前回の記事でもご紹介させて頂きましたように、今月の初旬にアニメーション美術監督の山本二三氏をお招きしPIGMENT COLOR PHILOSOPHY Vol:5「くものいろ、そらのいろ 〜アナログが生み出す色彩の情景〜」を開催いたしました。
本記事では、その講演会のハイライトをご紹介いたします。
まずトーク序盤には、山本氏が参加した新海誠監督の最新作『天気の子』の話に触れながら、東洋美術における水の役割や、山水画と背景美術の関係性についてトークが展開されました。
山本氏の背景美術には山水画や日本画的な「空」の感覚が描かれていると話す岩泉館長。
それぞれの地域がもつ色の物語に始まり、様々な角度から風景画の美を探ります。
岩泉館長と風景画の美について語り合う山本二三氏。
『天空の城ラピュタ』のこぼれ話や、アメリカのアニメーション会社で背景美術を担当していた頃の話など、「色」を起点にさまざまなトークが展開されました。
山本氏自身が現場での制作を通して積み上げてきた絵への美学など、ここでしか聞けないお話が盛りだくさんでした。
トークの後は、実際に山本氏に空と雲を描いて頂くデモンストレーションが始まりました。
デモストの準備として、日本画用の絵皿に、ポスターカラーで何色もの青を作っていく山本氏。
一般的な絵画の場合、色相環順に色を並べることが多いかと思うのですが……
以下の写真のように、氏のカラーパレットは一見不思議な並び方をしています。
実はこの並び方、山本氏の主宰する絵映舎のカラーパレットとのこと。
多くのスタッフが同時進行で何枚もの絵を描く現場では、速度が命。
アニメーション背景を描く上での効率化はもちろん、他のスタッフが描いた背景をリテイクする際にも手早く作業がこなせるよう、アニメ制作会社ごとにカラーパレットが異なっているのです。
そしてこちらが唐刷毛、本来は日本絵画でぼかす表現をする際に使用される刷毛です。
半乾きのポスターカラーへ”ぼかし”の表現を与えるために使用されます。
「今は唐刷毛を使いこなせる日本画専攻の学生も少ないんですよ」と語る岩泉。
日本画的な絵画技法は、ファインアートの枠に留まらずアニメーション界にも生き付いていたとは、驚きです。
そして早速デモンストレーションのスタートです。
デザイン用の平筆で空の全体像を描きつつ、唐刷毛でぼかしの表現も行います。
あっという間に空と雲が見えてきました。次は水面を描くために、溝引きを使用していきます。山本氏による軽快なトークも交えながら、作品はどんどんゴールへと近づいていき……
そして完成です!
透き通るような積乱雲が浮かぶ夏の空も去ることながら、アニメーション化されてしまうと見ることができない、余白の筆跡や絵具の重なりも美しく、まさにアナログが生み出す色彩の魅力をライブで体験できる、素晴らしいイベントとなりました。
「PIGMENT COLOR PHILOSOPHY」では、引き続き様々なジャンルのゲストをお招きしてアートの哲学を探求するイベントを開催予定です。
情報リリースとなりましたら、当ARTICLEや各種SNSにて情報を公開予定ですので、ぜひチェックしてみてください。
【GUEST】
山本二三(写真左)
やまもとにぞう・アニメーション映画美術監督
1953年6月27日生まれ。長崎県五島市出身。子どもの頃から絵が得意で、岐阜県の高校で建築を学んだ後、東京の美術系専門学校在学中からアニメーションの美術スタジオで働きはじめる。宮崎駿監督の初演出テレビシリーズ『未来少年コナン』(1978)で自身初の美術監督を務め、以降、『天空の城ラピュタ』(1986)、『火垂るの墓』(1988)、『もののけ姫』(1997)など、美術監督として数々の名作に参加。2006年、アニメーション映画『時をかける少女』で第12回AMD Award\'06大賞/総務大臣賞を美術監督として受賞。2011年夏、「日本のアニメーション美術の創造者 山本二三展」が神戸市立博物館で開催され、来場者約8万5千人という盛況を博し、その後、全国で巡回され累計入場者数75万人を突破。2019年現在も巡回中。画集等の著書多数。2018年7月には故郷の五島市に「山本二三美術館」がオープンしました。迫力ある独特の雲の描き方はファンの間で「二三雲」と呼ばれる。五島市ふるさと大使、京都造形芸術大学 アニメディレクションコース客員教授、東京アニメーションカレッジ専門学校 講師。
絵映舎 https://www.yamamoto-nizo.com/