山田五郎と読み解くアートの色彩

山田五郎と読み解くアートの色彩

岩泉館長をホストに、様々なジャンルのプロフェショナルをお招きして美的な思考を学ぶPIGMENT COLOR PHILOSOPHY。今回はテレビ、ラジオ、雑誌等々、様々なメディアでご活躍されている、編集者・評論家の山田五郎氏をゲストに、色と素材から美術史を紐解くトークセッションを開催致しました。

古今東西の希少な顔料たちが敷き詰められたテーブルを舞台に繰り広げられた、美術と色にまつわるディープな夜会の一編を、皆様にお届けします。



超満員の会場にて、大きな拍手で迎えられた山田五郎氏。今日は、参加して下さった皆様に損をさせないお話をしますよ、という氏の一言に会場は湧きあがりました。今回のテーマは美術史からみた色の物語。赤、青、黄…など、一見身近にある色を、名画と共に振り返ります。



まず近世における赤の話題で、トークショーの口火は切られました。このパートでは、ラファエロによる《ヒワの聖母》を山田氏にご解説いただき、その後、岩泉館長がバーミリオンの誕生秘話について説明致しました。



その次に、話題は青へと移ります。青の代表格といえば、誰しも一度は耳にしたことがあるであろう、ウルトラマリン。《親指のマリア》などにも使用されているこの色は”神の母マリア”信仰とも密接な関係があり、山田氏による美術史的な知見と、岩泉館長による材料学の心得という、多角的視点で青についての解説がなされました。



赤、青…と続いて、次に語られたのは黄色についてです。黄色は西洋美術史で不遇なんだよね、と語る山田氏。それもそのはず。この色は西洋美術史において、イスカリオテのユダを示すからです。しかし、キリスト教勃興以前のヨーロッパにおいて、黄色はまた違った使われ方をしておりました。このパートでは、ポンペイの《ポンペイ秘儀荘壁画》を主題に、自然現象が生み出す色の化学変化について、語られました。



偶然から生み出された赤、聖なる母の象徴としての青、自然現象によって生み出した黄色など、一言に「三原色」と言ってもそこには様々な歴史と物語が伺い知ることができます。



更に、話題は近代の色と移ります。科学技術が発達し、チューブ絵具が誕生したことで、画家は工房で絵具を作ることから解放されました。また、これまでの天然石や染料を主成分とする顔料に加えて、化学合成で作り出される鮮やかな色を生み出すことができました。そうした技術の発展と絵画の歴史の相互関係について、山田氏と岩泉館長による興味深い語り合いが続きます。




その後、チューブ絵具の誕生は抽象絵画の発展にも大きく貢献します。カンディンスキーの《Impression III》はまさに、彩度の高いフレッシュな絵具を用いて、その時の感情を描いた作品です。このパートでは、シェーンベルクの演奏会を描いたというこの作品を基点としてする、抽象絵画の系譜について山田氏による解説が行われました。



そして最後は、近現代の色についてトークがなされました。20世紀後半になると、色はその作家自身を表すシンボルとして昇華されます。その最も顕著な例が、イヴ・クラインによる「インターナショナル・クラインブルー」です。ミニマルで一見難解に見えるクラインの作品ですが、山田氏による解説は非常に明快で、真剣にその内容をメモされているお客様もいらっしゃいました。また、山田氏はトーク当日インターナショナル・クラインブルーをイメージしてお洋服をコーディネートされたとのこと。氏のイヴ・クラインへの熱い思いが会場を満たし、トークセッションは終幕となりました。



トーク終了後は、岩泉館長コレクションによる、本物の「インターナショナル・クラインブルー」や、その他貴重な顔料の現物を会場の皆様にお見せするなど、色材を主軸とした様々な美術史が展開された一夜となりました。




ゲスト登壇者プロフィール

山田五郎 やまだ・ごろう(編集者・評論家)

1958年 東京都生まれ

上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し西洋美術史を学ぶ。

卒業後、㈱講談社に入社『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。

現在は時計、西洋美術、街づくり、など幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。


著者に『百万人のお尻学』(講談社+α文庫)

『知識ゼロからの西洋絵画入門』(幻冬舎)

『知識ゼロからの西洋絵画史入門』(幻冬舎)

『銀座のすし』(文藝春秋)

『ヘンタイ美術館』(ダイヤモンド社)

『人生を面白くする「好きになる力」』(海竜社)

『知識ゼロからの西洋絵画困った巨匠たち対決』(幻冬舎)

『大人のための恐竜教室』(ウェッジ)

『へんな西洋絵画』(講談社) など


TV :『出没!アド街ック天国』(テレビ東京)

:『ぶらぶら美術博物館』(BS日テレ) 他レギュラー出演中。

ラジオ :『デイ・キャッチ』(TBSラジオ) 他レギュラー出演中。

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。