体質的には炭素粒子の分散を抑えられるだけ抑え、全体的に落松松煙の特長の明るさ温かみ(赤み)を調和させ品位と墨色にしてあります。この落松松煙とは、伐採後二～三十年余り地上に放置しておくと、幹や枝の外皮が朽ち果て剥がれて松脂だけがのこります。これを採集して自然乾燥させたもの(白太)を焚いて松煙にしたものです。このような白太の松煙は自ずから松煙の色が異なります。いろいろと試作試験を重ねた結果、今日のような特色のある墨色ができるようになりました。しかし同質の原料は大量には採取不可能で量産はできません。又、仕上がった松煙 も一俵一俵多少とも色が異なり同一の墨にはなりません。唯、他の墨にない珍しい墨色だと言うことだけです。色彩的には淡墨の場合は赤み(温かみ)を帯びた上品な墨色。この場合の赤みというのは絵の具の赤みとは異なります。自然の要素がいろいろと交じり合ってできた赤みと言ってよいのか、赤というより仕方がないという複雑で上品な薄赤茶の暗さを持つ、言い換えれば自然にできた藍色が少量交ったような色です。濃墨から超濃墨の場合は紫紺系の墨色で、厚みがあり力強く美しい上品な黒です。この濃、淡墨の墨色は一般の墨では表現できない墨色です。年を経るに従い個性特長が一層顕著に現れて来ることと思います。製造年度:平成元年