書画作品の隅にある、朱い落款印をご覧になられたことがある方は多いかと思います。あの落款印はどのように作られているか、ご存知でしょうか。
印章(判子)を創ることを「篆刻(てんこく)」と言います。主な材料は石ですが、それ以外に金属、木、骨などで創られたものもあります。
元々は、篆書体で彫られた印章なので「篆刻」と言われました。「篆書(てんしょ)」とは、中国の古代文字の一種で字体も常用漢字とは異なり、象形文字を思わせる字体と垂直・水平な線やシンメトリーに近い形が特徴的です。日本のパスポートの表紙デザインにも篆書体が使われています。
本来の使用方法は、書画を作成した後に署名と篆刻の落款を押すことで描いた証となり、または書物に押すことで所蔵している人物を示すものとしても使われていました。
現代では、篆刻とその篆刻印そのものの優美さや面白さに魅力を見出した展覧会や葉書、カードに押すなど、デザインも使い方も多様です。篆書体以外の字体や文様、イラスト、干支、好きな言葉などを取り入れることもできます。
では、どのように作るのか、ご紹介していきます。
こちらは、以前開催された篆刻のワークショップで、当ラボのスタッフが制作したもの。
「色」という文字と「顔料瓶」をモチーフにデザインしたそうです。
印泥で押してありますが、とてもきれいな色ですね。
道具について。
印材、印刀、印泥、、、普段の生活では聞き慣れない名前ばかりです。
一つ彫るにも、たくさん道具が要りますが、それをひとまとめにして桐の印箱に入った「篆刻セット」というものをご用意しております。
細かい道具が多く、それぞれの道具に色々な種類があるので選んで揃えるのも大変です。
篆刻制作に必要な道具が揃い、きれいな箱に収まっていると道具の管理もしやすく、手順やデザインの参考になる冊子も付属しているのですぐに始められます。
石に彫るというと難しそうに思えますが、彫りやすい石と道具が揃っているので、初めての方でも形にしやすいです。
では、こちらのセットに入っている内容を参考にしながら、主な篆刻の道具の説明をいたします。
篆刻用の二面硯は普通の硯より少し小さめで、篆刻制作には適したサイズです。デザインを印面に逆さ文字で下書きする際に2色の墨を使うため、二面硯があると便利です。
朱墨・黒墨で塗ることで完成形をイメージしやすく、修正点があればこの段階で調整もできます。
また、墨液は乾きにくい為、固形墨を濃いめに磨った墨を使うことをおすすめしています。
現代の生活では墨を磨る機会も少なくなってきましたが、墨のほのかな香りと静かに磨ることで、集中力や気持ちを高める効果があるとも言われています。この機会に、墨の良さも是非お楽しみください。
初めて硯で墨を磨る方は、こちらの動画をご参考にしてください。
PIGMENT チャンネル「墨の磨り方」
https://pigment.tokyo/blogs/pigmentchannel/1
上記の道具以外で、ご用意いただきたい道具はこちら。
また、大判の紙ヤスリ(#180〜#240くらいの粗めのもの)もあると便利です。大判と言ってもホームセンターなどで市販されているサイズで、紙・布・耐水ペーパーのどれでも大丈夫です。
印材は最初必ずしも平滑ではないので、一度ヤスリで印面を整える際に使います。セットに入っている紙ヤスリも勿論使えますが、大きい方が使いやすく便利です。消耗品なので、何度も作る方はご用意ください。
実際に彫ったものはこちらです。
今回印床を使わず、手で印材を持って彫ってみたのですが、細かいところや少し力を入れたい箇所は、印床があった方が安定して彫りやすいな、と感じました。最初は彫りやすい文字や形を選ぶ方が良いかと思います。
特に、刃物の扱いに慣れていない方は、安全もご考慮の上、作業しやすい道具をお選びください。
上の画像の「PIGMENT」「東京」の印は、市販の朱肉で押してみました。日常で使うものとして気軽に作ってみたい方は、お好きな色で押すのもいいですね。
印泥は同じ朱でも種類により少しずつ色味が異なり、色に深みを感じられます。また、印泥の方が粘りがあるので、印面への定着も良いように感じられました。印泥ならではの朱、自分好みの朱の色を、探して見るのも良いかもしれません。
下記の篆刻をご紹介した記事にも手順を記載しておりますので、よろしければご参照ください。
字を刻み、印を創る〜篆刻から学ぶ漢字の歴史〜
https://pigment.tokyo/blogs/article/15
※記事でご紹介しているワークショップ講座は、現在募集しておりません。
手彫りだからこそ感じられる、世界にひとつしかない自分だけの印が作れる魅力があります。また、制限のある小さな石の中で生まれる、文字のデザイン構成や形の選び方があるからこそ、篆刻ならではの世界観を感じられます。
雅印としての存在感、装飾やデザイン、自分の大切なノートや本、または誰かに贈る言葉の一言一句を刻んで残す表現のひとつとして、篆刻はいかがでしょうか。