。



【筆】

・極品平筆 5号


【基底材】

・竹和紙(水彩画用)


【使用色材】

・彩墨あや 黄朱

 



平筆特有の筆跡を生かした、かすれ表現も可能です。

これから制作を始めよう!と言う方にはおすすめの一本です。




刷毛



刷毛とは全体の塗り込みをする時に使用する、穂先が平らな筆です。

平筆と異なり、小回りが効かない分、大きな面を塗るのに適しています。

膠引きやドーサ、下塗り、そして最後のワニスを塗る場合など、制作の初めと終わりに活躍することが多いです。




こちらの筆も、水系〜油系などメディウムを問わず使用いただけます。

筆者個人の選ぶ基準といたしましては、粘度の低い絵具の場合は羊毛の刷毛、粘度の高い絵具にはナイロンの刷毛をお勧めいたします。

もちろん、ナイロンにも種類によって硬い〜柔らかいがございますので、まずは習作などで試してみてからが良いでしょう。


実際に塗ってみたサンプルはこちら。



【筆】

・金泥刷毛 10号


【基底材】

・竹和紙(水彩画用)


【使用色材】

・彩墨あや 黄朱


平筆と比べて均一かつ息が長いのが特徴。筆が薄く絵具のおりが良いので、地塗りやニスがけをしたりなど、一工夫して作品制作をしたい場合に、購入を検討してみてはいかがでしょうか。




連筆



なんだか見慣れない形をしているこちらの筆。

丸型の筆が持つ含みの良さと、刷毛の幅を兼ね備えたハイブリッドさが特徴です。




非常に絵具の含みがよく、ぼかしの表現や息の長い表現を得意とします。

また、刷毛は両端から水分が抜けてかすれますが、連筆は一本一本に水分を含むので均一に塗ることができます。

この筆の強みを生かすには、墨や膠、水彩絵具などで使用するが良いでしょう。

壁などに立てかけて描くために作られた片羽連筆や、岩絵具のぼかし表現に適した山馬連筆

など、日本絵画を描くために特化した商品です。



【筆】

・鹿毛入連筆 小3本組


【基底材】

・竹和紙(水彩画用)


【使用色材】

・彩墨あや 黄朱



最後に、それぞれの筆で強弱をつけて塗り比べてみました。



【筆】

・極品平筆 5号

・金泥刷毛 10号

・鹿毛入連筆 小3本組


【基底材】

・竹和紙(水彩画用)


【使用色材】

・彩墨あや 黄朱



平筆は薄塗りで強弱をつけようとすると、滑らかなストロークを作ることができず、力を入れた部分だけ極端に色が濃くなります。

また、刷毛の場合は強弱をつける表現を目的とした道具ではないため、あまり差が出ません。

それに対して連筆は、長流のような丸筆が持つ滑らかなストロークを保ちつつ、広い面積を塗ることを可能としています。




もちろん、平筆・刷毛・連筆の中でも筆の厚さや毛質によって得意とする表現方法が変わってまいります。

PIGMENT TOKYOでは店頭で試し書きもできますので、気になる筆がある場合はお気軽にスタッフにご相談ください。

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。