岩泉館長が語る4500色の顔料とその特性 vol.3

岩泉館長が語る4500色の顔料とその特性 vol.3

4500色以上取り揃えているPIGMENTの顔料棚ですが、その内訳までご存知の方はなかなかいらっしゃらないのではないでしょうか。

前回の「岩泉館長が語る4500色の顔料とその特性 vol.1」でも紹介したとおり、様々な顔料を取り揃えております。

https://pigment.tokyo/blogs/article/1


特に岩絵具の数は日本最大級の数といっても過言ではなく、天然・新岩絵具ともに様々な商品がございます。

前回は天然の群青と緑青などについて語っていただきましたので、今回は新岩絵具について話を聞いてみましょう。


ー前回、天然石を使用した岩絵具についてご質問しましたが、それ以外にも様々な岩絵具がPIGMENTにはありますね。これらは全て天然の鉱物から作られているのでしょうか。

明治以前までは主に群青・緑青などの色しかなかったのですが、明治政府による開国や時の流れを経て、昭和に入ると岩絵具の色数は爆発的に増加しました。


ーどのようなものが増えたのでしょう。

まず、海外から輸入される様々な石を使用した様々な天然の岩絵具が開発されました。ただ天然の色だけでは限りがあるため、新岩絵具というものも登場します。

「天然の岩絵具だから伝統的な色だ」と思われる方もたまにいらっしゃるのですが、それは間違いで、現在でも新しい天然岩絵具の開発も行われております。



ーなるほど、他にはどのようなものがありますか。

次に挙げられるのが新岩絵具です。こちらもその名の通り石を砕いてつくられているのですが……実は人工の石から作られているんですよ。


ー人工の石?そんなものあるのでしょうか。

はい。まず、陶器で使われる釉薬と鉛ガラスと焼き固めて人工石をつくります。それを原料の石を砕いて岩絵具を作るのと同じように粉砕してつくったものが、この新岩絵具になります。



ーなるほど、でも何故、陶器の釉薬を使用したのでしょうか。

徳島県にある大塚国際美術館をご存知でしょうか。こちらの美術館では、陶器の焼成技術を使って、オリジナルの絵画より長持ちする複製画を展示しています。それくらい陶器の釉薬は耐光性に優れているのです。そして釉薬を応用して岩絵具メーカーが独自に開発したのがこの新岩絵具なんです。

釉薬を使用しているので、色数は天然のものと比べてレンジがぐんと広がり、天然鉱石では出せなかった鮮やかな黄緑、紫、水色、黄色などの表現なども可能になりました。



ー新岩絵具だけで沢山の色数がありますね。

これは私の推測ですが、新岩絵具の発展は明治以降の開国に伴って、日本人が油絵を目にするきっかけが増えたことによるものだと考えています。

19世紀のヨーロッパではチューブ絵具の発売にはじまり、印象派の勃興やそこから展開されるフォービズムやキュビズムなど、刺激的な色彩と油絵具のこってりとした厚みによる絵画表現が台頭しました。それらの作品に負けないよう、日本でも様々な色の岩絵具が作られたのでしょう。



ー天然岩絵具と新岩絵具は表現としてどのような違いがあるのでしょうか。

さきほどお話しました通り新岩絵具は釉薬を使用しているので、天然と比べてマットな質感になります。逆に天然の岩絵具は、鉱物を使用しておりますので光の透過や反射をします。なので名前と番手が同じ岩絵具でも、輝度がまったく異なります。

天然〜人工という言葉に惑わされず、それぞれの作家さんが目的とする表現に適した岩絵具選びをしていただけたらと思います。


大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。