体質的には純植物性生松松煙と鉱物性油煙の炭素粒子の分散を抑えるため膠液で充分に均等に練り合わせ品位を具備させてあります。色彩的には紫紺系の純植物性松煙と茶系の鉱物性油煙を混ぜ合わせると紺茶系になるわけですが、膠本来の色がありますので、この三種の色が混じって一種別な色が出てまいります。それがこの墨の特長で一寸変わった紺茶系の品のよい墨色。明治、大正時代まで、奈良墨の上級品に植物性油煙に生松松煙を混合(一分さし、二分さし、半練り)したものがありました。この配分方法を取り入れた百選墨を一種つくりたいと考えておりました。当時は植物性松煙、油煙の混合で、体質的に植物性同士ですのでさほど色変化は出てまいりません。”相反した物が調和した時は美しい”という考えから、植物性生松と鉱物性油煙を調和させてみようと試作した結果、一種独特な紺茶系とでも言える、今まで中国、日本において見なかった墨色が出来ました。この墨は今回の丹鳳朝陽のみで、後は製造いたしません。年を経るに従い墨も成長し個性、特長が顕著に現れてくることと思います。製造年度:昭和63年