油絵を描くには、乾性油、揮発性溶き油、ワニス、樹脂などなど、さまざまな溶剤が用いられます。
その中でも油絵においてとりわけ大切なのが乾性油。これを用いることで、作品に油彩特有の光沢感を持たせ、画面を強固にし、筆運びを良くすることができます。
しかし、これだけで描いてしまうと画面がなかなか乾燥しなかったり、黄変や亀裂を起こしてしまったり、乾燥するまで時間を要してしまう場合も。
そのため油彩画は上記の溶剤をブレンドしたものを用いて制作を進めます。
もちろん、描いているプロセスによって溶剤の種類を変えたり、調合を変えたりすることもあります。
それ以外にも乾燥速度を早めるシッカチーフや、合成樹脂を加えることもあり、その組み合わせは自由です。
メーカーによっては調合済みの画溶液なども存在しておりますので、初心者の方はそちらを利用するのがおすすめです。
しかし既製品を使い慣れてきたら、自分の作品に合ったものを選ぶのもオリジナリティのある作品を生み出す一歩かもしれません。
と言いますのも、油彩画にはファットオーバーリーンという技法があります。
これは絵具を重ね塗りする際、上の層にいくに従って絵具に含まれる油分を多くすることで、ひび割れを起きにくするのです。それにより、画面の堅牢性をより高くすることができます。
序盤はテレピンやペトロールなどの揮発性油で描き、中間層ではペインティングオイル、そして終盤ではペインティングオイルに乾性油を添加したもの、そして最後には画面保護のワニスという順番で描けば、安定した画面を作り出すことができます。
乾性油にもいくつか種類や、向き不向きがあります。
今回はイタリアはフィレンツェの名門画材店、ゼッキの商品の中でも、乾性油にフォーカスを当ててご紹介します。
①ポピーオイル
芥子(けし)の種子から搾油・精製された乾性油です。
精製前の芥子の種子(イメージ)
油絵を一度手にしたことある方であれば、リンシードオイルとポピーオイルは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
こちらはフランドル地方の絵画で使われ始めたメディウムで、リンシードオイルと比べて乾きは遅く、最も明るい色のオイルです。そのため、油絵具で白を製造する際にも使用されています。
こちらも非常に扱いやすいため、初心者の方にもおすすめです。
②ウォールナットオイル
くるみの実から搾油・精製された乾燥油です。
リンシードオイルよりも乾燥が遅いのですが、黄変は少ないため、淡い色に適しており、鉛白に混ぜるのにはおすすめです。
イタリアの古い画家の多くは、リンシードオイルの代わりに、地元で手に入るクルミからできたウォルナット油を使用していました。
ルネッサンス期のイタリアでは、フランドル産のリンシードオイルよりもウォールナットオイルの方が人気があり、レオナルド・ダヴィンチやジョルジョ・ヴァザーリなどがこのオイルについて言及しています。
ルネッサンス初期には、エマルジョンの成分として使用されました。
③ブラックオイル
リンシードオイル(98.5%)と酸化鉛(1.5%)で構成されており、約220℃の温度で数時間煮沸させる、昔ながらのレシピで作られています。
こちらは①〜②のオイルと異なり、画用液に添加することを目的とした速乾性のオイルです。適量を混ぜることで、塗膜の内部を乾燥させるのに役立ちます。
オイル自体にかなり強い色が付いているため、明るい色には用いず、中間色や暗い色で使用するのに適しています。
④コールドプレスリンシードオイル
⑤コールドプレスウォルナットオイル
低温圧搾法で得られる乾燥油です。
精製前の芥子の種子(イメージ)
主に顔料を練って油絵具を作るときに使用されます。
メディウムに混ぜると絵具の粘度が下がり、流動性が良くなります。
当ラボでは絵具づくり用の大理石マーラーはもちろん、大理石板、オイルカラーメディウムをご用意しておりますので、気に入った顔料の油絵具を制作することもできます。
中程度の明度の顔料にはリンシードを、明度が高い程度の顔料にはウォルナットをご使用ください。
こうして並べると一見難しいようにも感じる乾性油選びですが、そのセオリーを覚えてしまえば難しいことはありません。
水溶性の絵具と異なり、メディウムを変えることで様々な表情を作り出すことができる油絵具。
ぜひ、あなただけの絵肌と光沢感を探してみてください。