絵絹を楽しむ 〜半透明の美〜

絵絹を楽しむ 〜半透明の美〜

東洋美術を語る上で欠かせない基底材の絹本。


絹糸が生み出す特有の滑らかな表面が非常に魅力的な素材ですが、麻布や麻紙と比べて素材としての堅牢性が低いため、作品として鑑賞可能な状態になるまで、いくつかのプロセスを要します。


まず木枠へ絹を張り込んだのち、表具師の方に裏打ち(薄い紙を用いた補強作業)や表装(床の間や壁にかけられるようにする作業)を依頼することで、1枚の絹は初めて私たちが美術館で目にする「掛け軸」の状態になるわけです。


《旭日図》 今尾景祥 絹本に着彩 個人蔵


このような理由から、しばし”歩留(ぶど)まりの悪い支持体”として扱われてしまう絹ですが、同時に絹は細やかな織物でしか表現し得ない、滑らかな光沢と風合いを持ち合わせています。


上記のプロセスを見ると「やっぱりハードルが高いな」と考える方も多いでしょう。しかし、この記事を読んだら「でも、やってみたいな」という気持ちに変わるかもしれません。



まず絹の魅力といえば、その絵肌の美しさにあります。


紡いだ糸から生まれた繊細な肌合いと滲みは、楮紙や雁皮紙などでは表すことができない、きめ細やかな絵肌を作り出します。

エフェクト顔料を使用すると一層、華やかな雰囲気に。

古くからある素材だけでなく、こうした新しい素材も絹に使用することが可能です。




次に、このようなグラデーション表現もできます。

こちらは水干絵具の群青を使用。柔らかな色のぼけ味が美しいです。






また、ガラス絵のように裏側から描くことで、絹の物質性を生かした、レイヤーのある絵画表現が可能です。



こちらが上記が着彩した絹を表面からみら様子。これを裏から見ると……



白でグレーズをかけたような色になりました。まさに、絹ならではの色彩空間。

当ラボでは二丁樋特上(薄口)、二丁樋重目(中口)、三丁樋(厚口)という3種類の厚みの絵絹をご用意しております。ぜひ、お好みの厚さのものを見つけてみてください。



使用する顔料は自由。岩絵具や墨、水干などの日本絵画材料はもちろんのこと、エフェクト顔料や、ピグメントなども使うことが可能です。もし岩絵具を使用される場合は、定着性の観点から10番以上の粒子の細かい色材をご使用ください。



また裏打ちという工程を要することから、バインダーは膠の使用をお勧めいたします。



というのも表装をする工程上、作品全体を湿らせて作業をすることがあるため、完成後の作品自体に適度な伸縮性が求められます。

併せて、掛け軸にするためには丸めても割れが起きにくくなるよう、適度な柔軟性も必要です。


共箱(作品が収納してある箱)から取り出した状態の《旭日図》


そのため、完全な耐水性になってしまうアクリル絵具やアルキド樹脂は、定着性の観点では問題がないのですが、表装及び長期保存には適さないとされています。


PIGMENT TOKYOのYouTubeチャンネルでは、絹を張る方法をご紹介しております。

一見難しそうですが、当ラボの画材エキスパートが丁寧に解説しておりますので、ご安心ください。




張り込み用の道具は当ラボのオンラインストアでもお取り扱いしております。

ご興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。



また、描き終えた後、表装をしてみたいというお客様には、当ラボのお問い合わせフォームよりご相談を承っております。


Contact

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今日日、絹で作品を描く機会が減っているかもしれませんが、新たな支持体に挑戦することで自分の作品がまた別の角度で見えることがあるかもしれません。

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。