最近、初めて出会った画材はありますか?
私はこの春、PIGMENT TOKYOのスタッフに加わりました。
これまで、紙や墨、天然染料などを使った作品制作や簡単な礬水(ドーサ)引きもしていたので、墨・和紙・膠(ニカワ)や筆には縁がありましたが、まだまだ知らないことがたくさんあると常々痛感していました。
PIGMENT TOKYOに入りたいと考えたきっかけも、自分が使う道具や画材をもっと探究して使いたい、より幅広く、深く画材の知識を身に付けて表現の幅を広げたい、という思いもありました。
同じ画材でも、表現方法も使い方も、使う人それぞれ。
知っているけれど詳しくはわからなかった画材、初めて知った画材など、実際に買って使ってみたものをいくつかご紹介したいと思います。
最も興味があり、もっと知りたい!と密かに思っていたのが膠。
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で店舗が休業していた期間があり、制作の傍らに自宅でInstagramの「膠」ライブを見ながら、膠に想いを馳せていました。
【IG LIVE】Animal Glue/膠について(英語同時通訳あり)
https://www.instagram.com/tv/B_hDsZVnSJP/?igshid=5hx9hgnqnzyf
こちらの動画では、PIGMENT TOKYOで取り扱っている膠のことや、それぞれの膠に適した用途がわかりやすく説明されています。お店には今では入手できない貴重な膠の展示品もあり、Instagramのライブでは店内の展示風景もご覧いただけるので、ご来店が難しい方もお楽しみいただけます。
膠は、牛、鹿、兎、魚など、あまり他の画材店では見かけない膠もあります。膠は動物の皮や骨から採れるゼラチンですが、動物により色もゼリー強度も異なります。
入荷ロットごとでゼリー強度が異なること、それにより用途が異なることも天然のメディウム故の面白さではないでしょうか。
選んだ膠は、ドーサ用の魚膠と、岩絵具の糊(展色)剤として鹿膠です。
牛、兎、鹿、魚、どれも糊剤として使えますが、過去に使用したことがなく、あまり色が濃くなりすぎず、少し深みのある色にしたかったことが選んだ理由です。
魚膠もゼリー強度により糊剤として使用できるものもあります。
こちらは購入した鹿膠。同じ膠でも色・形が色々とあります。
きれいな飴色とフォルムがおもしろかったのも、心魅かれた一つです。
※膠はロットにより色・形が異なります。
膠液は腐りやすいので、今までは使いきれる量だけを都度作っていましたが、併せて防腐剤も購入しました。これで、まとめて作って冷蔵庫で長期保管ができるようになりました。膠液に対して0.1%の添加で、色や通常の作品制作・保管にも影響なく安心して使えます。膠液を自分で作っている方にはおすすめです。
膠液から作ってみたいとご興味ある方は、こちらの動画をご参考にしてください。
PIGMENTチャンネル 膠の作り方
礬水(ドーサ)引きとは、主な用途として和紙や絵絹などの基底材のにじみ止めとして使われています。ドーサ引きがされていない生の和紙にそのまま描くと、紙が水分を吸収して滲んでしまうので、絵を描く際にはドーサ加工されているものか、ご自身で引いてから使われる方が多いです。
一般的なドーサ液は、膠と明礬(ミョウバン)を湯煎して作りますが、こちらの魚膠は、明礬を入れずにドーサ引きができます。
明礬を入れることで和紙の劣化や変色の要因にもなるので、膠だけで作れるのは嬉しい限りです。
私は自分で膠の種類や濃度での違いを試したかったのと、使う紙の種類もその時により異なり量も要るので自分で膠液を調合していますが、初めて使われる方や気軽に使ってみたいという方は既成の膠溶液から始めてみてはいかがでしょうか。
また、PIGMENT TOKYOと言えば、およそ4500色の顔料が揃う顔料棚。
お店に来られた方はもちろん、画像でご覧になられてご存知の方も多いかと思います。
顔料には、天然と人工、土、水干、エフェクト言われる光沢や偏光するものがあり、色もたくさんあるので迷います。
色味から選んだり、種類、光沢の有無、選び方も様々です。
選んだ顔料は、土。
かねてより柿渋や天然染料を使っていて、土が漉き込まれた和紙や土の染料・顔料や媒染に興味があり、土を自分の作品に取り入れてみたいと考えていました。
土の種類も日本だけでなく、ドイツ、イタリア、ロシア、モロッコ、中国など、様々な土があります。上の画像の真ん中あたりが土。茶、黄、緑、乳白系の全体として落ち着いた柔らかい色味です。
訪れたことのある地の土ではその情景を思い出し、まだ見ぬ地の土は風景を想像しながら選びました。他の顔料とは趣の違う形で探す楽しみもあります。
上質な天然の土を選び、精製後に板状に自然乾燥させて作られており、他の顔料に比べてかなり硬いです。そのため、乳鉢などですり潰して使います。
墨と併せてグレイッシュな色合いを使いたかったので、青みも感じる「伊太利亜緑土」にしました。
荒さのある土らしい質感や表情を出したかったので、少し粗めに仕上げました。
顔料によって硬さも違いますが、滑らかなテクスチャーにしたい場合は、充分にすり潰してください。
ただし、このような粉末状の顔料だけでは絵具として定着しないので、絵具として粘度を持たせる必要があります。そのために、糊となるメディウムとも呼ばれる展色材が必要になります。私は日本で古くから行っていた技術を使いたいという思いと、使いたい和紙に適しているので膠を選んでいますが、膠以外のメディウムでも絵具が作れます。
PIGMENTチャンネル 岩絵具の溶き方
こちらは、実際に膠と土絵具で描いたものです。
画像左側:墨が抜けず筆書きのラインが見える部分は、濃いドーサ液を引いて撥水効果を高めて浸透の違いを出しました。
画像右側:土絵具を刷毛で引いています。
基底材や紙の種類、表現方法によって調整できるところが、自分だけの絵具や膠液やドーサ液を作る魅力ではないでしょうか。
専門知識を生かした画材エキスパートのスタッフがわかりやすくご案内するInstagramのライブ動画や、動画講座もご覧いただけます。
Instagramでは、約週一回のペースでライブ配信しており、画材のご紹介をしています。英語の同時通訳もされており、ご不明点があれば日本語と英語どちらでもオンタイムでご質問も承っております。
見逃してしまった方も、後からIGTVよりゆっくりとご覧いただくことができます。
PIGMENT TOKYO InstagramIGTV https://www.instagram.com/pigment_tokyo/channel/
PIGMENTチャンネル https://pigment.tokyo/blogs/pigmentchannel/
新しい道具や初めて使う画材に出会うと、何ができるのだろうと今でもわくわくします。
これからも出会いにわくわくしながら画材を探っていきたいと思っています。
みなさまの描く楽しみ、作る楽しみにお役立ていただけたら嬉しいです。