ときに絵具は、私たちが想定してなかった魅力的な表情を生み出してくれることがあります。
こうした意識の外にある現象、つまり無意識の領域を引き出そうとした動きとして、オートマティズムという制作理念があります。
これは日本語の場合「自動筆記」や「自動記述」と訳され、シュルレアリズムの作家たちは積極的にこの手法を用いて作品制作を行なっておりました。
この方法を用いた技法の中に、デカルコマニーという手法があります。
これはフランス語で “転写する”を意味するdécalquerに由来し、紙やキャンバスに絵具を垂らしたのち、乾かないうちに平滑な面を基底材に当てて、そこから生み出される絵具の濃淡やランダムな形を作り出しました。
無意識下、形而上の絵画なんていうと少々硬いことのように感じてしまうかもしれませんが、手法として非常に簡単。
誰でも気軽に偶然性が作り出す美を楽しむことができます。
今回は発泡スチロールの板に接着したユニペーパーαを基底材に、Pebeo社のヴィトラーユとプリズムを使用して、このデカルコマニーという技法を行ってみました。
このユニペーパーαはポリプロピレンを主成分とした支持体で、表面が平滑で水に強いことが特徴です。
この支持体の上にアルキド樹脂をバインダーとしているヴィトラーユとプリズムを使用することで、油系の樹脂が作り出す艶かしい光沢感をより魅力的に引き出すことが可能です。
それでは早速、絵具を乗せてみましょう。
ヴィトラーユとプリズムは非常に粘度が柔らかく、そのまま筆で塗ったりするのはもちろん、こうした垂らし込みの技法にも適しています。
次に、また別の色をたらし込んでいきます。
「ちょっと絵具をのせすぎたな」や「この構図の方が綺麗かな」なんてことを考える必要はありません。ただ気の赴くまま、偶然が作り出す絵具の表情を楽しみましょう。
そして一通りの描画が完了したら、耐水性のあるツルツルとした紙を支持体の上に被せます。この記事内では使い捨ての紙製のパレットを使用しております。
そして画面上の絵具を混ぜるように、軽く指で紙を動かしたりしたのち、ゆっくりとこの紙を剥がしていきます。すると……
まるで望遠鏡で撮った惑星写真のような、魅力的な絵肌が生み出されました。
今度は違う色で試してみましょう。
同じように支持体へランダムに絵具を垂らしたのち、上からペーパーパレットを被せ、ゆっくりと剥がしていきます。
今度は、まるで生き物のような形をしたイメージが表出しました。
この形を見て、皆様はどんなものを想像されましたか?
絵を描くという行為に身構えてしまう大人だけでなく、お子様がいらっしゃる方は「これは何だろうね?」と会話をしながら楽しんでみるのも良いかもしれません。
今回は習作としてスチレンボードを使用しまたが、恒久的な保管をしたい場合はパネルへの張り込みをお勧めいたします。
ヴィトラーユやプリズムがどんな絵具か気になる方は、こちらの記事もおすすめです。
絵具と偶然が作り出すちょっと不思議なハーモニーを、ぜひご自宅で体験してみてください。