なかなか外に出ることが難しい今日この頃、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
当ラボでは、青がテーマの作品をハッシュタグ#pigmentblueproject」にてシェアしていただく、PIGMENT BLUE PROJECTを開始しました。作品は絵でも写真でもどんなものでも構いません。アートを愛する全ての人が、家で過ごす時間を穏やかに、自分を癒せるよう願っております。
そんな自宅での生活を充実させるお手伝いとして、おすすめの書籍をご紹介いたします。今回ご紹介するのは京都表装協会様によって出版された『表具の事典』です。
記事でもたびたび紹介させていただいたとおり、表具とは、日本絵画において、脆弱な支持体を掛け軸や襖、屏風などに仕立てる工程のことを指します。この表具に仕立てるという行為は、かつての西洋美術にみられるようなエルゴン(作品)/パレルゴン(作品の外、付随的なもの、二次的なもの)*1という関係ではなく、イコン画*2のように境界は非常に曖昧です。
ただ、表具と一口に言っても作品によって千差万別。国立文化財機構が運営する「e国宝」*3をみても、東洋美術には様々なフォーマットがあり、その目的に応じて仕立てが変わっていることがわかるでしょう。この『表具の事典』は、悠久の時を経て愛されてきた日本美術作品を鑑賞する上での、重要な手引きとなっております。
例えば巻物の場合、それぞれのパーツごとにこのような固有名詞がつけられています。
読者のみなさまはどれくらい答えられるでしょうか。
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この本の素晴らしいところはそれだけではありません。前述の通り、表具は画と一体となることで初めて一つの美術作品となります。そのため支持体に描かれている絵画作品についての解説も載せられているのです。例えば「源氏物語」のページを開いてみると、丁寧に解説がなされております。つまり、この本は表具だけでなく、日本美術そのものを包括的にリサーチすることができる事典なのです。
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また、付録では主要な変体仮名が紹介されております。
古来より東洋美術で「琴棋書画」という言葉があるように、書を理解することも日本美術を味わう重要な要素のひとつ。
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なんとなく縁遠いと思われがちな表具の世界。しかし表具を知ることは、日本美術を知ることと言っても過言ではありません。
美術館の閉館が続いている今、この辞典はネットで美術作品を鑑賞する上でのよきサポーターとなってくれることでしょう。
こちらの本は京都表装協会のホームページで販売しております。
また、同協会のページでは表具にまつわるあれこれが丁寧に解説されております。
ご興味のある方はぜひアクセスしてみてください。
京都表装協会
http://www.kyoto-hyousoukyoukai.jp/
*1 星野太「パレルゴン/エルゴン」artscape
*2 例えばメトロポリタン美術館に収蔵されているPaolo di Giovanni Feiによる《聖母子像》をみると、額縁が存在せず、凹凸の表現によって絵画の周辺を装飾していることがわかります。
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/437248
*3「e国宝」
http://www.emuseum.jp/top?d_lang=ja
*4 都表装協会(編).『表具の事典』(2011).p36
*5 前掲書.p137
*6 前掲書.p384-385