易分散顔料ってなんだろう?

易分散顔料ってなんだろう?

オリジナルの絵具を作るとき、顔料と糊材が上手く混ざらず苦労したという経験はないでしょうか。

例えば比重の重いカドミウム系の顔料をはじめとする無機顔料は容易にバインダーと混ぜられますが、レーキ系などの有機顔料の場合は表面張力が強いため、オックスゴールや分散材を添加しないと綺麗に絵具を作ることができません。




そうした問題を解決してくれるのが、こちらの易分散(いぶんさん)顔料です。





易分散という言葉を聞き慣れない、どういう意味か分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本の企業が所有している技術や研究活動の情報を公開している「astamuse」というプラットフォームによれば、攪拌用の大型機材を使用せず、手攪拌のような比較的軽い作業で混ざる状態を指すそうです。

私たちの身近なものですと、ゼリ-やジャム、シロップなどにもこの技術が使われているとのこと。

意外にも、易分散の技術を使用したものは、私たちの身の回りにも多々存在しているようです。


大ロットでの絵具作りを要するメーカーは、この顔料を使うことで生産性向上、環境問題への配慮、産廃コストの低減などが見込めるそうですが、私たちアーティストにとって一番のメリットは、気軽に有機顔料の絵具が作れる点にあるでしょう。


また粒子が細かくて比重の軽い有機顔料は、一度付着してしまうと机はもちろんのこと、ツルツルとした絵皿であっても取り除くのは容易ではありません。

しかし、こちらの易分散顔料を使用すれば、これらの絵具づくりで生じるであろうトラブルを最小限に抑えられるようになります。


今回、当ラボが販売開始した顔料はこちらの全6色になります。

もちろん色味についても、一般的に流通している同名の顔料と大差はございません。


ただし、水性の分散剤が加工されているので、油系のメディウムに使用することができません。

また湿気を吸収しやすいため、顔料が固まることがあります。使用に差し支えはありませんが、湿度の少ない所で保管してください。




【使用画材】

色材:易分散顔料

メディウム:ガムアラビック 水彩メディウム

基底材:竹和紙 水彩画用



それでは実際に絵具の混ざり具合がどのように違うのか、比べてみましょう。

今回使用するのは、顔料の中でもとりわけメディウムと混ざりにくい、エフェクト顔料と比較します。


まずは最初に、水を張った絵皿へエフェクト顔料のデュオクロム RYを散らしてみます。

するとこのように顔料が沈まず、絵皿の上に浮いてしまっています。もちろん軽く筆で混ぜただけでは、混ざりません。



次に易分散顔料のピロールレッドを散らしてみましょう。

すると、みるみるうちに水へ顔料が馴染んでいきました。筆で一切触れずにここまで分散されていることから、この顔料がいかにメディウムと混ぜやすいかが分かるでしょう。




もちろん、絵具作りは絵具とメディウムをいかに均一に混ぜ合わせるかが要となりますので、大理石板やガラスマラーなどがあるとより良い状態の絵具を作ることが可能です。

ぜひ、こちらの顔料をお試しください。




【参考資料】

易分散 の意味・用法を知る(2021年10月26日閲覧)

https://astamuse.com/ja/keyword/11413997

Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。