素材からみた絵筆の選び方

素材からみた絵筆の選び方

絵画表現の発展に伴い、毛筆も多種多様な進化を遂げてきました。


とりわけ東洋美術では「書画」という言葉からわかるように、書(文字)と画(絵)がひとつの画面に表現されるケースが多々あります。

字を書くための筆はもちろん、絵を描くための筆、さらにはぼかすための筆など、さまざまな毛質の筆が必要とされていました。


また、西洋においても膠をはじめとした水系絵画の勃興、油彩画の確立、そしてチューブ絵具の発明などを経て、東洋美術とは異なった筆の系譜がつくられています。


もちろん、どんな作品にどんな筆を使うか?はアーティストの工夫次第で組み合わせは何通りもあります。

東洋美術用の筆でも油絵に使用できる場合もございますし、その逆に彩墨を水彩用の筆を利用して描くことも可能です。


そんな筆ですが、あまりにも種類が多すぎて選ぶのに困った。そんなことはないでしょうか。

今回当ラボで取り扱いの絵筆たちを原毛という視点でご紹介いたします。


東洋/西洋という視点だけではなく、素材として自分の作品にどの筆が適しているか?を探りながら、自分のお気に入りの絵筆や刷毛を探してみてください。




一般的に羊毛と呼ばれている毛は、中国産の山羊の毛を使用しています。

日本の山羊とは毛質が違い、使用するほどに毛に弾力が出てきます。

体の部分で毛の質が異なり、胴体の毛は柔らかく、水含みがとてもよい毛です。

尾の毛はコシが羊毛の中では腰が強い性質があります。

主に日本画用の筆や書道用などとしてよく使用されています。

平筆や刷毛などは油絵具やアクリル絵具などでも使用でき、デザイン用途に特化した平筆などもあります。





イタチの尾毛のみを使用します。

茶色の毛で、柔らかくコシがあり、水含みもよく筆として理想的な毛質です。

先がきき、細い線も綺麗に書け、画筆、書筆などとして使用されています。

コリンスキーと呼ばれるものは、イタチ毛の中でも最も良質で高価な毛です。





日本産と中国産があり、日本産は良質で主に面相・毛書などに使用されるが、希少なため中国産が主流です。

背筋の毛は黒狸、胸毛は白狸と呼ばれ、毛質が異なるため筆によって使い分けられます。

毛の根本は細く、腰毛を足して使用しなければ、腰の弱い筆となります。

毛先は太いので、腰毛を足すか、切り落として使用すると硬く鋭い線が描けます。

軟毛として油彩筆・水彩筆など幅広く用いられます。





繊維が細く大変柔らかい毛質で、水の含みは天然毛の中で最高級です。

主に水彩筆・化粧筆(チーク等)に使用されます。





独特の弾力性と耐久性を持った、代表的な硬毛で主に油彩筆に使用されます。

中国産のものが良質で主流となっています。





鹿には多くの種類があり、地域によって毛質が異なります。

硬い毛質のため、まとまりに欠けるので芯や根本の腰毛に使用されることが多いです。

含みがよく、弾力に優れており、毛自体に膨らみもあります。

東南アジア地域のサンバと呼ばれる種は、原毛の中で一番硬い毛質ですが、ワシントン条約にて捕獲禁止になったため輸入出来ません。

現在流通している筆は条約以前に仕入れた原毛を使用して製作されています。






毛質は柔らかく毛先の少し下が膨らんでおり、絵具を含ませると毛先は丸くなるので玉毛とも呼ばれています。

特に白い毛が良質で一番多く使用されますが、量が極めて少ないため大変高価な原料です。

他の毛質にはない特徴を持っていますが、消耗度が高く生命は短いです。




弾力があり、量産出来るため比較的安価な毛です。

樹脂系絵具の普及にともない広く使用され主にアクリル絵具用として用いられています。

技術の向上に伴い、毛の形状や表面加工をおこない、天然毛に近い含み具合や描き味を再現しています。

アクリル絵具だけではなく油彩用、トールペイント用等様々な筆の材料として使用されています。

ワシントン条約や動物保護条例で天然原毛が入手できなくなったものの代用として使われていることもあります。


大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。