日本絵画では岩絵具をはじめとする顔料だけでなく、植物由来の染料も色材として用いられます。
この藤黄(とうおう)も、その染料のひとつです。
藤黄はオトギリソウ科フクギ属の高木の樹脂で、水に溶かすと透明感のある黄色系の発色をします。
英名でガンボージ(Gamboge)と呼ばれ、インド、ミャンマー、タイなどで採ることができ、木に螺旋状の傷をつけて、そこから取れる黄色いゴム状の樹脂を凝固させることで作られます。
その歴史は長く、日本においては奈良は正倉院に収蔵されている800年代に制作された《漆金薄絵盤(香印坐)》にて藤黄が用いられています。その他は、日本美術作品の箔下にも用いられたそうです。
欧州においては1600年代時点で色材として用いられており、透明水彩、細密画、金のバーニッシュ、さらにはリキュールの色付けなど、幅広く利用されておりました。
当ラボで取扱のある他の黄色系顔料と比べてみると、藤黄は少々赤みを帯びており、明度は少し暗くなっています。
この色材は、同じく黄系のヒ素系を含んだ鉱物顔料、雌黄(しおう)と混同されるケースがあります。例えば『精選版 日本国語大辞典』では「藤黄」の漢名が「雌黄」であるとしています。
雌黄とは英名で「オーピメント」と呼ばれる鉱物性の黄色系色材で、その有毒性から現在は雌黄が藤黄で代用されるケースもあるとのこと。
水溶性の性質を持つ染料の藤黄と、水に溶ける性質を持ってない顔料の雌黄。
実際に見て、触れてみると違いがよくわかるのですが、両者とも同じ黄色系の色材であること、その危険性から今日では藤黄に代用される場合があることから、混同されてしまったのかもしれません。
ちなみにこの藤黄、大正時代に刊行された『本草図譜』という書籍において、果実には酸味とほのかな甘みがあるとされています。
2022年現在、検索エンジンにて「Gamboge Fruit」とサーチすると実際に食べてみた様子などがヒットすることから、現在でも少量ながら食用として流通していることがわかります。
どんな味がするのか、少し食べてみたくなりますね。
それでは実際に使ってみましょう。使い方は非常に簡単です。
このように指に水をつけてガンボージ本体を撫でることで、じんわりと色味が滲みでてきます。
これをそのまま筆に染み込ませて、支持体に着彩することができます。
また、膠で練り合わせた胡粉と混ぜることで、顔料化し具絵具として利用することも可能です。
当ラボではチューブ入りの胡粉、都の雪も販売しております。そちらを使用すると手軽に顔料化したガンボージを作ることができます。
【使用画材】
色材:胡粉、藤黄
基底材:竹和紙 水彩画用
更に同じく胡粉と色材を練り合わせて作られた水干絵具と混ぜて使用することで、また一味違った色味を得られます。
【使用画材】
色材:胡粉、藤黄、水干絵具
基底材:竹和紙 水彩画用
【使用画材】
色材:胡粉、藤黄、水干絵具
基底材:竹和紙 水彩画用
既に絵具の状態になっているガンボージをご希望のお客様には、ZECCHIからリリースされております、こちらのパンケーキもおすすめです。
この商品はヨーロッパの古典的製法で作られた水彩絵具で、パレットボックスに入れて使うことで自分だけの水彩パレットを作ることができます。
はるか前から愛されている黄色に、思いを馳せてみませんか。
参考文献
岩崎常正『本草図譜』(本草図譜刊行会.1916-21年)
小学館辞典編集部 編『新版 色の手帖―色見本と文献例でつづる色名ガイド』永田 泰弘監修(小学館.2002年)
辻 惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版会.2005年)
吉岡幸雄、福田伝士 『日本の色辞典』(紫紅社.2000年)
吉阪貿易株式会社 編『南方有用物資の研究』(吉阪貿易研究部.1942年)
Jan W. Gooch Encyclopedic Dictionary of Polymers, Springer Nature,2007
Scientific American 1855-04-28, Vol.10 Gamboge,Scientific American, a division of Nature America, Inc.1855
参考資料
Earth Titan「Gamboge Taste Test | Unusual Foods」(2022年6月15日閲覧)
https://www.youtube.com/watch?v=0T5bFSYUzDU
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