PIGMENT TOKYOでは様々なジャンルの絵画材料に造詣が深い画材エキスパートが在籍しております。
そんな画材エキスパートに画材の応用的な使用方法を聞く「絵画の処方箋」シリーズ。第1回は当ラボで日本絵画に関するワークショップの講師を担当している山里奈津実さんへ、墨について解説をしてもらいました。
墨というと書や山水画で使われるイメージが強いですが、下地としても利用ができるとのこと。そんな墨を応用した下地の技法について聞いてみましょう。
ーこれは石膏でしょうか?不思議な色をしてますね。
ボローニャ石膏の中に墨を混ぜた支持体です。
ーボローニャ石膏というと、油絵の下地というイメージが強いですが……
下地の上に、岩絵具で着彩することもできるんですよ。
もちろん、真っ白な石膏下地に刷毛でグレーを塗ってグレーの下地をつくることも可能ですが、場合によっては塗りムラができてしまうことがありますよね。
なので、下準備の段階で石膏に墨を混ぜることで、このように均一なグレーを作りだすことができるんです。
ーなるほど。
もちろん、墨の種類を変えることでグレーの色味に変化をつけることができます。
例えば、左の下地は秋紅という茶系の墨を、右側は含翠という青系の墨を使用しています。
グレーの濃度調整はもちろん、固形墨独特の絶妙な風合を石膏下地で再現することができます。
ーこちらの処方を教えてもらえますか。
この石膏下地は、重量比で石膏1.5:兎膠(10%)1を混ぜて石膏パテをつくり、そこに好みの濃度の墨を混ぜます。その後、ヘラを使って綿布などを貼ったパネルに塗って乾いたら完成です。
ーこれなら誰でも簡単に作れますね。
古典的な石膏下地の処方は、準備とプロセスの煩わしさから、手軽に選択できませんでした。この方法は、京都造形芸術大学の青木芳昭教授が開発し、同大学で長年使用されている、誰でも失敗しない石膏下地のレシピとテクニックなんです。
この方法について詳細が気になる方は、[初級]石膏下地のワークショップをご受講ください。
ーこちらの絹の作品も墨で着彩したんですか?
こちらは、「やまもも」という植物系の染料に墨を混ぜて草木染めをしたものです。
絹はもともと白い支持体のため、顔料等で下地の色を薄くかけることも可能です。しかし、先ほどお話したように、刷毛を使用すると均一な画面を生み出すのは容易ではありません。こちらの技法は布を染めているので、だれでも失敗することなく、均一な色の下地をつくることができます。
ーこの色以外にも染めることはできるのでしょうか?
植物と墨の種類を変えることで、黄色、赤、黒……などなど、様々な色の下地を作りたすことが可能です。
今回使用している色は「古色付け」のため、模写作品を参考に色を決めています。
絹本というと白地というイメージを持たれるかもしれませんが、こうすることで多彩な表現も可能なんですよ。
ーこちらの絹も味のある風合いを醸し出していますね。
この絹は、木枠に絹を張り込んだのち、煮出した植物染料液に適量の墨を加えた液を刷毛で塗り込むように染め上げました。このあと、媒染を行って完成です。
当ラボでご用意した媒染済みの下地を用いて、表彩色と裏彩色に触れていただける新規講座の[入門]絹本も開催します。
ー墨といっても、様々な技法があるんですね。
習字や水墨のイメージが一般的に強い墨ですが、既存の処方に少し墨を足すことで、既製品にはない、自分だけの下地をカスタマイズすることができます。
「新しい表現を開拓したい!」と思った時は、是非当ラボの画材エキスパートにご相談ください。
講座情報
[初級]石膏下地
2020/02/08(Sat)
13:00 - 15:00
Lecture by 山里 奈津実
[入門]絹本
2020/02/15(Sat)
13:00 - 15:00
Lecture by 山里 奈津実